6.エビチリよりエビマヨ派
お昼に出してもらう手紙を書き終えると、風を入れるために開けた小窓から
大きな鞄を抱えたアリスは誰に預けるでもなく、自分で私の部屋まで運んで――ドアが閉まると同時に、
「ヤバい! 聞いてよ!! ちょーカッコイイ人に会ったの!!」
そう目を
とりあえず話を聞かないと勉強も始められなくなるので、ニナにお茶と昨夜準備しておいたプリンを用意してもらう。ついでに用意したらそのまま休憩に入ってもらった・・・・・・アリスの話、長そうだしね。
立ちながら話し出そうとするアリスを止めて座らせ、お茶で一回落ち着いてもらう。
「それで・・・・・・かっこいい人って?」
「待って!
いや、食べるんかい! まあ、ちょっといつも通りのテンションに落ちたのかな? アリスが落ち着くまで、私もプリン食べて待つか。
カップを置き、プリンの乗ったお皿に手を伸ばす。今日の
私がゆっくり味わいながらうっとりしていると、半分食べた頃には
「あのね? セザールの・・・・・・」
「待って! セザールって魔法省筆頭の息子よね? 確か――攻略対象の一人!」
「そー。でも、セザールじゃなくて」
「じゃなくて?」
「セザールって伯爵家の三男でしょ? 商会の
「え、じゃあ・・・・・・そのドン引き男?」
「そんなわけないじゃん!! かっこいいのは長男の方! ベルナール様よ!」
「・・・・・・ごめん。社交を必要最低限しかしない私には、顔わかんない」
「あ、そっか。そうだった。そのために持ってきた――これ、絵姿ね!」
ジャーン・・・・・・と鞄から大きめの絵姿を取り出すアリス。そうか、これが入ってたから・・・・・・鞄大きかったのね。
チベットスナギツネさんが久しぶりに顔にいらっしゃりかけたが、今はお帰りいただいてぎこちなくなりながらも微笑みながら絵姿を受け取った。ちなみにだけど、中央大陸にはテベット地区があって、そこに
受け取った絵姿を見ると、ゲーム内の短髪坊ちゃん
あぁ、涼香は
「どこで会ったの?」
「商業区画にある古本屋さんの前」
「涼ちゃん、本買いに行ったの?」
「行ってないよ。商会に新製品のデザインの話をしにね、家から近いからお
アリスの話を聞きながら、どこで会ったか頭の引き出しをひっくり返していく。んーと、どこだったか・・・・・・な。ベルナール、伯爵家の長男。セザールが確か『セザール・ロゼ・メルセネール』だから、『ベルナール・ロゼ・メルセネール』か――あ、この人。
「この人、どこかで見た顔だと思ったら」
「え! 莉香ちゃん知ってるの!?」
「うん。この人、シリル殿下と同期生で、リオネル様と一緒にお会いしたことあるわ」
「ベルナール様って、王子たちと仲良いの?」
「うーんとねぇ。なんか、仲のいい近所のお兄ちゃんみたいな位置だったかな」
「へえー意外」
「
「いや、権力者嫌いそうって思って」
「まあ、権力に
「ほへー」
なんていう声出してるのよ、可愛いけど。
「それで? お茶でも誘ったの?」
「それが・・・・・・かっこよすぎて
てへっじゃないよ!? そこはいつも積極的だったのに、どうしたの!? 自分の好みは片っ端から声掛けてた涼ちゃんなのに、ここで乙女になるの!? いや、確かに乙女ゲームの素になった世界だけどもね!?
「じゃあ、どうやって名前知ったの?」
「見惚れてたら、お継姉様が商会の伝で
いいでしょって顔しないの! 行動力のある良いお継姉ちゃんがいて良かったと思うけれどね? とりあえず、このままでは試験勉強そっちのけだなぁ・・・・・・。どうしようか。
「で? 声もかけれなかったアリスさん? 本業はどうします?」
「本業??」
不思議そうな顔で見つめてくるアリスに、教材の方へ指を指す。あ、忘れてたって顔に書いてあるわ。大丈夫かなぁ。
「はぁ・・・・・・忘れてたのね。仕方ないなぁ。試験勉強頑張ったら、今日のお昼はエビチリ乗せ丼にしようと思ってたのに」
「え!? エビチリ食べれるの!?」
「頑張ったらね」
「やります!! でも・・・・・・」
「でも?」
「エビマヨの方が好き!」
あぁ、そうだった。涼ちゃんはエビチリも好きだけど、エビマヨの方がもっと好きなんだった。うーん、どうしたものか・・・・・・あ。
「じゃあ、前期試験終わったらベルナール様に声かける手伝いするわ! それで、アリスが見事連絡先でももらってきたら――エビマヨを作りましょう!」
「ほんとに! がんばるわ!!」
「まずは目の前の勉強よ?」
「ぅ・・・・・・がっがんばりますぅ」
物で釣るのも良くないかもしれないけれど、彼女のやる気が恋にも勉強にも向いてくれるなら良いよね? せっかく転生して、女神様からもらった二度目の人生だもの。アリスのおかげで素になった世界と位置付けできたんだから、強制力とかないと思うし。アラサーで終わった前の人生よりも楽しく生きたいし・・・・・・恋だってしたい。アリスだって、楽しむためなら一生懸命がんばれるよね?
「あ、午後からクロエが来るから、わからないところがあったらまとめておきなさいよ?」
「
私の護衛騎士を目指すクロエは――イケメン女子だった。
ニナを呼んでお茶のお代わりを用意してもらいつつ、ご機嫌になったアリスと試験勉強の準備をする。部屋に入ってくる優しい朝の日差しが、いつの間にかジリジリと照りだす昼の日差しに変わりだしていた。少し汗ばむくらい暑くなった日差しを、窓を開けて風を入れ替えることで
開け放った窓から涼やかな風が流れ込む中、アリスと二人、前期試験の教材と睨めっこし始めた。
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