第35話「キャンプファイヤー」



熱狂に包まれた体育館横を通り過ぎながら俺は六花の待っているグラウンドへ向かった。


 グラウンドに着くと六花を含め、生徒会役員の数人と安全確認をしに来た先生方、そして文化祭実行委員の数人が火を起こす準備を行っていた。大きな丸太に、枝もふんだんに使い、準備用のテントには花火らしきものがドドンと置かれていた。


「うぉ、すげぇ」


 と思わず裏側を見てしまって足を止めてしまったが、俺はそれを見に来たのではないとすぐさま走り出す。

 

 ささっと一蹴すると、六花はグラウンドの端の方で近所の方々と話をしていた。


「それでぇ―――」


「六花っ!」


「んぁ。あ、よしくん! どこにいたの? 私、結構呼び掛けたり探したりしてたんだけどっ‼‼」


「あらあら……彼氏さんかい?」


 ムッと表情を険しくした六花の後ろで、近所のおばあちゃんがニヤニヤとと笑みを浮かべながらそう言った。


 そんな言葉にハッとして、口元を抑える彼女。


「べ、別に……そういうのじゃ」


「いや、そう言う関係でしょ」


「あら、やっぱり」


 はてな? と首を傾げるおばちゃんに六花は顔を真っ赤にする。別に今更隠さなくてもいいのに、と思ったがすぐにニヤけたおばちゃんの様子を見るからして何となく意味が分かった気がする。


「まぁ……はい」


「そっかそっか……彼氏さん、どうなの? 六花ちゃんとはさぁ」


「ぼちぼちですね、すっごく良い人で僕は好きですよ」


「やるわね、彼氏さん! そっかそっかぁ……あの六花ちゃんに彼氏ができたとはねぇ……青春ね、や、今どきの人ならアオハルってところかしらねぇ」


「ちょっ――や、やめてくださいよぉ」


「あはははっ‼‼ そっかぁ、まぁ今日はここまでにしとくわねっ‼‼ じゃ、文化祭楽しんでね!!」


「も、もういいですから!!」


 頬を真っ赤にしながら「もぅ!!」と叫ぶ六花に、声をあげながら笑って去っていくおばちゃん。そんな二人の茶番のような一幕を通し、俺は溜息をついた。







「もう……絶対に分かってて言ったわよね」


「いや、別に」


「ほんとに?」


「まぁ、途中から気づいたけどもうバレてたからいいかなって。別に隠すことじゃないじゃん。相手が相手なのは分かってたけど」


 俺がボソッと言うと、勢いよくこちらに振り向いて彼女はあの教室で出会う前に数多の男子に見せていたあの睨みの効いた視線を向けた。


「——っ‼‼」


「ちょ……何、怖い」


「怖いって!! 私だって怒りたくないけど……正直私の言ってる事よりよしくんの言ってることの方が合ってるし」


「分かってるじゃん」


「うっさいし。そう言うことじゃないし! あのおばちゃんめっちゃしつこいの! 中学校の頃から私にあんな風に言ってくるんだよ?」


「へぇ……あれ、でも、中学校ってこっから遠くないっけ?」


「いや普通に文化祭が今日あることを聞きつけてこの辺のスーパーまで買いに来てるらしいの……ここまで来ると怖いけど、まぁ悪い人じゃないしね」


「好かれてるなぁ……」


「……なんで他人事みたいに言うのよ」


「え、いやぁ……随分とモテてるなぁって」


「モテるって……おばちゃんになんてモテたくないわね。ていうか先客はもういるわけで、これからはモテなくていいのよ!」


「ははっ、そうだな」


 楽しそうに話す彼女を見て、俺も思わず笑みが洩れる。


「……ってこんなことしてる暇はなくてよ‼‼」


「どうして急にお嬢様口調」


「深い理由はないわ。ほら、早く準備するから手伝って!」


「お、おぉ」


 準備用テントへ走り出し、指示を出し始める六花。ここでは生徒会長と言った方がいいかもしれない。逞しくもカッコいい、そんな背中を眺めながら俺は雑用として丸太を綺麗に並べるのを手伝ったのだった。










 そして、準備は順調に進み、うるさかった体育館側もいつの間にか静かになっていた。ついさっきまでは生徒たちの叫び声が飛び交っていたはずなのにと、これが嵐の前の静けさか……なんてくだらないことを考えていると、テントの横に座っていた六花が呟いた。


「そろそろかしらね……」


 そう言うと同時、グラウンドと校内の至る所にあるスピーカーから放送局のアナウンスがかかる。内容はキャンプファイヤーと花火大会が始まるからグラウンドに来て。というものだった。


 長かった文化祭ももう終わり。

 そんな雰囲気がひしひしと伝わるほどに静かになった学校で、徐々に生徒たちがグラウンドの真ん中を囲むように集まって来ていた。


 そんな中、隣に座っていた六花がちょんちょんとTシャツの端を引っ張る。


「ん?」


「私、仕事終わったわ」


「え、あ、あぁ……お疲れ様」


「……そこは『行こう』でしょ」


「どこに?」


「キャンプファイヤーに決まってるでしょ」


 呆れ交じりに呟く彼女。勿論、俺も分かっていたしドキドキで心臓もバクバクしていたがちょっと虐めたくなってしまっただけ。


「そうだな……んじゃ、行くか」


 すぐさま切り替えて、俺は六花の手を掴んで徐々に燃え始めたキャンプファイヤーの前まで歩いた。

 




<あとがき>


というわけで、あとがきのふぁなおです。


 一日でまさかの二回投稿なんてあんまりしたことはありませんでしたがまぁ、公開しちゃいます。というかこんなに書きまくったことすらなかったので我ながら誇れちゃうくらいですね。ですが、この前とある作家さんが一日で1万文字書くのはプロだったら普通だからそのくらい書けるようになった方がいいですよ~~なんて言っていた気がするので誇るのはやめて頑張ろうかと思います! 読んでいただきありがとうございます! 次回もよろしくお願いします!


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