第5話「部長VS生徒会長」その2


「……よし、こうなったら生徒会室に乗り込みに行くぞ‼‼」


 俺の膝の上でひとしきり泣いた後、目の下を真っ赤にした部長は元気に立ち上がりそう言った。


「えっ——いや、なんでそうなるんですかっ」


「——何も、私たちのテリトリーに侵入したからに決まってる!! だいたい、文芸部の部長である私を差し置いて何が廃部だ!!」


「まあ、言い分は分かりますけど……当の本人が言ってもねぇ」


「何?」


「え、いや……別にっ」


 鋭い目つき。

 先程までは子供のように泣いていたくせに、今の表情はさながら兵士の様だった。


「——ふんっ。いいっ! 私一人でも乗り込みに行ってやるさ、ここにある弾薬すべて持って行けば事足りるわい!!」


 そして、このやる気。


 正直、俺からしてみればここまで何かを起こそうと気になっている部長を見るのは久しぶりだ。その気力を少しは小説や読書、もしくは部屋の掃除に当ててほしいくらいだがこの様子じゃ言っても聞かなそうであった。


 鼻息をふんっ——と拭き荒らし、壁に取り付けてある銃を体中に纏わり付けていく。スカートと肌の間にはM92FS、Glork19、そしてマガジン。96式軽機関銃を背負い、手にはMK5といった意味の分からない組み合わせ。かろうじて海軍の様な夏使用セーラー服に似合ってはいるが重装備が過ぎる。


 それに——


「——というか。そんなの持って何するんですかっ!」


 部長の行動に的確に突っ込みを入れると、彼女は振り向いて真面目にこう言った。


「乗っ取るんだ。生徒会だかなんだかしらないが、私の文芸部を無くすならそれ相応の覚悟をしてもらいたい! それに、お前もつけろ!! 二等兵め!!」


「え、俺もっ……」


「部員たるもの最後は共に逝け! それが文芸部のスローガンだ」


 いや、そんなの聞いたこともないし……だいたいこの部活にスローガンなんてものはない。入部したての頃は確かにたくさんの先輩たちに囲まれて頑張っている文芸部ではあったが……それも今の部長のせいで破綻している。


「……知らないです」


「今作ったからな!」


「それじゃあもっとやです!! 行きませんからね、僕は‼‼」


「——なっ‼‼ 貴様、裏切るのか非国民め!!」


「いや別にそういうわけじゃないですけど……さすがにそれは……」


「じゃあ、なんだ! 文芸部を廃部にしたいのか⁉」


 いやはや、困ったものだ。


 確かに、部長の言い分も分かる。まだ新学期、新体制が始まって2か月と少し。生徒会や調査委員会にも大目に見てもらいたい気持ちもあるし、部長も部長で大好きな先輩方がいなくなって反動からこうなっているのは多少なりとも分かっているつもりだ。


 それに、俺だってこの文芸部は大好きだ。


 俺に本、そして文章というもののすばらしさを教えてくれたのはこの文芸部だった。今ではライトノベルや漫画、純文学など多くの文芸作品を読み焦っているくらいには日本のそういう文化に飲めりこんでいる。


 だからこそ、廃部は嫌なのは確かだ。


 しかし、相手は生徒会。それも生徒会長。


 今まであまり考えたことはないが、俺の幼馴染(笑)でもあり恋人(彼女)でもある橘六花がその座にいるのだ。


 いくら文芸部の事でも橘さんと辛らつに言い合うのは避けたい。まぁ、多分橘さんは優しいからそうならないけど……それに、俺はあの日の出来事を知っている。それも弱みを握っているくらいだ。それを逆手にとって戦うのは少しナンセンスだ。


 だからこそ、部長の質問には答えを迷っていた。


「……そういうわけじゃっ」


「じゃあ、なんなんだ!! あのクソ馬鹿生徒会長の巨乳を倒すにはこのくらいの装備がなくちゃ―—」


「え」


「おっぱいだけでっかいだけで……他の何もないってのになぁ……っちぇ、これだからおっぱいだけの女はよ‼‼」


「……」


「あぁ。あの生徒会長、綺麗で日本人っぽい癖に胸だけはでかいんだ。まったく、私からしたら天敵も天敵だよ。だからこのくらいはやってやらなきゃ気が済まないんだ!!」


「あの……急に何を……」


 しかし、部長は止まらない。


「——くそ、あのおっぱい星人めっ……こいつらの弾幕でぺちゃんこにしてやろうではないかっ……くはははっ……はははっ‼‼‼」


 唐突に、映画の悪役のように笑い出す武器調達サイボーグ。


 そんな部長を見て、先程思っていた「部長も分かる」と言う気持ちが一瞬にして消し去った。


 しかも、部長はあろうもことか……俺の彼女になった橘さんの事をおっぱいだけの女の言いやがった。部長も確かに、貧乳で背も低く子供っぽいから嫉妬しているのはわからなくはないがそれだけは見逃せなかった。


「おい」


「なんだ?」


「部長、あの一発いいですか?」


「一発……や、な、何言って……だ、だだだ、だめでしょうが!」


 俺がこぶしを握り締めて、じろじろと歩みを進める。

 すると、肩をがくんと下げて、額を抑えながらぶるぶると震えている。


 ちょっとかわいそうだったが、生憎と俺は自分の彼女のためならなんでもできるたちだ。


 部長には悪いが、ここはもう一発。



 ―———バチンッ‼‼‼



「————んひゃっ‼‼‼」


 神の制裁はいつでも悪を許さないのだ。






 次回、本編へ。




<あとがき>

 ☆100突破ありがとうございます。面白かったら☆評価とレビューも一緒によろしくお願いします!


PS:ジャルジャルのhttps://youtu.be/Vmgq8cnzBvQのネタにハマってます。





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