何処までも昇りつめたい物語〜異世界でも最強を目指す男〜

@ushi9

第1話 最強の男 死す

【強くなりたい】

そう思ったのはいつからだっただろうか。


小さい頃、なんとなく始めた空手。特にやりたいという訳ではなく、良くある習い事として始めたもの。

多分才能があったんだろう、始めて1ヶ月かそこらで出場した大会。小さな大会ではあるがそこで優勝することが出来た。特に苦戦もしなかったし、嬉しいには嬉しいが最高かと言われるとそこまでではなかった気がする。

思えば、転機が訪れたのは次に出場したそこそこ大きな大会。まだ空手を始めて半年も経って無かったと思う。


嫌な奴がいた。


年齢は2つ程上だったから10歳だろう。聞くところによるとかなり有名な奴で、神童だ天才だの持て囃されていたらしい。

ただ、それを鼻にかけいばり散らすような奴だった。まぁ、子供だから仕方ないのかもしれないが当時はそんな事は思えなかった。

同じ道場の友人とロッカールームで着替えている時の事。


「おい、お前ら。そこは俺が使うロッカーだ。どけ!」

「なんだよ、アンタ。他も空いてるだろ?そっち行けよ」


口答えした俺が気に入らなかったんだろう、いきなり殴られた。少し鼻血が出るくらいの強さ。


「俺を誰だか知らないのか?雑魚は隅っこで着替えてろ」

「……」


やり返そうとした俺を友人が止めて、その場は収まったが、俺のイラつきはかなりの物だった。

運良くそいつとは3回戦で戦う事になった。

そりゃあ、ボコボコにした。天才だなんだ言われていたけど大した事無かった。が、力が入り過ぎていたのか拳を骨折してしまい、その大会は棄権となった。


自分を強いと思ってイキがっている奴を叩きのめす。

快感だった。

俺も性格では人の事言えないくらい性悪だった。


そこから、強いと言われてる奴と戦いたい、打ちのめしたいと思うようになったんだろう。

勿論、強いと言われてる奴が全員嫌な奴だった訳ではなく、良い奴もいた。

が、やはり強い奴に勝つのは快感だった。


「もっと強いのいねーかな」


負けた事はなかった。


中学に入り、空手部が無い学校だったので道着繋がりで柔道部に入った。空手も道場で続けており、二足の草鞋だった。

最初こそ投げるということに慣れて居なかったが2、3ヶ月もすれば部内で一番強くなり。2年の時には全国大会で優勝もした。

空手のほうは一年の時から二連覇だ。


高校に入り、今度はボクシングを始めた。

空手も柔道も飽きてしまい、推薦の話も相当あったが断った。

プロを目指し、空手の経験もあってすぐにプロになり、高校3年の時には東洋太平洋チャンピオンに、卒業後本格的にボクシング漬けになり19歳の頃には世界を獲った。


負けた事は無かった。


そこから、格闘家として色々やった。

総合、キックボクシング、ムエタイといったメジャーな格闘技は勿論のこと中国拳法やシステマ、サバット、シラットといった少しマイナーなものまでありとあらゆる格闘技に手を出した。

全て数年で極めたという所までいったし、闘えば全部勝った上殆ど苦戦もしなかった。

【人類最強の男】なんて呼ばれていた。


しかし、老いには勝てず齢50を超えた頃から身体が衰えていく日々。遂に病に倒れてしまった。


「悔しい…もっと…まだ俺は強くなれる…なりたい…まだこの世には強いと言われている奴がいっぱいいるのに…願わくばまた最初から、もっと効率的に……」



享年68歳。

アマチュアからの戦績を含めると1184試合無敗。

格闘技界の至宝はこの世を去った。





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