第22話「ジェットコースター1」


 教室棟の1階にやってくると、部室棟とは日にはならあいほどの人だかりでごった返していた。毎年、毎年、初めての文化祭に心躍らす一年生には自分のクラスの展示を宣伝に来る上級生で溢れかえっている。


「いつも通り、上級生多い感じだな」


「え、えぇ……みんな、来てほしいのよ」


「ふぅん。あ、そういえばさ、生徒会とかって出し物してるの?」


「生徒会?」


 そんな人ごみの中、隣で溢れかえる人を見て嬉しそうにしている彼女に気になったことを聞いてみる。


 毎年の事ではあるが、生徒会と文化祭実行委員の数人は運営側に回っている。それだけでもちろんだが、重労働だし、中学の頃とは違って1からすべて自分たちだけで作っている高校では忙しさもさらに違う。


 俺も中学の時は書記として彼女の活動を支えていたが分かるが、その時の比ではない。


 だからこそ、高校では何かをやっているのではないかと聞いてみた。


「うん?」


「生徒会は……そうだね……一応、やってはいるかな?」


「どうして疑問形……」


「あ、いやっ——なんでもないっ……うん」


 明らかに嘘ではない。

 それなりに一緒にいる俺だから分かる、確実に何かを隠している顔だった。


「————」


「な、なんでそんなジト目向けるのよっ!?」


「いやぁ、だって絶対に隠してるじゃん」


「っ……べ、別に隠してないし……」


 真っ赤な頬。

 先程の嬉しそうな表情ではなく、ぐちゃっとなって涙目になっていた。


 ただ、さすがにいじめすぎるも少し違う気がするし、何かは隠しているのは確かだが追及するのも悪い気がして、ふぅんと一言呟くだけにしておいた。


「というわけで、とりあえずは回りましょうか」


「え、えぇ……」


 



 ――どこに行くかは真面目に迷ってはいたが、まずは端の1組から見ていくことにした俺たちは律儀にも1年1組の展示の列に並んだ。


「意外と混んでるんだな」


「そうね。初めての文化祭でこれだけ並ぶのは中々ないわね」


「だな。ただ、まあ——ジェットコースターなんてもの珍しいし、これは並ぶのも分かる」


 そう、1年生にしては珍しい攻めた展示だったのだ。

 無論、宣伝もさることながらその楽しそうな感じに釣られてやってきた中学生や、親子ずれも多くいて、周りは活気で溢れていた。


「ただ、少し怖いけど」


「安全面?」


「うん。きっと、生徒会からちゃんと承認得てるから出来ているんだと思うけどいざ、本番になると不安よ」


「1年生だしね……」


「私が確認したわけじゃないし、実行委員長と副会長ならってことで信用はしてるけど」


 少し難しそうに言う彼女に、俺は同情しながらも再び手を掴む。


「——?」


「いや。せっかく楽しい文化祭なんだから、楽しもうって話。ひとまず、怪我人出てないんだから、そう言うのは乗ってみてから考えよう」


「……そ、そうね」


 手をぎゅっと握り締めると、肩がビクッと揺れて彼女は少しよろけた。


 まったく、ちょろすぎないかな。

 この生徒会長は。






 ようやく自分たちの番が回ってきた。これまでの待ち時間は十数分と言うところだろうか。一文化祭としてはまあまあな時間ではあったが問題はないと思う。


 それに、彼女との話もかなり弾んで、案外楽しかった。もしもこのクラスがそのことまで考えていたら完璧だろうな。


「では、えーっと、ってあれ!? せ、生徒会長じゃないですか⁉」


 前の人が中に入るのを見送ると、直ぐにこちらに気づいたのか受付の男子が驚いた顔でそう言った。


「……そ、そうだけど?」


「え、あ。いやぁ……ちょっとびっくりして、と言いますか……も、もしかして隣の方、彼氏さんですか?」


「っ——そ、そ、そんな……とこ、ろよ」


「うぉ⁉ これはこれは!! さすがですね、橘生徒会長!! ——しっかり、楽しんでくださいね?」


「——!? こ、これはっ……み、見回りよ‼‼ で、デートとかじゃな、ない!!」


 びっくりして大きな声で言い返すと、周りの人が溶け込んでいた生徒会長に徐々に気づくように視線を向ける。


 自分で言ったのに恥ずかしくなったのか、「うぅ……」と背中を丸めた。


「あぁっ。すみません、邪魔して……」


「大丈夫大丈夫っ。意外と、こういうやつなんで」


「——な、なんでよ、たk……ゆ、雄二くんがそう言うこと言うのよ!」


「あはは……かわいいね、会長さん」


「っ——」


 噛み噛みで年下の男子からも揶揄われる生徒会長を見るのはなんか、もの凄い背徳感を感じて思わず笑みが零れた。これがギャップ萌えというものだろう。


「おぉ……お熱いですね~~。それじゃ、準備できたんで楽しんできてください‼‼」


 ニヤニヤと笑みを浮かべる受付の男子を横目に、俺は彼女の肩に手を添えて中に入ることにした。







「……ねぇ、なんで会長呼びなのよ」


「あれ、駄目だった?」


「え、いやそう言うわけじゃないけど……なんか不意打ちで」


「ん、意外と効いた感じ? そう言うシチュエーションも」


 さすがは変態生徒会長と言ったところで、ようやく自分が何を言っているのか気づいた本人は頬を皿に真っ赤にさせて、その場にしゃがみ込んだ。


「——あ、あとでな、殴るわよ」


「それは勘弁!」





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