幼馴染で高嶺の生徒会長が何やら俺の机で股を擦り付けてて超絶修羅場な件。

藍坂イツキ

第1話「圧倒的修羅場」


 修羅場の定義とはなんだろうか。


 例えば、元カノと地下鉄で出くわしてしまったとか、彼氏がいるのに他の男の家で致してしまったとか……色恋沙汰で言えば、そんなことが挙げられるだろう。


 しかし、その程度。


 今の俺から言わせてもらえば屁でもない。


 そう、なぜなら俺は今。


 学校の花とも呼べる生徒会長、橘六花たちばなりっかが自らのスカートをたくし上げながら、俺の机の角に股を擦りつけているところに遭遇してしまったからだ。


「……橘、さん…………?」


「っ————え、あ……ぁ……」


 たくし上げ子。

 まさに、そんな言葉が似合いそうな惨めな姿をしている―—高嶺の花。


 口を開けて、見つめ合う俺と橘さんには緊張感が走る。


 俺は思う。額の汗を垂らしながら見つめあうこの瞬間。


 ——これが修羅場というものだろう。







―――――――――――――――――――――――――――――――――



 俺の名前は木田義弘きだよしひろ。名前が昔っぽいから友達からは「親父」だとか「よしお」だとか言われ、個人的には「義弘」で呼んでほしいというつまらない悩みを持つくらいの平和な高校二年生だ。


