③ 冬薔薇の夜会(1)
息が白くなり、手が
若干イライラが止まらないままの笑顔で出迎えてしまったが、ニッコニコの奴は王家御用達のお菓子屋さんの箱を手渡してきた。ムスッとしながら受け取った中身は、この冬限定クリームサンディー(地球で言うとマカロン)が入っていた。思わず
ちょっとこのクリームサンディーで気分が上がったので、庭が見える位置にあるソファまでケヴィンに案内してもらう。いつもの事かみたいな顔をしながらお茶の用意をするニナにミルクティーを淹れてもらい、頂いたクリームサンディーと共に出してもらう。ヤバい。この
なんて一人でじいーっと見つめていると、向かいに座った奴はまた俯いて肩を揺らしていた。もう、帰ってくれないかな? とりあえず笑ってる奴は放って置いて、初マカ・・・・・・じゃなかった、初クリームサンディーを
で、よ。何でこの人――第二王子殿下が、寒い中わざわざ
この西大陸では、四季に合わせて
食物の豊穣を祈る『春の豊穣祭』が始まれば、冬が終わり早咲きの
あ、流石乙女ゲームの元になった世界なだけあって「めっちゃ桜あるわー」って、思い出した当初は思ってたわ。でもお勉強したら、
それたわ、話を戻します。
国花の薔薇が咲く時期の初夏に、食物の成長と子供の無病息災を願う『夏の
通称『花祭り』が終わると気温が一気に上昇するから、嫌々夏が来たことを知らされる。公爵領は海沿いだから、海風で涼しく過ごせる方だけど・・・・・・問題はそこじゃない。『花祭り』が終わると、待ってるのは魔物活性シーズン。海の魔物は繁殖期が夏の為、大暴れの時期に入る。
秋の収穫が始まって一ヶ月ほど経つと、健康と食物の
冬になると、一年無事に過ごすことができた事を女神様に感謝する『冬の感謝祭』があり、地球で言うところの年越しイベント。こちらも国花の生花を
この感謝祭の最後を彩るのが王家主催の夜会で、薔薇を飾ることから『冬薔薇の夜会』と呼ばれている。これが終われば本格的な冬に入り、春の桜祭りまで社交はオフシーズンのため、旧新年の挨拶も含まれる王家主催のパーティーが昼ごろから始まる。未成年がいる家は昼から、成人のみの家は夕方から王宮に上がる。成人年齢は大体大陸毎で異なり、西大陸の成人は十六歳。私は現在十三歳で、もちろん未成年。そう、未成年。目の前に座る、いい笑顔でドレスを持参した人は三つ上。そう、十六歳。成人おめでとう、殿下。何回でも言おう! お願いだから、私を巻き込まないで!
「今度、冬薔薇があるだろう?」
「えぇ。私はお昼頃伺う予定ですが」
カチャリと、珍しく音を立ててカップを置く殿下。どうしたのかと顔を向けると、いい笑顔でこちらを見つめていた。あぁ、私が顔を上げるよう
「君はこれが終われば、領地へ帰るんだろう?」
「殿下もお忍びでいらしたことがあるから、ご存知だと思いますが。我が領地は夏が魔物活性シーズン。冬は南公爵領が魔物活性シーズンです。ですので、雪の積もらない我が領地は、冬は漁にせいがでるの・・・・・・」
「レティ?」
え?何か地雷あっ・・・・・・あったわ。何でよ。いいじゃない、殿下呼びで。何が不満なのよ。
「あ・・・・・・えっと、リ、ォネルさっま」
うぅ、噛んじゃったじゃん! 慣れないのよ、名前呼び。大体、婚約者になったからって、殿下呼びの何がいけないのよ。
「よくできました。あぁ、でもいつでも『リオ』と呼んでもいいからね?」
ご機嫌になった殿下は、ニコッとしながら頭を撫でてきた。そーじゃない!! あんたは目的を果たせよ! どうせ、女
「して、リオネル様。本日のご用件は?」
「あぁ、そうだったね。君が領地に帰る前に、二人の時間を取りたくてね?」
「・・・・・・二人の時間を取るなら、ドレスはいらないのでは?」
「もう、君なら察してるだろう?」
「女性除けに、夕方からの参加にせよと?」
未成年でも、夕方からの参加にできる唯一の方法。それは、婚約者が成人して初めて『冬薔薇の夜会』に参加する時だけ、家族の許可を得た場合は
こうなれば、拒否も出来ないだろうと返事をしようとしたら、殿下が目の前に迫っていた。所謂、アゴクイ(だったかな?)の状態。
「聞き捨てならないな。俺が、君を女除けの道具にする為にここに来たみたいだ」
「・・・・・・違うのですか?」
察して欲しいのはそこじゃないと、あの怖い笑顔で迫ってくる。久しぶりで怖い・・・・・・ていうか、違うの? 違わないの?何? え、地雷踏んだ!?いつ!?
殿下の
「はぁー。レティシアは、いつになったら俺が本気だと分かる?」
いや、そんなアゴクイをしながらため息つかれても。あ、目までウルウルし始めた。子犬みたいな顔されても、この状態で何も出来ませんて! ていうか、本気って何の話??
「その顔、本当にわかってないな。まあ、いいか。今はこれで許してあげる」
「? あの、リお・・・・・・」
何か納得?したのか、殿下の中で折り合いがついたようなので、今なら断ってもいけるんじゃないかと声をかけようとした瞬間。目元に触れる感触。え?えぇ!? キスされた!?しかも目元に!! このアルバで『目元にキス』は愛の告白と同義。は? え?本気って? え?そっち!?マジですか!?
目元を手で押さえながら混乱する私をよそに、殿下は耳元で「当日は迎えに来るから、待ってなさい」と話され、ケヴィンと共にサロンを出ていった。残ったのは、殿下からいただいた赤いクリームサンディーと同じくらい真っ赤な顔で混乱する私と、何事もなかったかのようにミルクティーのお代わりを淹れるニナ。
この後心配していたイモのことすら忘れ、夕食の声がかかるまで、顔を手で覆って声にならない声で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます