第25話 12柱の異能
相手の圧に押されるなど、前世を顧みてもほぼ無かった経験だ。
俺は右手を顔の横に上げ、左手を前に出したオーソドックスな構え、対してミストラは両手を軽く広げた自然体。
余裕が伺えるな。さっきの一合で見切ったとでも?
今度はこちらから仕掛ける!
瞬歩で近付き、左での中段突き。
一瞬目を見開いたミストラだが、冷静に突きを内から外へ受け流す。
休ませる間もなく右足でのミドル、ガードしようとしたミストラの動きを見て途中で下段へ変化させる。
ローを貰ったミストラが一瞬止まる。
そこを見逃さず、両の掌を腹部に添えつつ、跳び込むように懐に潜り込み、着地と同時に斜め上方に掌打を撃つ。
(飛べ)
【拳撃法
大きく飛ばされるミストラだが、手応えに違和感。
こいつ、自分から跳びやがった。
だが、状況はこちらが有利。
空中で体制を整え着地しようとするミストラに追い打ちをかけるべく詰める。
が、突然の左からの衝撃に顔が大きく弾け、追撃の足が止まる。
(殴られた…!? 間合いの外だぞ…?)
ミストラは着地を決め、掌打を喰らった腹を埃を払う仕草をする。
「聞いてはいたけど、本当にとんでもないね」
「……どうも」
「次はこちらから行くよ?」
開始時より疾い動きで向かってくるミストラ。
疾い。が、直線過ぎるぜ?
最初と同じように左拳でのカウンターを狙う、今度はより深く踏み込む!
が、踏み込んだ瞬間、ミストラが右へステップ。
(フェイントか、その程度は見えてる)
左拳は打たずに止め、身体の軸をミストラに向ける。
ミストラは右へステップの流れのまま左脚での回し蹴り。ガードしても体格差で受け切るのは難しそうだ。
左腕で相手の蹴りを迎え入れるように受ける。
受けた瞬間、力で受けるのではなく、流れのまま受け流す。
俺は蹴りの力の流れのままクルリと回転。
ミストラは受け流された蹴りを逆再生のように戻し、掛け蹴りに似た蹴りを出すが、同じように流す。
すると、更に一歩踏み込んでからの左ボディが来る。
脇腹に突き刺さる瞬間、これもヌルっと身体の軸を回して受け流す。
ミストラの左拳はまだ、ボディブローを放った状態のままだ。
(拳の引きが遅い!)
受け流しながら、左腕を掴み、回る勢いを利用ながら地面方向に引き落とす。
ガクッとミストラの身体が泳ぐ。
俺の位置はミストラの左側面、左腕は前に投げ出され防御は出来ない位置。
回転の勢いのまま、延髄に向けて右上段回し蹴り。
(貰った!)
完全に崩したのでミストラは躱せる体制じゃない、防御も間に合わない。
だが、俺の右回しはスカを喰らう。
その隙にミストラは離れてしまった。
(完全に捉えた筈…どういうことだ…)
「今のは危なかったよ、不思議な動きだね。技名はあるのかい?」
「…【
「もしかして、オウガイ老の弟子だったりする?」
「知らん……何で躱せた?」
「さぁ?考えてみなよ?」
---
「凄い凄い凄い凄い凄ーーーい!ザクルート選手、あの12柱と互角の闘いをしております!!」
「予想外ですねこれは、ちょっと言葉が出ないですね」
「まさかのジャイアントキリングあるのか!?それとも12柱の意地を見せ付けるのかっ!目が離せません!!」
互角だと?好き勝手言ってくれる…
お互いクリティカルなダメージは無いが、向こうの異能がわからん…不利なのは俺だ。
おそらく、間合い外から貰ったあの一撃と、当たる筈の蹴りをスカしたアレが異能だと思うんだが。
「さぁ、もっと本気で来ないのかい?」
「…とっくに本気だよ」
「そうかい。ならば、そろそろ終わりにしようか?」
来る!
恐らく異能を使って一気に決めに来る気だな。
見極めて見せる!
距離は12歩、十分な距離がある。
体内に気を練って出方を待つ。さぁ、どうでる?
「何で僕が【至近】なんて二つ名があるかわかるかい?」
(…動いたっ!)
っ!?消えっ!?
「こういう事だよ」
真後ろからミストラの声。
不味いと思う暇もなく、背中に衝撃が走る!
【仙気法
「…あれ?」
手応えが無かっただろう?
極限までの脱力で、攻撃を散らす極技。漫画で言うところの消力ってやつだ。
派手に飛ばされたが、ダメージは散らした。
「決まったと思ったのに…異能かい?」
「さぁな?考えてみろよ?」
「ふふ、言うねぇ」
先程の攻防…目は離して無かった。
俺はミストラが動いた所までしっかり見えていた。
が、後ろに現れた。
瞬間移動?いや…少し違う気がする。それだと蹴りが当たらなかった時に消えて居ないとおかしい。
もう少しで掴めそうなんだが。
考えていると、急に下から顎へ衝撃、顔が跳ね上がる。
「っグッ!」
(また、間合いの外から…!)
ミストラは既に動いていた。
跳ね上がった顔を戻した時にはミストラは居ない。
後ろか!
屈むように前屈、後へ脚を跳ね上げ蹴り込むが何も無い。
(!? 目の前に!!)
鳩尾を思い切り蹴り上げられ、浮き上がる。
胃の内容物が喉元まで上がってくる感覚。
浮き上がった俺の身体に、容赦なく回し蹴り。
投げられた人形のように地面を転がった。
受け身を取り、咳き込みつつ立ち上がり状態を確かめる。
(脚に力は…入る。が、肋骨が鈍く痛む…ヒビでも入ったか)
かなりダメージを負ったがまだ身体は動く。
(軽身功が間に合わなかった…モロに貰ってしまった。が、掴めてきたぞ)
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