「はぁ……」


 教室の端。

 俺は窓際の最後列で溜息を吐き、クラスの大半が転寝をこく日本史の時間を適当に過ごしていた。


 しかし、そんな時間に熱心に先生に質問をして、ノートをとる人がいた。


「先生っ。文明開化の時代、日本は具体的には何をしたのでしょうか?」


 彼女は私立豊平栄高校の現生徒会長でもあり、俺たち2年6組の委員長でもある。この高校に通うすべての生徒が知っている高嶺の花こと、橘六花たちばなりっかだった。


 可憐で、優美。

 その姿は大和撫子も泣いて黙るほどに綺麗で、美しい。


 真っ黒な光沢のある髪は肩辺りまで伸びて、燃えるように赤い瞳が今日もたけだけしく輝いている。


 加えて、制服の上からでも分かる大きい胸もあり、スタイルがよく、所謂清楚系女子高生ってやつ。


 そんな彼女とは小学一年生からクラスがずっと同じ、幼馴染と言っても過言ではないほどだが……実際に関わりを持ったことはあまりない。


 しかし、いざ声をかけて見ると話しやすく、誰からも好かれる感じが印象的で俺もたまに目で追っている時があるくらいに魅力的な人だ。


 それに、この真面目さ。


 今日も律儀に頑張るものだ。いやはや、感心する。生徒会長とは言え、こんな形だけと言える歴史の授業によくもまあ、精がでる。


 まぁ、俯瞰している俺も俺か。会長とは言え、女の子を見つめて何をやっているんだか。


 ——そんな下らないことを考えている間に、一日は終わっていた。


「はぁ、部活かよ……」


「ははっ、だなぁ」


 隣で相槌をついたのは三浦晴彦みうらはるひこ。同じ中学出身でバスケ部。爽やか形の顔立ちで髪も天然の茶髪。


 女子人気もあり、彼女がいる俺たち陰キャの隅にも置けない反逆者だ。


 とは言いつつも俺にはこいつしか友達がいないのだがな。所謂、変わらない腐れ縁ってやつだ。


 俺がため息を吐くと、晴彦はピコンとなったスマホを取り出す。


「……あ、すまん。俺」


「彼女か?」


「そうだ。悪かったな」


「別に悪くはねえよ。行きたいなら行ってこい」


「ははっ、さんきゅっ」


 にやけた面しやがって、勝手にいってろな。

 すぐさま部活へ行く支度をして、晴彦は教室を後にする。


 いやはや、それにしてもムカつく野郎だ。彼女もバスケ部でマネージャーをしていて、噂では部活が始まるまで身を寄せ合いながら1on1をしているそうだ。


 中学生の時は俺もサッカー部だったからもしかしたらそんなことができたのかもしれない……なんて淡い期待をするのはやめておこう。


「さて、俺も行くしかないか……」


 そして、文芸部の俺も重い腰を上げて教室を後にした。







 文芸部は部室棟の一番端。


 4階でグラウンドで切磋琢磨する野球部とサッカー部、そして陸上部が一望できる場所にある。


「こんちには、部長」


「……おはよぉ…………」


 あわぁ……と隅に置かれたソファーから欠伸を立てて起き上がったのは文芸部部長の牧城舞花まきしろまいか


 本には興味はないらしく、学校で寝たいということで入ってきたらしい3年生の先輩だ。部員は俺と部長の二人。この高校の方針で部活は一人からでも作れるからこの人数でも問題はないが、後輩がいないため存続の危機がある。


「部長、涎出てます」


 寝起きでしょぼしょぼした目で俺を一睨みする。


「まさか興奮してる?」


「するわけないでしょ、俺は潔癖症ですよ」


「いやぁ……最近読んだ漫画で涎を舐めたがる主人公が出て来てね……ヒロインもそれをいいことに興奮しながら涎垂らしちゃうわけだからついつい」


「……」


 何を言ってんだ。この人は。


 大体、受験生でもあるのにこんなところでだらだらして良いわけがない。そろそろ7月に入るんだし、模試とかだってある。


 とはいえ、この人は言うだけ無駄だろう。


「まぁ、いいですけど。とりあえず部長は部室の掃除してくださいっ」


「二等兵が大尉に命令とはいい度胸だなぁ……」


「誰が二等兵ですか……せめて、軍曹にしてください。それと、また戦争映画見たんですか?」


「うぇ、バレた?」


「バレバレです。というか、どんだけ見れば気が済むんですか……」


 そうして、俺は一面本棚の東側の壁を指す。


 そこには俺やこの部活の歴代の先輩たちが置いていった漫画やラノベ、そして純文学など幅広いジャンルの本がびっしりと置かれている。そして、その端。俺が指さすところには先輩が見ているであろう戦争映画が20枚以上も並べられていた。


「まだ足りん。旧日本軍の銃をすべて見るまで終わらんぞ」


「じゃあ、なんでアメリカとかドイツとかイギリスの映画もあるんですか……」


「カッコいいから」


「終わらせる気ないですよね」


「さぁ」


 部長の趣味に文句はないが、この部室をミリタリー部屋にするのは個人的にはやめてほしい。


 俺も良くは知らないがP90やAK-47、そしてGlock19などゲームやらで人気の銃(モデルガン)に、日本の三八式歩兵銃などが多数置かれている。俺も男だから銃自体はカッコよくて好きだが、先生からあまりよくは思われていない。


「とりあえず、そこのBB弾とDVDは家に持って帰ってくださいねっ」


「……ちぇ」


「今、舌打ちしましたか?」


「ひゅー、ひゅー。ナンノコトカナ?」

 

 舐めてやがる。

 さすがに頭にきた俺も部長を睨みつけ、こう言った。


「部長、その自慢の顔。ぶん殴りますよ?」


「それはまじで勘弁っ——!」


「——ちょっ。逃げないでください‼‼」


「さすがに顔は——!!」


 硬く握りしめた拳を見せつけると部長は部室から飛び出した。そして、その後を追いかける俺。これから1時間続く激闘は誰も知らないのであった。







 激闘の末。

 小柄ですばしっこい部長を捕まえることはできず、俺は教室に忘れていた筆箱を取りに教室棟へ向かっていた。


「……はぁ、久々に走ったな」


 引退して三年。さすがに走ることに身体が慣れていない。それに、部長も背が低くて人ごみに逃げられたら見つけるのが難しいし、おかげで体もボロボロだ。


 はぁ。と溜息をつきながら歩いていると、教室から変な声が聞こえた。


「……んっ……ぁ……」


 ……喘ぎ声?

