第27話「お化けなんかいない」
「お化けなんていないし、非科学的よ」
あまりにも強気な口調で言っていた当の本人と言えば、足元をガクガクと震わしていた。
とはいえ、確かに六花の言う通りお化け自体は正直信じていない。怖いのはお化けではなく、それを演じる人間だと昔の小説で読んだ気がするし、そんなことを信じたいとも思っていない。俺も一応は進学校の生徒、たとえ底辺だとしても譲れないものもある。
ただ、と——今は思う。
「……震えてるよ?」
そう、今だけはいてほしいと思ってしまう俺は最低な人間だろうか。
私は大丈夫だから行くわよ。と言ってきた本人がまさに入り口の数メートル手前で怖がりながらあぅあぅと声を上げているのだから。
そんな姿があまりにもギャップ萌えすぎて、さっきよりも怖がりなのがわかりやすすぎて、可愛い……なんて言えないな。
「——震えてないし」
「いや、どっからどう見ても」
「震えてないもん!」
「っ……はぁ」
それにだ。
一時間前のジェットコースターと言い、六花は自ら弱点に飛び込んでいく気がして少々普段の生活が不安だ。それほどまでに分かりやすいのもう、物語っている。
「きゃああああああああ‼‼‼‼」
「ひゃああああああああああああああああああああっ‼‼‼」
ビクン。
そして、ドシッ!
おそらく下級生の声だろうか。先ほど女子同士で手を繋いでひっそりと入っていた二人組の声が小さい教室から飛び越えて廊下に響き渡る。
ビクッと腰が固まって俺も思わず背筋をピシッと伸ばしてしまったが、それよりも早く、先に驚いたのは隣でギョッとした目をしていた六花だった。
「ひゃぁ――っ‼‼‼」
びくびくと震わしていた足が限界を迎えたのか、先の叫び声がトリガーとなって猫のような小ジャンプをして抜けそうなった俺の腰に縋りつく。
「うぇ」
予想内ではあったがあまりにも不意な一撃で、お化け屋敷内で繰り広げられると思っていたはずの抱き着きが今始まった。
「——こわいこわいこわいこわい」
「ちょ、え、六花っ——だきしm」
「いいからこわいの、こわいの!!」
あれれと、嘘だとは分かっていたが手のひら返しが凄すぎて思わず驚いてしまった。
うぅ……と一生懸命、俺の制服を鷲掴みにしている立花。
いや、あまりにも、普段は見せない怖がりな一面を堂々と公開する我らが生徒会長。1階よりも人が多く、2階にいる上級生がまじまじとこちらを見つめてくる。
さらには順番待ちを整列させる受付の男子が生徒会長の姿ににまぁと笑みを浮かべている。
「え、な……なんですか?」
と、しがみつく立花を横目に俺は尋ねる。
しかし、目の前の彼は「楽しそうですね」と表情とは裏腹の言葉で一蹴した。
「……s、そうっすか……」
不気味な笑みの力に屈し、謝る俺。生徒会長の彼氏として、同じ2年生として情けないこの上ないが周りからの視線に慣れていないこの気持ちも考えてほしい。
同じ学年の女子たちはかっこいいはずの生徒会長の姿に唖然とする者や、かわいいとにこやかな表情を浮かべる者もいてかなりカオスだった。
「……まったくね」
俺が早く早くと順番を待っていると、横からすれ違った女子生徒の声が聞こえる。
「え」
「たるんでるわね、生徒会長」
はっと振り向いたが周りの人混みに消えていく声。
急に急な連続で頭が追いついていない中、俺たちの番はあっという間に来てしまう。
「それではどうぞ〜〜」
続々と並ぶ人たちよりも先に、心の準備もしてない俺は腰にギュッと掴まった立花を連れて入ることとなった。
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