第37話 発勁が完全に入ったのに

「グハ! 殺り合おうだぁ!? 馬鹿が、これから起こるのは俺がおまえを一方的にぶちのめすだけだ!」

「そうだといいな、単細胞」

「殺すっ!」


いきり立ったオズマは突っ込んでくる。

大振りの右、やはり単純。見え見えの攻撃。

後ろに躱して反撃を喰らわせてやる。


と思って身構えるが、ピリっと静電気のような感覚が疾る。


(何かヤバい! 跳べっ!)


最小限の回避から、大きく後ろに跳んで回避。

オズマの拳は空振りし、地面を叩く。


その瞬間、まるで交通事故のような爆音と共に弾け飛ぶ地面。

飛散した石などの破片が俺に襲いかかる。

冷静に叩き落とすも、躱しきれない破片で傷を負う。


(擦り傷だが、なんだこの破壊力は…人の出せる力か!?)


殴られた地面は大きく陥没し、小さなクレーターを形作る。


なるほと、【破壊】のオズマとは良く言ったものだ。これが奴の異能か。

シンプルだが強い、明確な弱点は無い。


オズマはまたしても突っ込んでくる。

俺は前蹴りで距離を取ろうと繰り出すが


(固い!)


突進を止めるつもりが、止めきれず飛ばされてしまう。

クソ、防御も高いのか。

山の壁へ叩き付けられるが、鋼体術でカバー。


「ほぅ!やるのぅ」


ちっ、ダメージは無いが体制が崩れた。

そこへ殺到するローブ集団。


だが、意外な事に襲い掛かろうとしたローブ集団をオズマが殴り飛ばす。


「邪魔だ」


身体がひしゃげて人が玩具のように飛ぶ。

とてつもない膂力。


「…仲間なんじゃじゃないのか?」

「こんな雑魚共は俺の邪魔でしかないんだよぉ!俺の邪魔をする奴は殺す!」

「やれやれ、お主らわかったじゃろう?大人しく見ておれ」


老人の方は精悍を決め込んでいるな。

2人掛かりだったら危ない所だったな。


さて、この筋肉馬鹿の能力はある程度割れた。

とてつもない膂力が武器。動きは素人に毛が生えた程度だ。

格闘技にはなっていない、単純な力だけでは超えられない技ってやつを見せてやる。


ゆっくりと歩いてオズマに近付く、訝しむオズマ。

既に手を伸ばせば届く距離。

俺からは手を出さない。ほら、どうした?


焦れて待ちきれなくなったオズマが動き出そうとする、その行動の起こりを感じて俺はオズマの顔面に拳撃を数発叩き込む。

反応が出来ずに蹈鞴たたらを踏むオズマ。


ダメージはほぼ無いだろうが、見えなかっただろう?


また、歩きながら近付く。今度は投げの間合。

先に動くのは不味いと思ったのか、我慢をしていたが、もうすぐ近くに的があるため、やはり我慢出来ず俺を捕まえようと動こうとする。


やはり、読み易い。

動く気配を感じた瞬間に、素早く体制を低くし、足捌きで後ろに回り込む。


オズマからしたら、消えたように見えた事だろう。

ガラ空きの後頭部に飛び蹴りを喰らわす。

見えてなかったオズマは地面に倒れるがすぐに起き上がる。


「ガアァ!!ちょこまかと!!」

「良い的だな、筋肉バカが」

「ガアァァァァァ!!」


また大振りの右。

受けるのは無理だ。受け流す。


【身転法 流水】


オズマの右拳を左腕で待ち構え、触れる寸前で左腕を回し軌道を変化させる。


「む、それは悪手じゃ」


触れた瞬間、異常な力を感じた。

だが、もう躱せない。このまま受け流す!

なんとか、受け流し体制の崩れたオズマの胴体を蹴り付け、反動で距離を取る。だが受けた左腕に激痛が走る。


(左腕が折れた…いや、ヒビで済んだか…)


受け流しのタイミングは完璧だった筈。

老人の言った悪手とはこう言う事か…。


奴の攻撃に触れた者は等しく破壊される。

それほどの力。


「ジジイ! どっちの味方だコラァ!!」

「すまん、ついの」


折れた左腕に気を集中。

短く呼吸を繰り返し、痛みを軽減。

まだ、大丈夫だ。動く。問題ない。

 

受け流しは不可能か…。まぁ、良いこの程度のダメージでそれが分かっただけでも僥倖。


瞬歩で迫る、オズマは反応出来ていない。

やはり体術はミストラより下。つまり俺よりも下。

そこに付け込む。


身体は筋肉に覆われており、生半可な打撃ではダメージは見込めない。

が、やりようはいくらでもあるんだよ。


右の掌打をオズマの顎に、左の掌打をオズマのこめかみに挟み込むように放つ。


【拳撃法 挟捻首きょうねんしゅ


顔の上下に左右から打撃を叩き込まれ、首が捻れる。

普通の人間なら、首の骨が折れる打撃だが鍛えられたオズマの首は折れない。

だが、脳は揺れる。


脳震盪により立って居られなくなるオズマはその場に膝をつく。


「凄いのぅ。オズマよ、変わってやろうかの?」

「う、うるせぇジジイ!! こんなもの効いちゃいねぇ!!」


立ち上がるオズマだが、ふらついてるぜ?

追撃を仕掛けるために疾る。

オズマは蹴りで迎え撃とうとするが、明らかに力が入っていない。


(それでも受け流しは危険か…)


急停止し俺の胴体の前を通過するオズマの蹴り。


(外は固いが、中はどうかな?)


オズマの胴体に右手を当て、震脚。

練り込んだ気を叩き込むと同時に掌に捻りを加えさらに内部への貫通をさせる。


【仙気法 捻靠勁撃ねんこうけいげき


俺の発勁をモロに喰らったオズマは、白目を剥き崩れ落ちる。


「…次はアンタだな」

「そうかの? 奴は腐っても12柱ぞ、甘く見ないほうがいいのぅ?」

「何だと?」


背後でオズマが立ち上がる気配。

その場から跳び、距離を取る。


(馬鹿な…完璧に入ったぞ…?)

 

「グバァアア! デメ゛ェはもう殺すっ!」


胃液を撒き散らせ叫ぶオズマ。

まだ、戦いは続く。

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