 学校で、なぜ?


 すぐさま壁際に寄りながら辺りを見回すが教室でやってはいけないことをする輩は見えない。カップルがいるのだろうかと考えたが男の声はしていなかった。


 恐る恐る足音を立てずに教室へ向かうと——


「——ぁっん……き、もちっ…………ぁんっ……」


 声は徐々に大きくなる。

 そして、より鮮明に。息遣いまで聞こえてくる。


 そんな艶めかしい声を聞いて、俺は思う。

 妙にエロい。


 ってそうじゃない! そうだけど、そうじゃない!!


 とにかく、これ以上ここにいるのは危ない気がする。何かやばいことに巻き込まれても俺が変な勘違いをされて終わってしまう可能性もある。


 よし、さっさと筆箱とって帰ろう。


「——っ」


 ふっ―—吐息を吐いて、教室の後ろの入り口から飛び込むと同時。

 ヤバい光景とヤバい言葉が視覚と聴覚を刺激した。


「……義っひろ……くんっ……んぁ……あんっ……」


 そう、そこには―—いたのだ。

 学校で一番の有名人。


 可憐で、美しく、学校の顔であり、花でもある。

 言うなればダイヤモンドのような輝きを放つ一輪の睡蓮花のような女性。


 高嶺の花こと、生徒会長「橘六花たちばなりっか」が俺の机の角に自らの股を擦りつけながら必死に喘いでいる姿があったのだ。


 あまりにも刺激的で、強烈な光景に身体が硬直する。


 なんて、エッチで幻想的な光景だろうか。そんな冷静さも残っていた。皆が知っている生徒会長が、俺なんかが頂けるわけもないと思っていた高嶺の花が——あろうもことか俺の机で自慰に励んでいる。


 ―—初めて見た。


 エロいサイトで女子がそういうことをしている動画は見たことがある。俺も男だから、それは勘弁してほしい。


 しかし、だ。


 ここは学校で、それよりも前に現実だ。

 生で見たことなどない。


 その二文字だけで俺の気持ちはぐちゃぐちゃにかき乱されている。


 大体、女の子が自分の机で自慰をするなんて……というか、角オナをしているだなんて……エロ漫画の話だ。


 そうか、これは夢か。エロい夢でも見ているんだ。妙にリアルだがそうに違いない。じゃなくちゃ橘さんがあんなことをするわけがない。


 スカートをたくし上げて、ストライプ柄の水色のパンツが露わになっている。心なしか、若干粘っこいシミも見える。


 というか、涎も垂れているし……机が愛液?でびしょびしょになっている。痙攣して足が震えているように見えるが……って!!


 何考えているんだ、俺は。もう覚めよう。

 これ以上は橘さんに悪い。いくら夢とはいえ、俺も性欲が高すぎるな、まったく。


 しかし、俺は口元が緩んでいたのか、こう尋ねてしまっていた。


「……橘、さん……?」


 何も考えずに俺の口だけが動いていた。


「え——っ」


 言葉気付いた橘さんはふと我に返り、こちらに視線を向ける。


 そして、俺たち二人は羞恥と驚愕の狭間で互いに互いを見つめ合っていた。







<あとがき>


 初めましての方は初めまして。ふぁなおです。

 いやはや、少しエッチ目なのを書いてみました。最近は純愛もの寄りだったのでたまには人目を引くのも悪くはないのかもしれません。


 11月中はこの作品を投稿していくので是非、フォロー、☆評価などよろしくお願いします。





 カクヨムコン9に投稿中の新作です!

 よろしくお願いします!


「仕事に疲れて家政婦さんを雇ったら、垢抜けた元カノだった。}

https://kakuyomu.jp/works/16817330668190379207

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