7.チキンハートは恋より食い気(1)
「君とは一度、二人っきりで話してみたかったんだ」
ニコッと笑い、ポケットから赤薔薇のタイピンを取り出して付け直しながらそう話す殿下。顔に笑顔が張り付いているみたいで、とても胡散臭いと思うんだけど。おかしいな。お茶会に来て、真っ直ぐお茶請けたちが待つ方へ出向いたはずだ。何故、殿下と二人きりでお茶しているんだろう・・・・・・。
***
襟に淡い黄薔薇のコサージュが咲くミントグリーンのティードレスを
今日は少し肌寒いが、
髪は、コサージュと同じ黄色のリボンでツインテール。本当に可愛いんですよ、自分で言うけど。ジゼルと現在見習いとして彼女に付いてるニナの二人で、とっても可愛くしてくれたの!
そこまではよかったんだ・・・・・・そこまでは。完全にお茶請け研究へ、思考が移動していたしね。あのね?
聞いた瞬間の私の顔「お嬢様の魂が抜けた!!」って、ジゼルが慌ててケヴィンとアルマン呼びに行くくらい急激に白くなったらしい。おかげさまで、出発直前までお菓子のカタログや我が家の
お茶会だから食べれないし、私は白くなっていく一方での苦肉の策でよく持ち直したと思うよ。というか、よく元の気分まで持ち直させたよ。よく出来る使用人に囲まれてるな、ありがたい。大事にしよう・・・・・・って、あれ? アルマンいなかった? あの人、
そんなこんなで気分の浮き沈みもあったが、時間が迫り、ドレスと同色のボレロを羽織りながら母と共に馬車に揺られている。
あ、今日のドレスコードはね特別でね? 参加者全員、黄色の薔薇飾りを身につける事になってるの。友好色と言われる黄色の
ちなみに、王族は公式行事に必ず王族の証の赤薔薇を身につける。他国の王族は、自国の国花を身につけるそう。見たことないから薔薇しか知らないけど、国花を身につける風習は西大陸独自なんだって。これは、直前のルブーフ先生の授業で知った。
そういえば、乙女ゲームの夜会の場面は妹に見せてもらったな。確か紫色の薔薇を、レティシアがドリルの上部につけていたような・・・・・・。まあ現在ドリル装備ではないし、成人まであと数年は白薔薇だから気にしない。気にしない。
そんなことを思い返していると、どうやら王宮に着いたようだった。馬車の扉が開き、母と共に降り立ったそこは、まさしく『ザ・王宮』の名にふさわしい王宮のエントランスホール。イメージ的には、地球で言うとエルミタージュ美術館の内装に近いかな?白亜の階段に映えるレッドカーペット。アルバの神話が描かれる天井絵の下に伸びる廊下を通り抜け、アーチを潜った先が本日のお茶会会場の中央庭園。
王家のお茶会は大体この庭園か、この庭園が
ほぼ顔パスの受付は、建物に魅入っている間に母が済ませていた。建築に詳しくなくても、普通に
「レティは相変わらずね」
「申し訳ありません、お母様。王宮の建築美に魅入ってしまいました」
「いいのよ? 建築美を学ぶのに、王宮は申し分無い教材ですもの。それよりも受付は終えたから、あちらを見てきてもよくってよ?」
そう母が指さした方には、私の愛しい
「――っ!! 行ってきます!」
「あらあら」
目を輝かせた私は、一目散に愛しい
「レティシア嬢」
呼ばれると同時に腕を掴まれた。こんな呼び方するのは、あの人しかいない。他の人だと「ペッシャール嬢」か「レティシア様」だ。だけど、それならキャーキャー聞こえないのはおかしい。何故?
振り返ると、掴まれた腕の先に居たのは案の定第二王子様。そう、いつもならキャーキャーされているはずの王子殿下。誰も王子殿下が地味な色合いで、変装して紛れてるなんて思わないでしょ? だからか・・・・・・このヤロー。ひょっとして、認識阻害までかけてる? ていうか、赤薔薇どうしたよ。
「君はこっちね? 許可は取ってあるから、ついてきて。あ、見つかると困るから、挨拶は無しね?」
返事も何も言う前に、静かにするよう人差し指を唇に当てられた。人混みの中、誰も見てないのをいい事に何してくれてんだ。こちとら中身は、恋愛し損ねたアラサーなんだ。不覚にも十歳相手にドキッとしたじゃないか・・・・・・レティシアは七歳だからいいのか? ていうか、許可って何?
いやいや、そうじゃなくて! 引っ張られるまま付いて行ってるけど、奥すぎない!? 中央庭園奥って、王族専用温室しかなくない!?
焦る私だけど、手は一向に離してもらえず。ついてこいと言われたから、黙ってついていくしかなく・・・・・・。薄紅の小薔薇が咲き誇る温室まで、のこのこと着いてきてしまった。この状況でなければ、早咲きのアルバにしかない小薔薇が観れるのは嬉しいけども! この状況でなければね!!
そして、冒頭に戻ると。
「・・・・・・左様でございますか」
「あれ? やっぱり嬉しくないみたいだね。とりあえず、お茶飲む? いや、君はお茶菓子の方がいいのかな?」
「いただきます」とお茶を一口いただいて、深呼吸してから殿下の方へ向き直る。お茶会
「嬉しいか――と聞かれましたら、畏れ多いとしか・・・・・・」
「以前の君とは違うよね、最近の君」
「・・・・・・以前は幼きこともあり、殿下には大変申し訳なく」
「いや、謝ってほしいわけじゃないんだ。なぜ君が変わったのかと思ってね?」
レティシアが変わったのは殿下にとって予想外だったのか、普通に疑問に感じているような話し方だ・・・・・・というか興味津々? 直球に聞きすぎじゃない? 目が怖い笑顔のままだけど。
「と、言われましても。五歳を過ぎ、勉学に力を入れようと試みただけですが・・・・・・」
「王子妃になる為に?」
「いえ! あ、えっと、その・・・・・・」
目の前に座る殿下は、ほぼ反射で応えた私に驚いていた。笑顔が怖いけど、勢いで否定してしまった・・・・・・いや、私ですら驚いたわ。
「へえ。初めて聞いたよ、君の本音」
「ぅ・・・・・・この際言ってしまいますが。殿下、
斜め下からケーキ達の甘ったるい匂いが鼻をくすぐる。手をかけたいが、前から徐々に伝わってくる黒いオーラ。だめだ、数分前の私を呪いたい。何も言わずにお茶とお茶菓子だけ頂いとけばよかった・・・・・・。ほんと、チキンハートはどこへ逃げたんだ?
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