第8話 殺し合いは突然に

ドロップキックを決めて、立ち上がりガーマン兄を見る。

うん、動いてるから気絶はしてないようだが立てそうに無いな。


「俺の勝ちだな。ガーマン、今後弱い者イジメしてる所見たらなら俺が出るからな?」

「く、くそ…ザコザクのくせに…」

「いい加減理解しろ。このままお前とやってもいいん-」


その時、林の奥から飛び出してくる気配が4体。

俺と同じ位の身長、頭髪はなく歪な目鼻、尖った耳に緑色の体色。明らかに人間では無いと分かった。

手にはナイフを持っている。


「なんだ?コイツら」


これが魔獣ってやつか。

北側は狩も終わって安全かと思っていたが、残りがいたのかね。


「ゴ、ゴブリンだぁっ!!」

「うわぁ!魔物だ!! 逃げろぉ!」


魔物? 魔獣とは違うのか。

そんな事考えていると、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す子供達。

すると、反対側からは3人の男女が飛び出しきた。


「おい、お前ら早く逃げろ!」

「危険だぞー、早く早くぅ」

「…」


1人は短め赤い髪をツンと立てた若者、革の鎧のような物を着込み長剣を手に持ち駆けてくる。

余り危機感の感じない喋り方の女、長い金髪を後ろに一纏めにし弓を構える。

一言も喋っていない、青髪の大柄な男。金属の鎧に身を包み大きな盾とハンマーを持って走ってくる。


ああ、冒険者って奴か。ただ若いな、全員17、8くらいじゃないのか?

この世界じゃ、こんな若いウチから働くんだなぁ。

魔物を見たのは初めてだが、冒険者を見るのも初めてだ。

って、感心してる場合じゃねぇな俺も逃げるとするか。


「あー、あの大きい子まだ動けない見たいー」

「ヤベェ! サシャ狙えるか?」

「ちょっと遠いかもー」


未だに倒れて起き上がれないガーマン兄を良い餌だと思ったゴブリンが襲いかかろうとしている。

仕方ねぇな動けないのは俺のせいだし。

逃げる脚を止め、魔物側に向き直す。


「お、おい! 何してる!?」

「早く逃げてー!」


冒険者はまだ距離があるな、このままじゃゴブリンがガーマン兄に殺す方が早いだろう。

ほら、ナイフを振り下ろそうとしてる。

深呼吸を一度行い、息を止め短く吐き出す。


膝の力を抜き、重力に逆らわず地面に膝を着きそうな位まで脱力。少し前のめりに倒れるようなイメージ。

ギリギリの所で脚に力を込め垂直方向に倒れる力を水平方向へ変える。


【動体法 縮地】


客観的に見たら俺の動きは、倒れると思ったらいつの間にか移動していた。ように見えるだろう。

一瞬とはいかないが数瞬で10mほど離れていたガーマン兄の元へ到着。

ゴブリンはいきなり現れた俺に驚いていたが、そのままガーマン兄を攻撃するつもりのナイフを振り下ろす。


【仙気法 鋼体術】


内功を練り、左腕で受ける。

本来であればちっぽけなナイフ程度では傷付かずに受けれるのだが、前世を思い出してまだ4日では内気の総量が足りていない。

骨までは達していないが、左前腕をそれなりに深く切り付けられてしまった。


「おい、ガーマン兄。早く逃げろ」

「ヒッ…! うわぁぁぁ!」


覚束ない足取りで何とか離れて行くガーマン兄を背後に、俺はゴブリンと向き合う。

醜悪な顔付きだな、前世のゲームそのままだなコイツは。


「ゲヒヒッ」


大きい獲物は逃げてしまったが、より弱そうな小さい奴が現れて嬉しいってか?

手傷も負わせたし、捕食する気満々じゃねーか。

お前をこれから嬲り殺しにするって感じだな。反撃される事は微塵も思って無いようだ。

気に入らねぇ。


「気に入らねぇな、気に入らねぇよ…」


両手を広げ、飛び掛かるゴブリン。

そのナイフで刺そうしてるんだろうが、そうは問屋が卸さねぇ。

相手が対応できる内に飛び上がるのは悪手だぞ、魔物には理解出来ないかもしれんが。


ガラ空きの水月にカウンターの横蹴りを一閃。

吹き飛び、嘔吐するゴブリン。

その間に、近くのもう1匹に狙いを付ける。

まさか、小さい子供に仲間がヤられるとは思っていなかったのか、動きが止まっている。


「隙だらけだ」


顔面にフラッシュジャブ、痛みに顔を抑えている間に左ボディ、今度は腹を抑える事になり顔が空く。

打った左を今度は顎を引っ掛ける形で掌底。

脳震盪を起こし、垂直に崩れ落ちたゴブリンの後頭部を踏み抜く。

まずは1匹。


未だに嘔吐し土下座状態で悶絶しているゴブリンに向かって跳ぶ。


こうやって、動けない相手に対しては跳ぶって選択肢が生まれるんだよ、あの世で後悔しな。


そのまま両足で思い切りスタンプ。

あと2匹。


と、思ったら冒険者の動きも早く既に残りは片付けられていた。

1匹は剣での一閃、もう1匹は離れた所から弓で射抜かれていた。

中々の腕前だな。


「大丈夫か?」

「あー、ありがとうございました。助かりました」

「いや…腕の傷を見せてみろ」


青い液体が入った小瓶を取り出す、赤髪の冒険者。

回復薬みたいなもんかな。

敵じゃないだろうし、ココは黙って従っておこう。


腕に液体を振りかけて貰うと、それなりに深かった傷が見る見る塞がっていく。

凄いな、こんな即効性のある薬とは流石異世界。


「他に逃げ遅れた子供はいないようだな」

「大丈夫ー?」

「…」


ううむ、囲まれてしまった。

考えてみると、子供が魔物に立ち向かうのは異常だろうなぁ。

でも仕方なくね? 嫌いだけど、ガーマン兄が死んでしまうとこだったしな。

怒られそうだし、早く逃げ出したいんだが無理そうだなぁ。


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