閑話休題「橘六花とは」(番外編なので読まなくても大丈夫です)


 橘六花たちばなりっか


 私立豊平栄高校の二年生で、この学校で知らない者はいないほどの絶大な人気と実力を誇る女子生徒だ。


 現生徒会長として学校の顔でもあり、その姿もまさに華。


 容姿端麗、学業優秀。そして、スポーツ万能。歴代最高と謳われ、生きた伝説級の美しさを誇っている。まあ俺から見てもそれは確かだ。


 肩まで伸ばした黒髪は大和撫子を想像させ、燃え盛る炎のように赤い瞳には男を虜にさせる魔法が込められているよう。


 背は普通で、胸は大きい。推定ではEカップ。女子高生ではあるまじき大きさが制服の下に隠れていると考えると清楚が一気に淫乱にすら見えてくる。


 しかし、生憎と彼女はザ・清楚系。そういうことはしたことすらなく、真面目で常に気品がある憧れの的だ。


 最近は、本を読むときに掛ける眼鏡姿も「凄く良い」と評判で、彼女に告白してはフラれる生徒が後を絶たないと聞く。


 よくもまあみんなは告白しにいくよ。


 身の程を弁えている俺にはそれが不思議でならない。振られることがわかっていて、背伸びまでして手届かない高嶺にいる存在にポンポンと告白するのだから。






 しかし、そんな出来上がったイメージはほんの数日前のある出来事を境に崩壊していった。






 崩壊していった―—というより、一瞬にして崩れ落ちたのだ。


 一分、一秒もない。

 刹那的な時間。


 あの日の帰り道、俺は押し寄せる罪悪感から橘さんを家まで送ることにした。唐突過ぎる進展と、まさかの婚約により、俺たち二人は晴れて恋人になったというわけだが正直、腑に落ちていなかった。






「……あの、橘さん」


「な、なにかな……?」


 夕陽が沈むいつもの道。


 赤面した顔を見られたくないのか、俺は半歩ほど先を歩く橘さんに声をかける。


「俺たち、本当に付き合ってもいいのかな」


「……え」


「いや、その……俺が弱みを握ってるみたいで少し」


「私と付き合うのは嫌かな……」


「あ、いやっ! そういうことじゃないっ……ただ、橘さんは本当にいいのかなって」


「いいの」


「即答!?」


「私、ほら……こんな感じで本当は凄くえ、え……えっちだし、なんか空回りしちゃうけど、頑張って気を張って生徒会長してるし。いっそのこと好きに出来るし、気も楽なの。それとも、私が嫌いかな?」


「嫌いな訳がないだろ? なんだかんだ、小学校から一緒でそばで——とはいかないまでも近くでは見てきたんだ。頑張りとか、苦労とか、ほら、いろいろな。だから、橘さんの事はそういう意味で好きだ」


「そういう意味?」


 はてな。

 首を傾げ、目で訴えてくる彼女。


 あんなにも綺麗で美しかった橘さんが、凄く小さく見えてどこか可愛らしい。生徒会長が天然で、みんなには見せない顔を俺だけに向けている。


「いや、まぁ……憧れっていうか。俺、頑張る女の子は好きだからさ! ははっ……ぁ、ぁあ、なんか変なこと言ってるな、俺」


「へ、変じゃない!! なんか、褒められてるみたいで嬉しいよっ!」


「まぁ、褒めてるからな」


「へへ……なんか、照れるなぁ……」


 ニコッと笑みを浮かべる。

 全校集会で殺伐としている瞳の鋭さはもうなくなっていた。


 少し落ち着きを戻すと、俯き、足を止めて振り向く彼女。その姿は清楚で乙女チックな面影が見えて、俺も身構える。


「……私、好きなんです。木田くんのことが好き……で、好きだった」


「そ、それは本当なのか? ほら、俺に気を使ってるとか」


「私が嘘を言うように見える?」


「見えない」


「……じゃあ、答えは見えてるけど?」


 確かに理屈ではそうかもしれない。


 しかし、本当にそうなのかは理屈じゃなくて、ただ、あの光景を見てしまった俺から見れば後付けにしか聞こえなかった。


 冷静に考えると、俺もおかしい。こんなにも熱心に伝えてくれる橘さんの想いを否定するのは少し、いやかなり失礼な気がする。


 でも、そうだとしても。俺は確認がしたかった。


「——でも」


「思い出」


「えっ?」


「中学のこと覚えてるかな? ほら、私が生徒会長で木田君が書記を引き受けてくれて。私がさ、書類に追われていたことがって……そしたら木田君が助けてくれて」


 すると、橘さんが語りだす。


 今まで忘れていたが確かに、俺と橘さんには面識があった。中学の生徒会でなんども話したのが今の話で一気に蘇る。


 そんなこともあった様な、細かいところまでは覚えていないがいつも仕事に追われていた彼女を見て、手伝ったことは確かにあった。


「あぁ……あったな」


「うんっ。それで、最初はまた私に寄ってくる男の人と一緒なのかって思っていたんだけどね」


「結構言うね……」


「まぁ、そんな人多かったから……ごめんね」


「ははっ。仕方ないな、それは……」



「でもね、私、ちゃんとわかったの……その後、凄く熱心に優しく接してくれる木田君にだんだん惹かれて……その、好きになってたの」


「……そ、そうか」


「それでさ、高校は違くなっちゃってもう無理なのかなって思ってたら二年生のクラス替えで見つけて……まさかって」


「……まさに運命?」


「うんっ……」


「でも……そう考えるとやばいな」


「でしょ?」


 色っぽく笑みを浮かべ、身を寄せる橘さん。

 気づいていないのか、大きな胸は俺のお腹当たりに触れていた。


「だから、そういうことは気にしないでほしいの。本当に好きなんだから、大丈夫っ」


 そう言われ、俺は結局受け入れることにした。

 コクっと頷き、一歩だけ退き、再び歩を進める。


 確認をできて、ホッとした心がどこか心地が良い。



 しかし、この時の俺は知らない。

 こんなにも乙女で、可愛い、そして綺麗な生徒会長橘六花は底なしの沼のように性欲で溢れていることを知る由もなかったのである。



「いや待て、それにしても————好きだからって人の机で自慰してるのはヤバくないか?」

 



<あとがき>

 こんばんは、ちょっとエッチなふぁなおです。

 余談ですが、この作品のヒロインである橘六花ちゃんは僕の好きなキャラクターである「小鳥遊六花(中二病でも恋がしたい!より)」ちゃんからとりました。なんてったって今の僕の嫁ですからね。いやはや、出会った頃は彼女が高校生で僕が中学三年生。年上だったのに、今では僕の方が年上になっちゃって感慨深いです。にしても皆さんにとってアニメキャラやらラノベキャラのヒロインの女の子や推しの女の子ってどんな感じだったんですかね。個人的にはすっごく魅力的で可愛くてどうしようもないくらいに愛おしい存在で、なぜ三次元空間にいないのだろうか……なんて考えていたけどまぁそら女の子からしたらなわけねえよ。って話ですよね笑笑


 PS:最近、たまたま大学が同じになった中学校の時のクラスメイト(女子)のお家に同窓会の予定を決めるために赴くことになりました。なんか、童貞は捨てたはずなのにすごく心がドキドキしてます。僕も失恋を経てピュアになったってことでしょうか。


 

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