第40話「夏休み」

 遂に期末試験! なんていう日々も終わり、ついに来週から夏休みで、周りの同級生もそんな期待と楽しみでいつもよりもざわざわしていた。


 六花の方はというと、生徒会の引き継ぎ作業で忙しいらしく、後期から始まる新生徒会の後輩に指導しているようで俺は教室で晴彦と二人昼食を取っていた。


「なぁ、義はテストどうだった?」


「テスト? んまあ、ぼちぼちかな?」


「そうか……俺は惨敗でよぉ〜。赤点ばっかりで追試だよ」


「勉強しとけよ、流石に赤点は取らないだろうが……」


「だってつい1週間前までは文化祭だったんだぜ? あんな祭りの祭典からすぐにこれは……切り替えできん」


「甘えるなよ」


「くっそ。いいよな、義は橘の会長さんがついてるから!」


「……それはまぁ、確かにいいけど」


「同じ高校にいるっていうのに、どうやったらあんな差がつくのやら……」


 まぁ、晴彦の言うことも分かる。中学の頃は生徒会長とは言えどめちゃくちゃに点が取れるってわけでもなかったはずなのに今では最強なくらいに頭がいい。日頃の勉強に向ける姿勢がいいし、彼女の努力はいつ見ても凄いと思う。


「努力の違いだな……」


 テスト前の勉強会で肌身に思ったことを呟く。すると、晴彦は


「努力の才能がない俺はどうすればいいのか……」


「いや、そこは頑張れよ」


「うっせぇ」


 溜息を吐き、少し不機嫌そうにサンドイッチを口の中に放り込む。気持ちも分からんでもないが、少しは勉強してほしいものだ。


 というか、そう言えば晴彦の彼女さん……えっと明日香さんだっけ。彼女は頭がいいのだろうか、あまり学年の順位表では見ない名前だが。



「なぁ、晴彦」


「——ん?」


「お前の彼女って、勉強とかできるの? あ、ほらさ、晴彦がそんなんじゃ彼女の方はどうなのかなぁって気になってさ」


「んぁ……喧嘩売ってるの?」


 いやいや売ってないし、というか目つきが怖い。


「まぁ、明日香のやつは……妙に頭がいいな」


「そうなのか? あんまり順位表では見ないけど」


「そこまでじゃないよ、さすがに。だいたい30位以内しか入れないだろ、あれ? 明日香はだいたい4,50位前後なんだよ」


「ぅお、すごいな、晴彦はいっつも150位くらいだもんな」


「おい、その言い方はないぞ。俺だってたまには……って今回は最低だったけど」


「ははは……どんまい」


「高い奴に言われるほど嫌なことはないな」


 っち。

 と舌打ちが聞こえ、苦笑いを溢した。









「……かいちょう、会長? 橘会長?」


「え、あ⁉ な、なに? りこちゃん!?」


「ど、どうしたんですか? 疲れてます?」


「え、いや別に……まぁ、えっとね、色々あるなぁと」


 そして、放課後。


 六花は生徒会室で後輩への引継ぎ作業をしていた。教えているのは隣でノートパソコンを見つめ、球を唸らせてる眼鏡をかけた後輩の結月真昼ゆづきまひる。真面目で、生活委員長として陰ながら文化祭を作ってくれた女の子だ。


「……なんか最近、ずっとそんな顔してますよ? こう、思いつめたような感じで……心なしかクマもあるように見えますし」


「え、クマ!? ほんと!?」


「はい。会長はせっかく美人さんなんだからもっと気を使わないと駄目ですよ?」


「え、び、美人って……そんなぁ」


「ほら、彼氏さんだっているんだし」


「——そ、それは……そうね」


 少し顔を顰めて言う六花。

 そんな彼女を見かねて、後輩の結月は「そっか」と気づいたように訊く。


「彼氏さんとなんかありました?」


「……っぐ」


「やっぱり……会長ってすぐ顔に出るから」


「か、顔に出てるかしら……」


「はい、それはもうハッキリと」


 うぐっと何かが刺さったかのように腰を折ると、すぐにうぅ……と唸りながらその場に腰を下ろした。


「……なんかあるなら言ってくださいよ。私だって生徒会長になるんですっ。会長みたいに人が困ってたら助けたいです!」


「……うぅ……なんて、立派に成長してぇ」


「ちょ、会長っ——やm」


 あまりの後輩の成長ぶりに少しうれしくなって涙が零れる。うぅ――と泣きながら六花は結月の腰に抱き着いた。


「……その、ね。なんか最近、よしk——じゃなくて木田くんと倦怠期なのかなぁって」


「倦怠期……そ、そうなんですか」


「うんっ。この前もさ、夏休みの予定何したい? って聞いたらあんまり答えてくれなくて……結局、海に行きたいって私が言いだしてね……こう、なんか、全然相手にされてない気がして」


「そ、それは……そうですね……」


 涙交じりに話す憧れの会長の姿を見て、なんて答えようか迷っていると


「ごめんね、ほんとにどうでもいい話で……」


「え、いやいや!! どうでもよくなんかないです!! でも……私、恋愛とかしたことなくて、その、分からないっていうか……ごめんなさい」


「いやいや、別にいいの……聞いてくれただけでうれしいわ」


「……は、はい……でも、その、分からないなりにですが私、何かあるなら、しっかり言った方がいいと思います。人間、言わなきゃわかりませんし、どんなに考えても分からないときは分からないですし」


 そんな後輩の言葉にハッとして、六花は口を頬けて固まってしまった。


「——あぁ、その、ごめんなさい。あてにしないでください! なんか、余計なことを」


「よ、けいじゃない! 全然、余計じゃないわ! ありがとう、私ももう少し考えてみるわね」


「——はいっ。会長もやっぱり元気でいてほしいので、何かあったら言ってくださいね」


 そうして二人はまた、引継ぎ作業を進めていった。







<あとがき>


 という感じで始まりました、夏休み編。最近、いろんな新キャラを出し過ぎてちょっとどうしていこうか考えているんですけど、そこはおいおいいろんな伏線を張りつつ考えていこうかと思います。カクコンの応募期間も今日で終了ということで新作の方にも時間を割いていくのでまた二日に一回投稿という形になるかもしれませんがよろしくお願いします!



 

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