第37話「花火大会」


 二時間以上に及んだキャンプファイヤーも終わり、残りのプログラムも締めの花火大会だけになっていた。


 夜も更け、空はもう真っ暗。朝や昼の騒がしい音もなく、高校中はしんとしていて異様な雰囲気を醸し出している。サッカー部や野球部が使っているライトが点灯し、おぼろげな明るさは維持しているもの暗く、生徒たちも休憩がてら自販機のジュースやコーヒーを片手に話に花を咲かせていた。


「ふぅ……もう夏だけど、夜はちょっと肌寒いんだね」


 はぁ、と両手に息を吹きかける。寒そうに手を擦りながらグラウンドの端に設けられたベンチに座りながらそう言った。


「まぁな。ここは北海道だしね」


「でも、まだ7月だよ?」


「7月か……5カ月もすれば12月であっという間に冬だけどな」


「それをあっという間って言うのはちょっと早くない? まだ夏も本番ってわけでもないし」


 そんなことないでしょ。と呆れた顔で言う六花。まぁそれもそうだけど、個人的にはあっという間の範疇である。この前まで中学生でいろいろな期待込みで入学した新入生だった気がするのに、今ではもう二年生。まして、六花の方は文化祭を任されている位置に立ち、この行事を機に生徒会活動も終わる。


 そう思えば、早いと思えるのは俺だけだろうか。


「……まぁ、そう言えばそうだが…………でも、この前入学してきたのに今ではもう二年生なんだ。俺からしたら、もうだよ」


「そう考えたら、そうかもね」


 ムスッとした。

 別に悪いことは何も言ってないのだが——と視線を返すと、


「——そういうところかな」


「え?」


「いや、別に……」


「別にって——六花が言い出したんじゃないか」


「いやだからさ? もうちょっとさ、楽しく考えてくれいないかなぁって……」


「楽しくは思ってるよ? でも、それが終わるのがやだなぁってさ」


「それはみんな同じでしょ? もう……だいたい、彼氏ならもっと楽しませようとするでしょうが」


「……悪かったよ。それは」


 そうは言いつつも、彼女の表情は少し笑みが浮かんでいた。


「笑ってるじゃん」


「笑ってない」


「にやけてるぞ?」


「にやけてない」


 なんてくだらない言い争いだろうか。

 そう思いながらも俺と六花はとにかく言い続けた。


 数分待つと、パチンと音がなった。


 その瞬間、グラウンド内は一気に静かになり、花火の合図である一つの光が上がった。


『それでは、豊栄祭の100発の花火を閉幕と共にお楽しみください』


 ブツッと放送が消える。

 そして、数秒後。


 七色に光る極彩色の花火が打ちあがる。


 ヒューっと音を鳴らし、最後には乾いた音がパンッ! と鳴り響く。


「わぁ……」


 隣の六花が小さな声をあげる。あっとして、真黒な空に花開く火花を見上げて、周りの生徒たちもポカンと口を開けながら見つめている。


 どこか綺麗で、どこか汚くて、どこか輝く。そんな花火。

 薄れて、落ちて、そして打ちあがって、もう一度花開く極彩色の火花。


 七色から四色に、四色から一色にと移り変わっていく花火はまるで俺たちが楽しんで作ったこの文化祭を表していた。


「すごい、きれい……」


「あぁ、すげえな」


 去年は最後まで入れなくて花火は見れていなかったが、それも今思えば案外よかったのかもしれない。一年前の今日からの伏線。回収できたことが凄く思い出になる。


 それも初めてできた最高の彼女と、出会いは歪だったがとてもみんな思いで優しくて、そして逞しくも凛々しく、極めつけには可愛いときた。


 これほどでもないくらいに最高な彼女。


 見上げた顔をすっと下ろして、手を重ねる。


 すると、何も言わずにキュッと握られて、俺も何も言わずに空へ視線を戻した。















<あとがき>

  というわけで、文化祭編はこれにて終了です。

 いやはや、長かったのか短かったのか……ってところでせうがここまで読んでいただきありがとうございます。次回からはまた新たな話になっていきますが10万文字までは届いていないので書き続けていきます。2カ月前のビックリするくらいに伸びてから1月は少し自分の都合であまり書けなくて、楽しみにしてくれた人にとっては本当に申し訳ないことをしてしまったなと思っています。まだまだ素人の領域で全然凄くもないと自覚しているのですが、我ながらブクマ0の時から成長したなと感じています。これからも木田くんや橘さんの成長を加え、いろんな登場人物の葛藤などにも焦点を当ててもらえると嬉しいです。


 これからもよろしくお願いします。

 

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