第11話 旅立ち

5年経ち、俺は10歳になった。


初めてゴブリンと闘ったあの日から鍛錬は欠かさず行い、身体も大きくなった。

あの後、ガーマン兄弟は大人しく、兄弟揃って去年村を出て行った。

明日には俺も村を出る。去年から母と話し合いをし、何とか納得して貰った。


「男の子だものね、村の外に出たい気持ちはわかるわ。でも定期的に帰ってくるのよ?」


母を1人残す事は心苦しい部分はあるが、この辺りは5年前に比べても随分平和になった。

修行の一環としてこっそり魔獣や魔物と闘ったりしていたしな、今では見つける事も難しいくらい数は減っている。


合同試武祭にも出てみたが…ありゃ本当にお祭りって感じだったな。

真に武を競うって訳じゃなく、交流会みたいな感じだった。一度7歳の時に出場してあっさり優勝してから興味は失せてしまった。子供同士の喧嘩の延長みたいなもんだったなぁ。


「あ、ザク。今日も鍛錬?」

「ああ、カイルか。そうだな、明日には村を出るから今日は軽めの調整だな」

「付き合うよ」


カイルはあれから、オドオドする事が少なくなった。俺の事を君付けで呼ばなくなったしな自信がついてきたのかもな。

背丈も随分大きくなったのも自信の1つか、俺よりもまだ頭1つ以上大きい。俺も大きくなってきたはずなんだが…こいつ前世は巨人か何かじゃねーのか?


そんなカイルだが、ガーマン兄に勝った俺に刺激を受けたのか、ちょくちょく俺の鍛錬に付き合う事もある。

俺も多少教えたりしてるから、あの時のガーマン兄よりも強くなっている。今後の村はコイツに任せよう。


せっかく2人いるのだから、カイルと組み手をするか。

といっても、動きを確認するための組み手でお互い出来るだけゆっくりと動いて、軸がブレていないか、力の伝わり方を復習するものだ。

以外と結構疲れるんだよねコレ、カイルはしばらくすると汗だくになっていた。


「はぁ…はぁ…休憩させて…ザクはやっぱり凄いね。汗かいてないじゃん」

「まぁ、いつもやってるからな。慣れだよ慣れ」

「それだけじゃない気がするんだけど…」


こちとら、70年以上やってるからな。

さて、息を整えて締めに内功を練りそれを外に展開する。


「カイル、良いぞ」

「これ、何回やっても慣れないんだけど」


カイルは太めの木の棒を振り被り、俺に向けて横薙ぎにフルスイングする。

俺はそれを微動だにせず受けると打ち込んだ木の棒が音を立てて折れる。

仙気法 鋼体術

左腕をゴブリンに切り付けられたあの時とは比べ物にならないほど気が練れている、今ならナイフでは擦り傷位しか付かないだろう。


「うん、まぁ良し」

「…それどうやったら出来るようになるの?」

「そうだなぁ…」


まぁ見た目派手だし、実用性もあるし覚えたい気持ちもわかる。パフォーマンスとしてやってる人もいるしな。

流石にすぐには出来ないからなぁコレは。




「10年修行したら出来るようになるんじゃね?」





---


「じゃあ、行ってくる。キリのいいとこで帰ってくる」

「行ってらっしゃい、ザク。身体に気をつけてね」



予定通り俺は村を出る。

母は優しく、俺を大事に育ててくれた恩がある。

必ず、その恩に報いるために1つ頑張ってこよう。


「仕送り送るから、長生きしてくれよ」

「ふふっ、無理しないでいいのよ。ザクこそあまり危ない事はダメよ」


母に見送られ家を出る。何も今生の別れな訳じゃ無い、とりあえず目指すはファルトの街だ。

そこで、冒険者になっておくのが目的か。


「当面の目標は、そうだなこの国で最強を目指そう」


ゆくゆくは、人類最強と呼ばせてみせる。





---


村を出て3日程、明日には街に着くだろう。

今日はココで野宿かな。

小枝を拾って、焚き火を起こしてっと。今日獲れた野鳥を焼いて晩飯だ。


「しかし、何も出てこないな…物語なら凄い魔物やら、野党やら出てくるもんだろうに。順調過ぎて暇だな」


村と街を結ぶ街道から外れた森の中、あまりに暇で独り言が多くなってきたな。

この数年、近場の魔物は斃してきたから住み着かなくなったのかね。


そんな事を考えていた矢先、街道から馬の嗎が聞こえた。


「これは、もしかしてさっき考えていた展開あるかも!」


焚き火もそのままに急いで行くと一台の簡易的な馬車の前に1匹の狼がいた。

どうやら、いきなり現れた狼に馬が驚いただけのようだ。


「なんだ、野党とかじゃないのか…」


ガサガサと音を立てて街道に出ると狼は逃げていった。

逆に行者のオッサンが俺を見て野党かと思ったらしくびっくりしていた。

子供である事がわかると、すぐに落ち着いたようで話しかけてきた。


「坊主、こんなとこでどうした? 迷子か?」

「いや、ファルトの街まで行く途中。馬の鳴き声が聞こえたから、野党かと思って駆け付けたけど全然違ったわ」

「ははは、そうかそうか。助けてくれようとしたのか。ありがとうよ。俺もファルトまで行くんだが、乗ってくか?」

「いいの? じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。あ、焚き火そのままにしてたからちょっと待ってて」

「おう、とりあえず自己紹介だ、俺はヨウニ。見ての通り商人だ。坊主は?」

「俺はザクルード。ザクで良い。見てもわからないかも知れないけど俺は-」








「人類最強の男だ」

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