第20話「貴様か、クソッたれオナニー野郎」

「ぶちょおおおおおおおおおおお‼‼‼‼‼」


 まるで、江戸時代の時代劇を見ているかのように勢いよく文芸部の部室の扉を開けると同時にそう叫んだ。


 すると、中には銀色のヴィックを被った牧城舞花こと部長がエアガンをリロードしながら驚いた眼でこちらを見ていた。


「……ん、どうしたんだ?」


「どうした、だと?」


「え? なに?」


 頭に血を登らせながら、カッとなって叫ぶ俺に、目の前の部長は「は?」と知らないような顔でそう言った。


 何が?


 正直、そう言いたいのは俺だった。


 流石に今度は許せないと、やる気満々に銃を握る部長に掴みかかる。


 胸ぐらをガシッと掴むと、一瞬手を見てからよろけて


「なんだよ……」


 と呟いた。目は真っ直ぐこちらを見つめていて、俺の怒りようを見てもまだなお知らないふりしている。


「なんだとはこっちのセリフなんだが?」


「え、いや……マジでわからん」


「本気か? 俺が怒ってるんですよ? 滅多にないと思いません?」


「いっつも怒ってる気がする」


「あれは注意ですけど……」


「んなわけ……」


 何をのうのうと……呆れた顔で一瞥すると、彼女は上目遣いで何がだよと言いかかってきた。


「……は、何も部長のあんたがしでかしたことについて言ってるんだけど?」


 俺が何度も言い詰めるが、部長はずっと「何のことだ?」と理解を示さなかった。


 そこでようやく、あれ、もしかして俺が晴彦の彼女に嘘でも掴ませれたのか? と思ったのも束の間。


 終始胸ぐらを掴まれた部長は「あ!」と気づいた顔で一言。


「アレかな……もしかして写真のやつ。橘とかいうバカの?」


 ぷつんっ……。


 その台詞を聞いたや否や、俺の頭の中の理性である一本の線が音を立てて、切れた気がした。


「部長、俺の彼女だってこと知ってます?」


「……し、しらん」


「普通に聞いてるんで目を逸らさないでください。俺は怒りませんから」


「……し、知ってる」


「ですよね? じゃあ、なんでそういうこというんですか?」


「お……怒ってるじゃないか!! さっき怒らないって言った癖にっ」


「はて、なんのことでしょう?」


「さ、さっき言った——」


「あのっ、聞いたのは俺なんですけど?」


「うっ……な、何が」


 俺が威圧的に近づいて言うと、首元を掴まれて涙目になっている部長は遂に黙り込けた。まるで親猫に首根っこ噛まれたかのような部長で、さすがに可哀想だなと思うこころもあったがここは彼女のためにも心を鬼にして言い返す。


「んじゃあ、本題に戻りましょうか?」


「……な、なに……」


「あの写真ですよ。ほら、りっ……あぁ、橘さんのコスプレの写真です。知ってますよね?」


「っ——し、しらn」


「本当はどうなんですか?」


「……っま、まさかs……しってるわk」


「知ってますよね? だって俺、聞いたんですよ? 金パツギャ――じゃなくて晴彦の彼女の花音さんからね」


「うっ——」


 すると、さすがに見破られていると分かったのか。部長はしょんぼりした怒られた犬のような顔でボソッと呟いた。


「す、すみませんっ……」





 全くもって自業自得ではあったが、さすがの俺も突き詰めすぎたせいで小柄な部長は泣きじゃくってしまっていた。その声が少し大きくて、当初は俺が部長にDVをしていたのではないかと噂を流されてヤバかったが、何よりドメスティックバイオレンス(DV)、日本語で家庭内暴力と言う解釈から浮気しているのかと驚いて駆けつけた橘さんで事態の収拾はそれどころではなかった。


