③ 私の護りたいもの
もう何年も西公爵家の領主邸で過ごす私の朝は、ここの
今年の冬は、もう一つ日課が増えた。早朝鍛錬も早くに切り上げるため、朝は割と早い時間から暇になる。その時間を利用してあの子の部屋へ行き、練習と称した護衛の任務(練習)につく――と言っても、護衛対象も朝は早くから起きているので、彼女の
今日も鍛錬を早々に切り上げ、彼女の待つ厨房の一角を訪れた。周りには見知った料理人たちがせっせと朝食の準備をしていたが、家主である令嬢が
『ぶったぁ・ぶったぁ・こぶた~♪ おなかがすいた~♪』
「レティ? それは――歌なの?」
「はっ、クロエ姉さま! あはは~。昨日の帰り道に出てきたオークさんを、何の料理にしようかと・・・・・・ちょっと鼻歌をば」
恥ずかしかったのかバツの悪そうに微笑むレティシアは、領地へ帰る道中で出会ったオークを何の料理にしようかと考えていただけのようだ。本当に料理の事ばかり考えているわよね、そこが可愛いけど。そして、それは鼻歌でいいのね?
(ちなみにレティは日本語で歌っていたので、アルバの人にしたら鼻歌?っぽく聞こえるらしい。)
彼女が作るものは美味しいし、作っている姿はなんともまあ可愛らしくて。こんな子をお嫁にもらえるなんて、何度殿下を
オーク肉と格闘しながらも、
彼女と初めて会ったのは、ある公爵家の愛娘のお披露目会であった。当時幼かった私は、ただ単に年下の女の子がチヤホヤされる状況を良く思っていなかった――というよりも自分が世界の中心だと思っていたので、自分以外の子に注目がいくことが嫌だった。当然、この時も家格とか関係なく私より目立っているのが気に食わなくて、誕生日に買ってもらったばかりのキラキラ輝く大粒のエメラルドがついたネックレスを自慢するためだけにつけていったのだ。
「かあさま! アレほしい!」
「あれはヴァリエ家のお嬢さんのよ?」
「かあさまは、レティがかわいくないの??」
「いいえ、可愛い私のレティ。でも、あれは彼女のよ?」
「公爵夫人、こちらはどうぞレティシア様に」
「それじゃあ、悪いわ。ヴァリエ夫人」
「いいえ。この子もレティシア様にお渡しするために、持参したようですので」
「ありがとーヴァリエ夫人!」
わざとらしい笑顔でお礼を言う年下の女の子。やっぱり気に食わないし、私の大事なプレゼントをいとも
趣味の悪そうな髪型を見せつけて、これでもかと装飾を
そして、それは突然に。
両親とともに招かれたのは、貴族相手に
公爵様を見過ぎて上を向いていた所為もあるし、周りをよく観察していなかった所為もある。目の前に迫る、赤っぽいダークブラウンの髪がふわふわと揺れていることに気づくのが遅れた。私が年上ということもあり、二年前から埋まらない身長差は健在。背の低い彼女を私が視界にとらえた時には、
「ク、クククックロエさん! あ、あの時は、申し訳ありませんでした!!」
・・・・・・え? 私、謝罪されてるの? どういうこと? ますます訳が分からなくなった私は、助け船を求めようと両親を見た。母はニコニコしながら「二年前の事よ」とこっそり教えてくれた。二年前? あ!お披露目の時ね。え、もしかして『私の物を取った』ことに対する謝罪なの?
勉強した今ならわかるよ、ものすごくマズイ状況な今を。とにかく顔を上げてもらおうと、レティシアに声をかけた。
「えっと、あの~ペッシャール様? お顔をあげてく・・・・・・」
「すみませんでした!!!」
二年前とは打って変わって大人しい、いや公爵家としてはシンプル過ぎるドレスを身にまとったレティシアは、まさかの更に低くなってしまった。もう、私にはどうすることもできない。引きつらせかけた顔を頑張って笑顔にして、公爵夫妻に目線で助けを求めた。
「レティ、それだけでは何かわからないだろう? ほら、クロエ嬢だって困っているよ?」
「はっ!? そうでした!!」
公爵様のお言葉でやっと状況を理解したのか、しゅんとしながら手先は器用にソワソワしていた。器用ね、ちょっとその顔可愛いし。言おうか言わないか口をパクパクしながらこちらを
彼女の話を聞いて、謝罪は素直に受け入れることにした。二年前に手放したエメラルドのネックレスを更に綺麗に磨きぬいて返してくれたのもあるけど、今の彼女なら信じてもいいかなって思ったから。謝罪を受け取り仲良くなったレティシアは、やっぱり我儘だった彼女とは全くの別人だった・・・・・・というのも、話すと日々自分を磨くため(今では料理をするためともいえるが)教養を身に着けている事がうかがえるので、初めて会った時の彼女は幼さゆえの我儘をしていただけにしか思えなくなったのだ。
そうして話していくうちに「レティシアと呼んでほしい」と彼女に言われるがまま親しく名前呼びをすることになり、気づいた時には彼女の部屋に招かれていた。なぜ、クローゼットを開けているの?
「何か一つ、好きな物を選んでください。これは私のせいで貴女の大切な物を取ってしまった反省と、貴女への謝罪のためです。
レティシアはそう言って、私に好きなように選ばせるために侍女を残して部屋を出て行った。なんか小難しいことを言っていたが、残った侍女さんに詳しく聞くと「大切な物を取り上げてしまったのに、誠心誠意謝罪が伝わる品物って何??」とあたふたしながら、口先だけの謝罪だけでは伝わらないと思った彼女が選んだ品々らしい。「どれがいいかわからないから、選んでもらおう!」そう思って、私を思い浮かべながら新品の物を
この時、大事なものは返してもらったし・・・・・・上から目線でもなく普通に謝ってくれたので、何も
様々な職業に根を生やし情報を集める特色のある
「騎士になるなら、体力づくりが必要でしょう? これ、差し入れだよ!」
レティシアに連れられて、いつの間にか西公爵家の
「クロエ姉さまの素敵ボディを
と言ったように、主に『食事面』のサポートを徹底的にしてくれた。レティシアが楽しそうだったから、好きにさせていたのも原因だけどね。
彼女とともに訓練を続けて、今回の冬薔薇の夜会。可愛い後輩たちの家の
グラスに残った輪切りのレモの実を一つずつ
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