② 自称ヒロインの活動録(2)

 劇団が活動を始めて、早二月ふたつき。もうすぐそこまで押し寄せている冬の寒さに、体が毛布を離したくなくなってきた頃。試験勉強を始めだす学生たちがちらほら出始めているが、この劇団員たちは試験勉強どころか取るはずの授業に一切いっさい出ずに過ごしていた。この世界アルバが現実だと思っていないいわく、「ゲームの中だから嫌いな勉強もやらなくていい」らしい。



「はぁ~・・・・・・。うまくいかないわねぇ・・・・・・」

「「??」」

「どうかされましたか? 姫」

「え? ああ!何でもないのよ? (いるの忘れてたわ)・・・・・・ただ、どうして『わたしばかり』なのかと思って」



 あっぶな! ここのサロンって居心地良いから、コイツらいるの忘れて思わず本音がれるところだったわ。とりあえず誤魔化ごまかせたからいいけど。それにしても、あの悪役令嬢やってる、全然自分からからんでこないじゃない! こっちが一生懸命ヒロインっぽく振舞ふるまっているのにさ。職務怠慢しょくむたいまんよね? あ、それともだからラノベ的展開の『悪役令嬢がざまあする』方をねらっているのかしら? それなら、ヒロインと仲良くしてるのもおかしな話よね・・・・・・いや、この『マルレーヌわたし』がヒロインだとしたらラノベみたく『ざまあ』できるものね。なるほど、そっち狙いかも。じゃないと、攻略対象たちがあの悪役令嬢やってる周りにいるのも納得がいかないものね。そうね、そうなんだわ! じゃあ、やっぱりわたしが『ヒロイン』として、しっかり進めないとね!


 いつの間にか考え込んでいたマルレーヌは、考え込んでいる彼女のことを『いじめに悩んでいる姫』と勝手に解釈していた劇団員たちに更なる『マルレーヌ的ヒロインシナリオ』を吹き込んでいくことにした。虐めの次は、『悪い噂』を。



「きっと、姫のかわいらしさに嫉妬しっとしているんですよ!」

「姫、落ち込まないでください!」

「大丈夫ですか? 我々がついていますから!!」

「みんな・・・・・・ありがとう。姫も負けないようにするわ!」

「「「姫!(嗚呼ああ、なんて健気けなげで愛らしいんだ!!)」」」

「・・・・・・そういえば、聞いた話なんだけど。『あの方』が、えっと、その・・・・・・あまり大きな声では言えないのだけど」

「どうされました?」

「『あの方』とは――もしや、ペッシャールですか!?」

「しっ! お前、声が大きいぞ!! 姫、またペッシャールに何かされたのですか!?」

「あ、いえ! ちがうの・・・・・・ちょっと耳にしただけなんだけどね。あの方、リオ様がいるのに――その、別の男性と・・・・・・」

「まさか! あいつ、殿下がいるのに浮気しているのですか!?」

「なんてやつなんだ!!」

「やはりペッシャールなんかに王子妃なんてつとまるはずがないんだ!!」

「みっみんな!! そんな大声では・・・・・・ただ聞いただけですし、本当かどうかも。それに、またわたしが――」

「「「ご安心ください!!」」」

「我々が、あんな女狐めぎつねからお守りいたします!!」

「何かあればぐにおっしゃってください!」

「姫のためなら、なんだっていたします!」

「みんな・・・・・・ありがとう! 姫は頼りにさせていただきますね!」

「「「はい!」」」



 こう言ったように、どんどんレティシアに不利な噂の種を次から次へと流していった――が、それを良く思うはずもないが火消しに走ることになった。マルレーヌの計画を邪魔しないように上手いこと情報操作をしているだけでとどめているのは、流石さすが腹ぐ――おっほん。出来る男前であった。泳がせていたおかげで、マルレーヌの計画の全容ぜんようが見えてきたのは、言うまでもない。流石腹ぐ――ゲホ、ゴホゴホッ。


 泳がせすぎてレティシアに怪我けがをさせてしまう失態もあったが、それはまだ若い彼のこれからの成長に無くてはならない部分であったと目をつむっておいてね。お約束だよ?




◆◆◆


「こちらが、転入時から現在までの記録になります。先程の転入までの記録には見受けられませんでしたが・・・・・・所々小声すぎたりわけのわからない言葉があって聞き取れない部分もありますが、おおむねこのようにわめいておりました」



 渡された書類は、ピンク頭が行動を取り出したと思われる時期をまとめたもの。見たところ、やはりこの学院に入ってから起こした行動であった。外にもうけた子をひきとったのなら、最後まで面倒をみろよ――ジルエット伯も、残念だな。



「・・・・・・ピンク頭は、どこまでレティシアを貶めたら気がすむんだ?」

「母上に渡されて、だまされたと思って読んではみたが・・・・・・まさか、ちまたで流行りの『物語の主人公』の様に振る舞っていたなんてな。でも、これで『何故レティシア様を標的ターゲットにしたのか』がわかったじゃないか。物語に出てくる『悪役令嬢』の婚約者は『王子様』だしな」

「そうなると・・・・・・物語が終わるまで、続く可能性がありますね」

「なら、こちらも乗ってやろう。物語が終わるように」

「「仰せの通りに」」



 あのピンク頭は、このの逆鱗に触れたんだから――さて、どうしてやろうか? それにしても、ひとつ気になる事があるんだが。





「ところで、これは誰が書いた報告だ?」

「「・・・・・・」」

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