特別編「ポッキーの日」(番外編です)


「——勃起の日」


 言ってしまったと思った時には既に遅かった。


 夕暮れ時の帰り道。


 今日も今日とて、ギャップ萌えが凄い我らが生徒会長兼俺の彼女とのほほんな時間を過ごせると楽しみにしていたと言うのに、ヘマをかましてしまった。


 いやはや、ずるい。何故に、字面はこんだけ違うっていうのに発音がどうしてこんなにも似ているんだ。


 不可抗力だ。俺にはそんな意図はない。

 だいたい、この俺が橘さんの前でこんなこと言うわけがない。ギャグにしては面白くないし、寒すぎる。


 ただ、噛んだだけなんだ。


 しかし、そんな風に訴えても目の前で硬直している橘さんの表情は和らぐことはなかった。


「誤解です!! 橘さんっ! あの、これはですねっ——全然意図してなくて、噛んだっていうか、なんというか……その、あれです! 間違えてしまって決して理由があるわけではなくて——」


 焦る。

 駄目だ、橘さんが全くと言っていいほどこちらを向いてくれない。


「……」


「えと……橘さんっ?」


「……」


「だ、だいじょうぶーーですかぁ……」


 小道の真ん中。

 幸い、人通りが少なくて良かったがそれも相まって背中越しの迫力が生徒会長している時よりも凄まじい。


 そんな怒りムードの橘さんの背中からゆっくりと俺は顔を近づける。恐る恐る、違うということを教えながらも歩を進める。


 すると、


 ——ビクン!!


 橘さんの方が大きく揺れた。


 やばい、かなり怒ってる。変な面白くもない下ネタを言ったからだ。いや、別にそんなこと言うつもりなんて一ミリもなかったんだけど……しかし、とにかく状況は最悪だった。


「あ、あの——まじで今のは謝るので何とか許してください‼‼ ほんとにすみません、橘さん‼‼ ど、どうか、お慈悲を‼‼」


 命を乞うように全力で頭を下げる。

 地に足を付け、膝を付け、ゆっくりと頭も一緒につけることで土下座を完成させると——ようやく、彼女が口を開いた。


「ポッキーの日」


「——え」


「ポッキーの日……そうだ、ポッキーの日だ!」


 突如、俺の耳に怒号の代わりに流れ込んできたのは怒りの声でも叫び声でもなく、橘さんの腑に落ちた声だった。


 そっか、そういうことか。言葉が目に書いているほどに納得するようにそう言っている。


 正直、俺は今、状況が呑み込めていなかった。怒っていたんじゃないのか、橘さんは。しかし、俺の目の前には笑顔でこちらに「どしたの?」と視線を送る彼女しかいない。


 そこで、俺は聞いてみることにした。


「——あの、え、っと……お、怒っていたんじゃ?」


「……お、怒る?」


「うん」


「え、なんで?」


「な、なんでって……俺がしょうもないギャグしちゃったから……」


「ギャグ? え、さっき言ってたポッキーの日のこと?」


 だましているわけでもない。申し訳なさそうにしていると、橘さんは俺の方へ身を寄せ、もう一度こう言った。


「私、今日の朝からモヤモヤしてて忘れて事あるなぁって思ってたんだけど、まさかね、それを木田君が言ってくれるとは思ってなくて……」


「ぇ……そ、そう、なんだ」


「そう―—だけど……私、なんか変なことで言っちゃったかな?」


「いやいやいや!! そんなそんなっ、まさかだよ‼‼ なんにも、完璧だよ!」


「……なら、いいんだけど?」


 怪訝な表情でこちらを見つめる彼女。流石に面白くもないギャグを披露するわけにもいかないと俺は必死で自らをフォローする。


「うん! 大丈夫!!」


「そう……」


 危うく、俺も巻き込まれてしまいそうだった。


 さすがに、彼女が気のせいで間違えてくれたのならそれに越したことはない。俺もここにいるとついつい言ってしまいそうだし、ここは一旦忘れよう。


 そう思い、俺は近くのコンビニでポッキーを買い、ゆっくりと歩く中、ポッキーゲームを提案してみたものの「き……キス、は……ちゃんとしてるときにしたい……」と恥ずかしそうに却下を食らい、俺は家で悲しくポッキーを貪ったのはまた今度、話すとしよう。




 今日は投稿できないかもです!

 明日のをお楽しみに!!


 

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