第38話 死へのダイブ

通常の人間ならば耐え切れないほどの勁をぶち込んだのに立ち上がるとはタフ過ぎる。

だが、確実にダメージはある。ここは押し切る。


立ち上がったオズマに接近を試みるも、オズマは両腕を振り回し牽制。

普通なら腰の入ってない振り回した腕など無視する所だが、こいつの場合は致命傷になりかねない。


一定の距離を保ちつつ、オズマの脚にローキックを放つ。


「グガァァァ!効かねぇんだよそんな蹴りはよぉ!!」

「俺にその自慢のパンチを当ててから言え」

「このクソがァァァァ!!」


ますます暴れるオズマ。

嵐のように繰り出されるオズマの腕だが、はっきり言って予備動作が大きく、これ以上ないテレフォンパンチ。

当たる気がしない。


チクチクとローキックやカーフキックで脚に攻撃を加える。

そして、オズマが踏み込んだ時カウンター気味のカーフが決まる。

蓄積されたダメージで思わず膝をつくオズマ。

頭が下がる。


(勝機!)


オズマの下がった顔に走りながら右跳び膝蹴り、そのまま空中で走るように前後の脚を入れ替え左跳び膝蹴りを叩き込む。


(良し、入った-っ!?目が死んで無い!?)


「ガアァ!!」


2段跳び膝を喰らい、仰け反った体制からオズマは腕を振り回す。

空中に居る俺は身動きが取れない。


(躱せない!)


オズマの反撃の右拳を両手を十字にしつつガード。


【仙気法 鋼体術】


「グッ!」


ゴムボールのように弾け飛んだ俺は、山壁に叩き付けられる。

山壁にヒビが入る程の衝撃。

背中を強く打ち、呼吸が出来ない。気が練れない。


そのままオズマは追い討ちのタックル。

地面を転がりながら、間一髪追撃は免れた。

オズマはそのまま山壁へタックルする形になり、破壊される壁。


(あれを喰らってたら死んでたな)


鋼体術でも防げない、圧倒的な破壊力。

折れた左腕が痛みを訴える。

開放骨折には至って居ないが、左腕が腫れ上がり動かす事が出来ない。


「クハハ!どうだ!!その左腕はもう使えねぇだろぅ!!」

「お前程度には右だけで十分だ」


左腕はもう使えない。

この怪物を相手に、このハンデはキツいか…。


「ふむ、惜しいのぅ」

(まだ未熟な身体じゃ、アレではオズマを倒すには威力が足りぬ。惜しいのぅ、やはり何とかワシが預かる方向で動くかの。

此奴は途轍もない逸材じゃ。失うには惜しい。

ダミアンの奴は些か強引過ぎるからのぅ)



「オラァァ!」


相変わらずブンブン振り回してくるオズマ。

離れての攻撃では、決め手に欠ける。

死中に活を見出すしか無い!


振り回される腕を掻い潜り、懐に潜り込む超接近戦。

ここまでくると小さい俺の方が自由に動ける。


「ちぃっ!!」


纏わりつかれるのを嫌ったオズマがバックステップで距離を空けようとするが、磁石のように張り付く。

オズマの喉への突き、流れるように顎へカチ上げる肘撃ち、鳩尾に肩を預け相手の両足の間に深く踏み込み、持ち上げるように斜め上に力を乗せる。


【拳撃法 正中連浮倒せいちゅうれんふとう


いくら筋肉の鎧があっても防げない場所への連撃。

オズマの身体が浮く。


「シィッ!」


更に水月へ右正拳突き。

当たった瞬間、肩を入れ、腰を回し、後ろ足で地面を蹴り身体の奥へと衝撃を通す。


全ての動作が刹那に行わなければこの技は出来ない。

正対し打ち込み、打ち終わりは相手に対して横向きになるほどの捩じ込み。



【拳撃法 絶技 裏通し《うらどお》】


吹き飛ぶオズマ、地面に横たわり動かない。

恐らく意識は飛ばした。


(ここで殺す)


だが、邪魔が入る。

今まで静観を決め込んでいたオウガイがオズマと俺の間に割り込む。


「邪魔だ!どけっ!」

「まぁ、そうもいかんのじゃよ」


オウガイの佇まいに隙は無い。

間に割り込んだ動きも見えなかった。


この老人の体術は俺よりも……。


だが、関係ない!

ほぼ俺と同じくらいの体格。体重差は無いだろう。

蹴りを受けさせ動きを止め、オズマへ抜けるっ!


右の回し蹴り、オウガイは腰を落とし受ける構え。

このまま押し込むように蹴り付ける!


だが、オウガイの身体に蹴りが触れた途端、俺は宙に待っていた。


(馬鹿な!? 合気だと!?)


この世界に存在するのか?

いや、事実今の感覚は俺の力の流れを利用した合気道の技に違いない。


宙で一回転し、着地する。


「…何故その技が使える?」

「ほっほ、お主も似たような技を使うじゃろ?ワシも使えるというだけよ」


…今の合気の技の冴え。間違いなく俺よりも上手い

厄介だな、このままではオズマが立ち上がってしまう。


「お主、やっぱり大人しく捕まってくれぬか?何名も殺してしもうたから罪は償わけりゃいかんがな。ココで死ぬ事もあるまい」

「…聖神教は俺を殺すつもりだろうが」

「まぁ、ダミアンは頭が固いからのぅ。なに、ワシが間に入ればなんとかなるじゃろうて」


大人しく捕まれだと?

処刑されるのを何とかするだと?

ふざけるなよ……


「…ふざけるなよ。俺の…俺の母も村の皆も皆殺しにしておいて!!何を言っている!!!」

「なんじゃと…!?」

「首謀者のダミアンと聖神教は許さん。それに与する貴様らも許さん」

「……聞いておらなんだ。そうか、そんな裏が」

「詳しくはそこのローブの奴らにでも聞け」


今この状態でこの老人を相手取るのは難しい。

一旦退かねば…。


「…俺は捕まる訳にはいかない」

「しかしのぅ…この状況では捕まるしかないのではないのか?」

「…これは賭けだ。俺は生き残る」

「ぬ…?」



会話を切って、吊り橋方向へ走る。

ローブ集団は渡らせまいと道を塞ぐ。

が、90度方向を変え、崖下へダイブ。やはり、川が流れている。

50m以上の高さ、通常では助からないが鋼体術を使い衝撃に備える。



「…この高さでは……よほど運が良く無いと助からんのぅ」



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