 勿論、俺も教室での失言をなぜか晴彦にチクられることになり、一発を貰った俺はDVされる側に回って事なきを得た。


 いや、もう。一発ヤバい一撃を貰っている時点で、事なきではないか……。


「それで……部長? ごめんなさいは?」


「す、すみませんでした……」


「橘さんもいいですか、これで?」


「えぇ、私もそこまで鬼ではないし、いいわよっ」


「橘さんがいいなら了解です」


「(……次言ったら殺すけど)」


 何か途轍もない言葉が聞こえた気がしたが、まぁ、とりあえず何とかなったということで終わりにしておこう。


 一応、今回の件でどうしてあんな写真を拡散してしまおうと思った経緯については魔が差しただけの様だった。生徒会室を通ったらたまたま何か着替えている橘さんを見かけて、こっそり写真を撮り、俺を馬鹿にしてやろうと思っていたわけなのだが——ついつい、この前上目から来られたのが気に食わなくてとりあえず、適当にきゃぴきゃぴしている1年生の女子に送ったそうだ。


 正直、なんで晴彦の彼女に送ったのかは俺も未だ謎だが部長にも部長なりの考えがあったらしい。


 それに今回の件はとりあえず、形的にはしっかりと許してくれた橘さんに免じて水に流すことになり、今回のバツとして今日のところは部長がシフトを全部受け持ってくれたわけなのだが————





「————んでさ、私。木田くんがさ、教室であんなこと言ったってやつ、許せてないんだよね」


 そして、ようやく文化祭に精が出せるとウキウキ気分な俺を真面目な顔で潰してきたのは真横にいる「生徒会」と名前の入ったゼッケンを腕に付けた生徒会長、橘六花だった。


「え」


「ん、だから。私、あんな恥ずかしいことを木田くんに言われたじゃない?」


「んぁっ、そ、……そそそ、それはあの一発で許してくれたんじゃ――」


「あんなんで許すわけないでしょ?」


 どすぐろい真黒な黒で言い放った彼女の顔はまさに鬼瓦の如く、ギラッと不良の何倍も鋭い目つきで俺を睨む。


「——え」


「私のそう言うの、言わないって約束してくれたよね? 見た代わりにちゃんと全部秘密事、私を一生貰ってって」


「……そ、それは」


「もしかして、あれ。嘘だったの?」


 若干の怒りを孕んだその目を見て、俺はギョッとして首をぶんぶんと真横に振った。


「ままままま、まさかぁ‼‼ そんな、そんなわけっないでしょうが!!」


 あまりにも焦ってしまい声が裏返る。

 そんな俺の姿を見て、怪訝な表情を浮かべると近づいて一言。


「嘘、だったんだ?」


 丸くなった声で、今度は少し悲しみを孕んだ表情を見せつける。


「だ、だから違うって!! あ、あれは不可抗力と言うかっ——えっと、その、間違えちゃってっていうか!!」


「……へ、へぇ」


「な、何ですか……その顔」


 次はじとーっと見つめてきた彼女に恐る恐る足を退いた。

 あまりにも喜怒哀楽の感情がぐるぐるとしている姿に少し恐怖感を覚えて、俺は何も言い返せなかった。


 しかし、そんな怯える俺の右手を掴むと。


 橘さんはにひっと笑みを浮かべ、俺の顔を胸元へ近づける。


「えっ——」


「んじゃあ」


 誰もいない階段の踊り場。

 奥の廊下からは「3-3は唐揚げ棒だよ~~!」「2-7はメイド喫茶だよ~~!」とかいう宣伝をする生徒たちの声が聞こえ、空間だけが静かで、走馬灯でも見ているかのような気分だったが。


 そんな静寂を切り裂いたのは——もちろん、彼女だった。


「————罰として、今日は一日っ。付き合ってよね?」


 耳元でささやかれ、ハッと耳に手を当てる。

 そこには言われた瞬間のぞわぞわ感が残っていた。


「っ」


 頬が熱くなるのを感じ、俺はただ、可愛く天使のように笑みを浮かべた橘さんを見つめる事しか出来なくなっていた。






<あとがき>


 まずはお詫びを。

 この度、3日間も投稿をできなかったことに対し、本当に申し訳ございませんでした。最近、試験からの疲れか脳過労と、画面の見過ぎで眼精疲労で頭痛が酷くてなかなか投稿できていませんでした。まずまず、体調が回復しつつあるのでこれから頑張って取り返していきます! なんとか、カクヨムコン期間内には完結させるので応援の程、よろしくお願いします!!


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