3.現実逃避は学院の平穏のため

 マドレーヌによるサロン襲撃しゅうげき後、案の定周りが騒がしくなっていった。私を見つけるや否や、ピンクの突進が来るので、アランくんかクロエ姉さまによる闘牛とうぎゅうショーが始まる。何故かマドレーヌも当初の目的を忘れてノリノリでショーに参加するので、周りに見物するのに足を止める生徒たちでいっぱいになる。その間に、見失う位置までアリスやアメリーたちに連れられて避難ひなんする私。


 教材や筆記用具等の紛失があれば『レティシアわたし所為せいだ』と泣きわめいて、ドン引き男率いるピンク親衛隊しんえいたいが駆けつけて大騒ぎにしたり・・・・・・。まあ、その彼女たちが吠えている時間は別の授業に出ているし、そもそも同じ授業がない。大体にして、この学院は自分のクラスがないため、身の回りの物は自己管理である。結局、先生方に注意され、周りの生徒たちからも『またか・・・・・・』と思われ始めているマドレーヌ劇団――誰が初めに言い出したのかは知らないけれど、すごく的をていると思う。


 挙句あげく、『レティシアわたしいじめられている』や『リオ様がいるのに浮気している』だの不名誉なうわさを流しているらしいけど・・・・・・がそれを許すはずもなく、噂の火がつく前に消しているって目の下にくまが増えたジルベールが教えてくれた。おかげで「レティシアわたしに会いに行く時間が取れない」と八つ当たりされるっていう文句つきで・・・・・・なんか、ごめんね?ジルベール。


 それでも、な被害は無いため、リオ様いわく泳がせているらしい――後の報復を想像したくないわ・・・・・・。




 そんなこんなで、精神的に忙しい日々を送っている。なんか、疲れてきたな・・・・・・料理する気力まで取られるし。



「ホントなんなの!? あのピンクの執念! どんだけレティを『悪役』にしたいのさ!!」

「どこに居ても、普段通らない道に行ってもいるし・・・・・・もう色んな意味で怖いんだけど」



 ピンク頭の突進により、アランくんとクロエが現在進行形で闘牛ショーを行っている。今日は、アリスと二人で図書館二階にある自習室まで逃げてきた。個室だから、鍵をかければ入ってこれない――はず。一瞬、入ってこれそうに思ったのは内緒。



「そういえばさ、あのピンク頭で思い出したけど」

「何?」

「あの頭って、アルバこっちの整髪料で何とかなるもんなの?」

「んー・・・・・・多分、いけるんじゃない? 元々の髪がストロベリーブロンドなら、どうにか・・・・・・多分だけどね」

「へぇ、一応できるんだ」

「うん、多分ね? でも、どうして?」

「いや、すっごくない? あの色」

「・・・・・・確かに、普通に生活してたらあり得ない色よね」



 二人でピンク頭の想像して、どちらともなく肩が震えだす。ぷっくくく・・・・・・クスクスクス。あ、無理だわ。



「あははは! なんであんな色にしたんだろうね?」

「アハッ! 絵の具ったみたいよね! あれは、ないわ」



 久しぶりに、こんなに大声で笑ったわ。マドレーヌのせいで忘れてたけど、学院で大切な友だちと青春したかったんだわ。リオ様やクロエとはあと半年しかないし、折角せっかくアリスもいるんだしね。学院は単位さえ取れれば問題ないし、皆との時間が欲しいから――いっその事、休学でもしちゃおうかな? クロエと一緒に授業が受けれないのは、ちょっと残念だけど・・・・・・。


 ひとしきり笑っておいて、アリスを放置したまま考え込んでいたらしい。「しわが寄ってるよ?美人さん」とアリスに眉間みけんをぐりぐりされた。ちょっと、力がこもりすぎて痛い。ごめんって! 



「どうしたの? 眉間にしわまで寄せちゃって」

「いや、ね? もうここまで疲れるなら、いっその事休んじゃお」

「ダメダメ! なんで、何もしてないレティが休まないといけないの!? レティ自身がそこまで追い込まれてる? ツライ?」

「いや、そこまでだけど・・・・・・」

「じゃあさ!一回、お継姉ねえさまたちとお泊りしようよ! 良くない?お泊り女子会!」

「・・・・・・お泊り女子会」

「お泊りして、のんびりして。本読んだり、恋バナしたり、いーっぱいお料理作るの!!」

「・・・・・・それ、楽しそう」

「でしょ?でしょ? 私もレティとお菓子作りたいし! あ、栗の時期だから栗入りのパウンドケーキとかどう?」

「いいね! 栗ご飯もいいし・・・・・・あ!キノコ狩りして、キノコの天ぷらしよう!」

「うんうん! じゃあ、お泊り女子会しよう!ね?」

「うん!やろう! 楽しみ~」



 アリスの勢いと秋の味覚たちに押し切られるかたちで、お泊り女子会が決まった。授業が終わって合流したアメリーと闘牛ショーを終えたクロエは、喜んで賛成してくれて――早速、今週末王都の西公爵家わがやでお泊り女子会をすることになった。あれ?なんか、忘れてるような・・・・・・。





 一方アリスはというと。マドレーヌの所為せいらぬイライラが治まりそうにないリオネルが、レティシアがイライラ要因の所為で休学を言い出したと知れば爆発間違いないと思っていた。そうなると、学院が壊れるかもしれない。その為、クロエやアメリーたちと女子会等別のことでまぎらわせようとこっそり相談していたのだった。案の定レティシアが休学を悩みだしたため、『お泊り女子会』という名目でレティシアの気を紛らわせることになった。


 ・・・・・・大魔王の暴走を止めるために。大魔王の癒しの時間を取り上げないように。女子たちが密かに暗躍あんやくする――学生たちの平穏のために。

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