6.恋と電波と後期試験(2)
朝食後、珍しく顔の熱が引かないリオ様とそのまま馬車に乗り込み、学院の試験へと向かった。ピンク頭の襲撃もなく無事試験を終えた後、私たちを見つけたジルベールに「このままリオを連れて帰ってください。いいですね?」と馬車に放り込まれて帰宅した。普段と違って、圧が強めのジルベールの笑顔は怖かったです。
終始いつもとちがうリオ様は、素直に馬車に揺られていた。開き直ったのか、何故かご機嫌で「休むのも大事だよね?」なんて言いながら、手を握ってくる。うん、それだけで癒されるなら手くらい差し上げますよ。
こんな調子で、家に着いてもリオ様はずっと傍を離れなかった。料理中に邪魔されなかったから、別にいいけどね。一緒にご飯食べたり、本読んだり。冬初めの風が黄金色になった葉を運んでいくのが見渡せるサロンで、暖かな日差しに包まれながらのんびりとお茶を楽しんだ。こんなにゆっくりとリオ様と過ごしたのも、とっても久しぶりな気がするわ。私もリオ様も、マドレーヌのおかげで色々忙しかったしね。
王宮に帰ると仕事を再開するであろうリオ様は帰りはしなかったが、流石にこの日の夜は隣の部屋でお休みになった。いつの間にか、隣の部屋はいつでもリオ様が泊まれるというか、住める仕様に変わっていた。いつ変えたんだろう・・・・・・たぶん、執務をし始めた頃には整っていたんじゃないかと思うわ。
翌朝。実技試験もあるが、今日頑張ると言っていたアリスのためにお弁当を作った。焼きサーモンのほぐした身を混ぜたおむすびにこの間のキノコの天ぷら、ゴボウと
実技試験が午後も続くリオ様用にも、勿論用意した。また今日も「休ませるのに連れて帰れ」とか言われそうだから、お腹を空かせて待ちぼうけしないように私の分もついでにね。
今日もリオ様と馬車に乗り、実技試験へ向かった。
実技試験は問題なく終わり、いつものサロンの一角でアリスたちとお弁当を食べる。実技試験で撃沈していたアリスは、お弁当を出すと急激に元気を取り戻して黙々と食べだした。その様子に、誰からともなく笑顔になった。
サロンにいたにもかかわらず、襲撃もなくのんびりとお昼を済ませた私たち。まさかのベルナールが門前に迎えに来ているアリスを皆で玄関ホールまで見送り、他はそれぞれの実技試験会場へ足を向けた。
私はというと、ジルベールに「今日は王妃様より、リオとともに王宮へ来るよう伺っている」と言われ、リオ様の実技試験後にそのまま王宮へ向かうことになった。なんでも、来年ご結婚を控えている王太子殿下方とご一緒に今年の冬薔薇の夜会についてのお話があるらしい。リオ様の実技試験もあと一つなので、待つために図書館へと向かった。本でも借りて、二階の自習室で待っていようと思う。料理に使える薬草に興味があったので、折角だから探してみよう。
図書館に着き、目的の本がある場所を司書さまに聞く。どうやら、一階の奥の棚に薬草関連の本が置かれているらしい。本の山の中から、本の背をなぞって探していくと・・・・・・少し分厚い薬草が載った本を見つけた。手に取って、中を確認してみる。あ、これだわ。
一発で目的の本を見つけた私は、しっかりとした表紙のために割と重めの本を抱えて、ゆっくりとした足取りで階段を上っていくと――上の方に、見慣れてしまったピンクの頭が目に入った。え、ここで見つかるの? せっかく、最近顔を合せなかったのになぁ。
あちらは気づいていないので、そのままそっと静かに横切ろう――としたのが、間違いだった。マドレーヌが振り向き、図書館に似合わない大声で「あ!悪役令嬢!!」と叫んだ。
余りにも近場で叫ばれて、ビックリした
なかったんだけど・・・・・・手元に、あったはずの本がない。
あれ、割と重たいのに・・・・・・どこ行った?
周囲を確認しようと振り返ろうとしたとき――ズンッ!と足に重みが降ってきた。うぅー・・・・・・マジか・・・・・・。
「あんたね! 今までどこに居たのよ!?」
「・・・・・・」
「ちょっと! 何か言いなさいよ!?」
「・・・・・・」
正直、相手していられないほど痛い。足は動きそうだけど、ちょっとでも動かしたら痛い。
「はっはぁーん。やっと、自分の立場がわかって黙ってるのね? ざまあ、ないわね!!」
「・・・・・・君、図書館では静かにしなさい」
「――!? すっすみません。これに
「静かに!!」
「すみませんでしたっ・・・・・・!」
マドレーヌが何か言っていたが、全く頭に入ってこなかった。途中、誰かに何か言われているなぁとは思っていたが、それどころではない。え?これ、立てるかな・・・・・・。
マドレーヌが去ったことも気づかなかった私に、頭上から優しい声が降ってきた。どうやら、マドレーヌと話していたのは、先程の司書さまだったらしい。
「ペッシャールさん、大丈夫ですか?」
「あ、司書さま。すみません、
「いえ、それはよいのです。それよりも、ペッシャールさんの足は動かせそうですか?」
「・・・・・・どうやら、歩けそうにないみたいです。すみません、大切な本を」
「本も大切ですが、
「・・・・・・はい」
本よりも私の足の心配をしてくれた司書さまは、医務室まで連れて行ってくれた。女性の司書さまで良かったわ――あとで、リオ様に何か言われても困るし。場違いな心配をしていた私は、この後実技試験後に飛んできたリオ様に怒られた。何故、一人でピンク頭と
医務室で足を見てもらうと、以前
リオ様と診断を受けている間に図書館まで往復してきた司書さまが「貸出手続きしておきましたから、お持ち帰りいただいていいですよ」と、先程落としてしまった少し分厚い薬草の本を、わざわざ本の傷なども確認してから持ってきてくれた。え、嬉しい! 帰ったらじっくり読む!!
本を受け取った私は、有無を言わせない顔のリオ様に抱えられながら馬車に乗せられて王宮に向かった。この後、王妃様からのお話も王太子殿下方がいらっしゃるのにリオ様の膝の上から逃げることは許されませんでした。終始いい笑顔のリオ様と
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