第27話 意外な決着と神父様

5分ほど経っただろうか、もしかしたら1分くらいしか経ってないのかも知れない。

身体が痛い…まだやれる…ほらまた顔殴られた…まだ闘える…倒れたい…まだいける…強い勝てない…俺は強い…まだ…まだ…まだ…



「とてつも無い試合っ!かれこれ10分程経ちましたがまだ2人とも立っている!闘っている!何が彼らをそこまで動かすのかっ!?」

「両者何度も決定的な攻撃を喰らってますし、いつ倒れてもおかしくないですよ…これは」

「あぁ、ザクルード選手が蹴り飛ばされた!だが、すぐに立つ!疾る!素晴らしい闘争本能ぉ!!」

「ザクルード選手が攻撃を喰らう比率が大きくなってきましたね、このままでは…」



---


かつて、これほどの強敵はいなかった。

間違いなく、今までで最強の相手。だからこそ、コイツを倒せば俺は強くなれる。強くなった証明になる。


「ぐぅ…何故君はそこまで…」

「ハハハハハ!まだ、まだ俺はやれるっ!」

「笑うなど…狂人がっ…」


おや、動きが少し悪いぞミストラ。

力が入りすぎてる、見え見えのテレフォンパンチだ。

ほら、カウンターだ。異能使ったな?なら、ガラ空きのボディだ。


効いたろ?効いたな?

畳み掛けてやるよ!


しかし、俺も限界が近い。膝が笑ってしまい朝に力が込められず、つまづく。


-あ…



---


実は、この試合こっそりと12柱が3人観に来ていた。

火焔かえん】のヒバナ

神技しんぎ】オウガイ

敬虔けいけんなる】ダミアン


「確かにあの小僧、ヒバナの言う通り前代未聞じゃな…」

「私もココまでとは思ってなかったよオウガイ老」

「あと、10年もしたら間違いなく12柱入り。ワシを超える器じゃの」

「オウガイ老がそこまで言うとは…やはりとんでもない才能ですね…」

「のぅ?ダミアン。お主はどう見る?」

「…えぇ異常ですね……あの年でこれほどの強さ…計り知れません」


12柱の1人、ダミアンは他の2人とは違った意味でザクを見据えていた。


(あの年でこの強さ。まるで伝承に記されたかのような存在ではないか。何よりあの狂気…危険だ)



---


-あ…


喰らったのは見えない蹴り。膝が落ち、体制が崩れたのを見逃さない側頭部への一撃。

景色が歪む…倒れる…


「き、決まったぁ!強烈な蹴りぃ!!ザクルード選手遂に動かないぃ!」

「た、立ってくれ!ザクルード選手!君に賭けてるんだっ!!」

「えぇ…また賭けたんですか…?しかし、これで決ちゃ---え?」


「な、何故君は今ので立てる!?」

「……ニヤ」

「っ!笑うなっ狂人!!僕は12柱だっ、負ける訳にはいかないっ!!」


額に血管を浮かべて叫ぶミストラ。

毛細血管が切れたのか、その目から血が滴り落ちる。


---


「む!? ミストラの奴め異能を使い過ぎだ。死ぬぞ」

「止めるぞい、ヒバナ、ダミアン」


ミストラの前面の空間が大きく歪み、同時に俺の周りの空間も大きく歪む。


(…全、包囲の…攻撃…)


「ぐら゛え゛ぇぇ…っ!!!!」


その瞬間ミストラが白目を剥いて気絶する。

いつの間にか、ミストラの傍らには老人の姿と燃えるような真紅の髪をした女性。


俺は、神父の格好をした大男に支えられていた。

そこで意識が途切れた。



「ええぇぇ!? 乱入!乱入ですっ! 12柱が乱入ぅぅ!!」

「これは、一体どうした事でしょうか…?」

「おや!? オウガイ老師がこちらへ来ますっ!」

「説明させてくれるかの?」

「っはいっ!どうぞっ!!」


「あー、ワシはオウガイじゃ知っとる人が多いとは思うがの。何故乱入したかと言うと、ミストラは異能の使い過ぎで身体に負担がかかり過ぎて死ぬ所じゃった。だから、止めにはいったんじゃよ」

「なるほど、という事はっ!?」

「うむ、流石にココで12柱が欠けるのは見過ごせなんだ。勝者は小僧の方じゃな」


「何とぉ!意外、意外な決着ぅ!勝ったのはザクルード選手!! またしても大番狂わせぇ!!!」

「やった!ありがとうザクルード選手!!」



決着がついた事で、観客が叫び出す。


「「ウオオォォォー!」」

「やったぜ!勝った!!」

「くそっ!ふざけんなっ!こんな勝負は無効だっ!」

「金かえせっ!」「そうだそうだ!」

「ばーか、負け犬が!俺ぁ大儲けだぜ!」

「なんだとテメー!」「ああ!?やんのか?」


「お、落ち着いて下さいっ!皆さん、落ち着いてっ!! 警備の方ーっ!?早くー!」

「ふふふ…前回の負けを帳消しにして余りある儲け…ふふふ…」

「ちょっとぉ!ニヤニヤしてないで、観客を止めてぇ!!」



---


緊張の糸が切れ、疲れ切った表情でサルヴァはソファにもたれ掛かる。


「…まさか、本当に勝つとは……」


サルヴァは内心は無理だと思っていたが、淡い期待はあった。

だからこそ、今回の勝負を受けたのだった。

そして、結果はやはりサルヴァの勘が正しかった。


「…ククククク、やってくれたなザク! これで俺がこの街の裏の支配者だ」


---


気絶したザクを緊急処置室に運んだダミアンは、ベットに横たわるザクを見下ろしてした。


(伝承通りだとしたら、ここで滅するべきですね。堕ちてからでは遅いのです。全ては神の御心のままに)


神に祈りを捧げ、ダミアンがザクを始末しようとした時。処置室の扉が勢いよく開かれ、冒険者が雪崩れ込んでくる。


「ザクっ!無事かっ!」

「ザクー?大丈夫ー?」

「……騒ぐな」


(冒険者ですか、仕方ありません纏めて滅するしかありませんね)


だが、雪崩れ込んできた内の1人に見知った顔がいた。


「っ!? ダミアン様!!」

「あなたは、ロジック司祭でしたか。彼の知り合いですか?」

「え、えぇ…ダミアン様は何故ここに?」

「何、先程の試合に乱入してそのまま彼をここに連れてきたところですよ。あなたも観ていたのでしょう?」


(神よ、今では無いという事ですか)


「では、私はこれで」

「はい、ダミアン様もザクさんを運んで頂きありがとうございました」

「いえ、全ては神の御心のままに…」


処置室を出て、人もまばらな廊下を歩くダミアン。

廊下を歩み続け、周りから人が居なくなったのを見計らい呟く。


「来なさい」


すると、誰も居なかったはずの廊下。ダミアンに跪く人影が現れた。


「ファルトの教会を調べなさい」

「はっ」


返事をするや否や、影は景色に取り込まれるように消える。

影は聖神教の暗部、異端糾問局いたんきゅうもんきょくの人間。

12柱のダミアンは、糾問局のトップでもあった。







物語は動き出す。

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