第19話 闘技場と俺

さて、異能が無いと分かった今。もし異能持ちと闘う時に全力が出せないと悔いが残る。

帰って鍛錬だ鍛錬。


天昇の道の拠点で戻っている途中、すれ違う2人の男の会話が耳に入ってきた。


「おい、今日の闘技場に12柱のヒバナが出るらしいぞ」

「おぉ!?マジ! これから見に行く!?」

「席空いてるかぁ…?まぁ行ってみるか」


闘技場ねぇ。そういえばあるんだったな。

その内出場もしてみたいとは思っていたし、何か今日は有名人が出る見たいだな。

どれ、特に予定も無い事だし俺も行ってみるか。


男達の後ろを着いて行くこと10数分、ローマのコロッセオとそっくりな建物が見えてきた。

近くで見るとデッカいな、東京ドームよりデカいんじゃ…。


しかし、入り口付近で様子を伺うとどうやら入場制限が掛かってるようだ。


(繁盛してんな、有名人も来てるようだし今日は無理か…)


「よぉ、そこの坊主」

「ん?」


突然話しかけて来たのは胡散臭そうな男。

なーんか、嫌な予感がするなぁ。


「誰だいアンタ?」

「なーに、坊主闘技場見に来たけど入れなかった口だろ?その格好から冒険者か?」

「…ああ、そうだけど。それが何?」

「んな警戒すんなよ、な? そんな坊主に良い話があんだよ。観れるだけじゃねーぞ、なんと闘技場に出れるんだよ! すぐ側でヒバナ見れるチャンスだぞ? どうだ?興味出てきたろ?」


うわぁ…明らかに詐欺じゃん。

暇だし途中まで乗ってやるか。


「へぇ、本当なら凄いねぇ」

「本当だって。まぁ疑うのも分かるけどよ。俺ぁこの闘技場の関係者でギルってんだ。坊主は?」

「関係者ねぇ…俺はザクで良いよ」

「そうか、ザクか。良い名前だな。ほら、詳しい話してやるからこっちこいよ」


そう言って何処かへ誘導しようとしてくるギルという男。

誘拐犯か、それともカツアゲの類か?

金目当てなら、他に良さそうなのは何人もいるし、誘拐の線が濃いか。

めんどくさ。


「あぁ、いやいいわ。怪しいし、俺はコレで-」

「おっとぉ! そう言うなって! な?ちょっとだけでも話聞いてくれよ?」


何故そんなに必死になってんだ?

ん? 額に汗…焦りからの発汗か……雰囲気を良く観察すると、この機会を逃してなるものか!という気迫も感じる。

誘拐じゃねぇな、なら何だ? ちょっと興味出てきたな。


「…そこまで言うなら、話聞くだけなら良いよ」

「おぉ! 良いのか!? いや、悪いなザク。じゃあこっちに来てくれ」


あからさまにホッとした空気を出すギル。

助かったってモロ出しじゃねぇか…キナ臭くなってきたな。


連れてこられたのは、コロッセオの裏側。選手専用の入り口?

警備の人間に話しかけて、通過する。


(あれ?マジの関係者? いや、そんな事ない。何か裏があるハズ…)


勘が外れたかと思ったら、裏口入ってすぐに左目に大きな傷をつけた男がが話し掛けてきた。うわ、絶対裏社会の人間じゃねーか。


「ギル、そいつか? 子供じゃねぇか」

「えぇ、旦那。ただの子供じゃねぇですぜ?冒険者でさぁ」

「おい、どう言う事だ?説明しろ」

「へへっ、悪いなぁザク。実はよ…」


説明を聞くと、何と今日出るハズの闘奴が逃げ出したようで、誰でも良いから騙しやすそうな奴を探してたらしい。

今日出る試合は、相手方の都合もあってどうしてもキャンセルが難しく。というか、不手際で試合ポシャったらそこの旦那に殺される。と言う事らしい。


「アンタ…俺が来なかったらどうするつもりだったんだ…?」

「は?そんなもん逃げるに決まってるだろ? っ!いや、旦那!冗談ですよ冗談…へへ」

「はぁ…というか、俺がいきなり出ていいのかよ?何かあるんじゃねーの?登録とか?」

「ああ、その辺は大丈夫だ。ぶっちゃけ誰でも良いんだよ」

「どういう事だ?」

「俺が説明しよう」


旦那と呼ばれた男の話によると、相手は他の街から遠征してきた強い選手で、この街を今後拠点にするようで、強さをアピールする為に噛ませ犬と闘いたい希望があったらしい。

そして、向こうの選手の出資者が同じく裏の人間で今回結構な金が動いてるので試合キャンセルは御法度とのこと。


(ふーん…この男がスポンサーで、ギルが選手マネージャーみたいな感じか。そりゃ、選手用意出来なきゃ責任取るのはギルだな) 


「相手は強いの?」

「あぁ、向こうじゃ相当だったらしいぞ。戦績はどうだったか…?」

「確か、10戦7勝でランキング7位の強豪だったはずですぜ?」

「そうか、強いな…。だか、もう逃すわけにいかん。この際試合が成立すれば何でも良い。心配するな、殺されはしないはずだ」

「へへへ、悪いなザク。そういう事だから頼むわ」


いや、酷い奴等だな…俺が普通の子供だったらどうすんだよ…

試合に出ることは正直問題ないし、楽しみではあるんだが、大事な事聞いておかないとな。





「それ、俺が勝ってもいいんだよな?」




 

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