第一章

1.いわゆるアレでした

 あ、これはいわゆるアレですね。転生だわ・・・・・・。そう思ったのは、先程までいたエレベーター内ではなく、持っていた資料も手元にないし、代わりにフリフリの可愛らしい服に身を包んだ小さな手が見えるから。


 よくよく思い出すと、強引に湖へピクニックに連れて行ってもらったにもかかわらず、侍女の持ったバスケットを私が持つ持たないで無理矢理奪った拍子ひょうしに足をひねってすっ転び、湖へポチャン。高熱で寝込んで、前世の『資料を他部署へ持っていくのに乗り込んだエレベーター内でまさかの地震にい、建物が崩れた瞬間』を思い出しただけ。うん、前世は地震でそのままだったみたいね。建物相当そうとう古かったし、エレベーターは乗るたびにガコン!って言ってて怖かったし・・・・・・修復作業は、確か仕事終わってからの予定だったはず・・・・・・間に合わなかったらしい。


 今世は今覚えてる限りじゃ、相当我儘わがまま娘だわ。困ったな・・・・・・これで転生先が乙女ゲームの悪役令嬢とかラノベ的展開のヒロインとかなら死ぬかよくて追放か――え、嫌なんだけど。乙女ゲームなんて妹がやってたのを聞きかじったくらいだし、ラノベも通勤中に時々読んでたくらいでほぼ知識無し。あ、詰んだわ・・・・・・。



 とりあえず、そんな世界でない事を祈りつつ、もう少し我儘以外の今世の私を整理してみよう。さいわい、まだ誰も部屋に来ない朝早い時間だし。


 ベッドから出て、包帯で軽く巻かれた足を気遣きづかいながら近くの机までゆっくり歩く。けそうになかった為、何も履いていない足裏に少しひんやりと絨毯じゅうたんの感触が伝わる。熱が下がりたてのせいか、すごく気持ちいい。左足は若干じゃっかん痛いが、捻った自分のせいだし。ゆっくり歩けば、さほど痛くはない。侍女には引っ張ったりしちゃって、申し訳ないことをしたな・・・・・・。


 机の引き出しから硝子ガラス?で出来たペンとインクつぼ、可愛らしい便箋びんせんを取り出して纏めてみた。



○名前は確か『レティシア・ロゼ・ペッシャール』。

現在五歳になったばかり。四公爵家の一つ、このローズの中でも情に熱いと言われるペッシャール公爵家の一人娘。海の街で領民は漁師や我が家の対魔物用海兵隊レンジャー所属が多く、情に熱い男や女将さんたちばかり。恩義のある公爵家のただ一人のお姫様を可愛がるため、我儘やりたい放題娘だった。



 ・・・・・・今朝起きるまでは。中身はアラサーだから、我儘女は痛い・・・・・・やめよう、我儘。まだ修正可能なはず、五歳だし。それに、五歳なら子供の可愛い我儘で済むはず!!



○ピクニックは先週末。

寝込んでおよそ一週間? 手元にある小さなカレンダーに印が書いてあった。今看病していたであろう人物は部屋にいない。おそらくベッド脇に置いてあった水差しの交換。熱に浮かされても聞こえていた心配する声は、間違いなく私が困らせた張本人の侍女のジゼル・・・・・・



 ジゼル?! よかった! 情が熱い我が家なだけに、まだ解雇かいこされていないのね! ということは、ジゼルの処遇しょぐうは間違いなく今後の私の行動よね・・・・・・。まずは、関係各所に謝ることから始めようかしら・・・・・・。



○魔法超大国ローズ。

西大陸にある、魔法発展がいちじるしい国。貴族には全て「ロゼ」がつき、魔法が二つ三つ若しくは上位魔法や特殊魔法が使えるため、五歳の冬に教会で属性鑑定をしてもらって制御法を家庭教師に習い始める。私は今五歳なったばかりで、あと半年したら属性鑑定を受ける。って、五歳の誕生日にお母様が教えてくれた。そういえば、レティシアは火魔法特化型・・・・・・



 そこまで思い出して、何故かまだ知らないはずの属性魔法がわかった・・・・・・あれ? 違うな、これ。知ってるんだ。どこだったか・・・・・・火魔法特化型レティシア、レティシア。レティシア・ロゼ・ペッシャール・・・・・・レティシア・ロゼ・ペッシャールじゃん?! 思い出したわ! 前世の、しかも死ぬ直前に、妹がやり込んでた乙女ゲームの悪役じゃん!! 乙女ゲームにしては背景描写が綺麗だし、髪色や瞳の色がアニメみたいにぶっ飛んだカラフルじゃなくて好感だった。何より悪役令嬢のレティシアが当たり前のことをしただけなのに、彼女を我儘女呼ばわりする攻略対象たちがめたんじゃないかって言う冤罪で別大陸にまで追放されたんだよ――って、涙ながら熱く語る妹をなだめるのに大変だったわ・・・・・・。死ななかっただけいいじゃないって宥めたわ、当時。


 妹は、小麦色の肌に映える少し赤みがかったダークブラウンの髪と琥珀色の瞳を持つレティシア推しで、私も綺麗なお姉さんだと思ったわ・・・・・・きっついドリル装備してたけど。ゆるふわパーマにしたら可愛いのにとレティシアの絵を描いては、二次創作仲間達ときゃっきゃっしてたな・・・・・・妹。確かに、ゆるふわパーマのレティシアは悪役令嬢ではなく、外国の女優さんの様に美人だった――て、そこじゃない! 追放だわ! このまま我儘では、攻略対象たちの思い通りの我儘女で追放よ! 何故かどのルートでも追放になるのよ、婚約者は固定なのに。なんでよ?! どんだけ皆レティシアの事嫌いなのさ!



 ・・・・・・やっぱり、我儘治すにはまず先日の謝罪からにしよう。幸いにも中身はアラサー社会人、それなりに知識もある。何よりレティシアが可愛いと言う情報以外、この乙女ゲームの情報は誰が攻略対象だったかくらい。タイトルすら聞いてない――なんでよ?! 妹よ! もう少しオタクっぽい突っ込んだ内容を、何故姉に教えなかった!! 会えばレティシアがどれだけ可愛いのか・・・・・・しか教えてもらってない! あの芸能人が格好いいだの可愛いだの聞いてるノリで、レティシア可愛いって聞いてたじぶんも悪いと思うけど!


 ・・・・・・いや、今いない妹に頼んでもしょうがない。とにかく! 追放は嫌だし、我儘女も嫌。ラノベみたいに小言こごと言って嫌がらせされたなんて言われたくないし、それよりも乙女ゲーム自体に参加したくない・・・・・・よし! 籠ろう! まずはジゼルに謝って、関係各所にも謝りに行って――籠る!


 ・・・・・・公爵令嬢としての社交もあるから、最低限こなして出来るだけ家から出ない! よし! そうしよう! お母様怖い・・・・・・のも思い出したから、最低限頑張ろう!!



 ・・・・・・まずは、ジゼルが戻ってくるまでもう一回休んどくかな。立ったり書いたり打ちひしがれたり、一人動いてのどは乾くし、お腹空いてきたわ。


 そういえば、この世界って、乙女ゲームの世界だから日本と同じ調味料ってあるのかなー。あったらご飯とかお菓子とか作りたいな・・・・・・妹の話聞きながら、よく作ってあげるくらいには料理が好きだったし。でも、公爵家の御令嬢だと普通は無理よね・・・・・・。


 とりあえず寝て、起きてから考えよう。

 




 机の上を手早く片付け、先程よりも登った日差しがベッドの脇を照らし、明るくなってきた部屋の中でまた布団に入ることにした。急に動いたおかげで、身体中からだじゅうギシギシ言っていたけど、気にしない。


 お腹すいたわ・・・・・・。あ、ポテサラの口になってきた。

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