第9話 俺は、俺の自由世界では誰も「こんな世界は嫌だ!」と思わないようにしようと思った

意識だけの世界では、自分がイメージできる姿になら自由に分身することができた。



いちいちカツラやコスプレ衣装を使わなくてもいいのだ。



体格や体形も思いのままだ。



種族だって変えれる。



猫や犬や爬虫類や虫みたいなものにも、変身できる。



大好きな漫画の主人公なんかにも変身できてしまう。



まさしく何でもありだ。



ただし、そのイメージができなければならない。



つまり能力次第で、いくらでもいろいろな姿に変身できるが、イメージ力が不足していると楽しみ方が限られてくる。



だから、俺たちは、懸命にいろいろな世界から良さげなイメージを拾い集めた。



消滅してしまった元の世界の過去にも再訪し、まだ読んでいない漫画や小説などを大量にかき集めて持ち帰った。



意識だけの世界であれば、すでに消滅してしまった物理世界であっても、映画のフィルムを巻き戻して、再びその映画をじっくり見るようなことが可能なのだ。



実に便利だなと思う。



というか、今までの、束縛が酷すぎたのだろう。



宝物は探せば無数にあった。



素晴らしい景色、素晴らしい生物、素晴らしい植物、素晴らしい物語、素晴らしい芸術、音楽、イラスト……



素晴らしい精神、素晴らしい感情や気分や喜びや満足などもすべて片っ端から持ち帰った。



丹念に探すと、誰かさんの見た夢の世界の中にとてつもなく素晴らしい世界が見つかったりもした。



俺は、理解した。



昔の俺の世界では、多くの人々が、生きるためにあくせくと働いていたが、本当は、ただ生きるためではなく、それぞれが自分が本当に満足できる自由世界を創造するために生きるべきだったのだろう……と。



あれをしろ、これをするな、受験勉強をしろ、有名企業に就職しろ、親の期待に応えろ、社会の求める人材になれ、世界の支配者に何でも従う者になれ……



いいや、違う。俺は、そんな世界は嫌だと思う……



多くの人たちが、そんな世界は嫌だと実は心の底では思っていたということが、意識だけの状態になってわかったのだ。



みんな表では、そうは言わなくても、その心の奥の奥の奥の最深部では、自分が心から満足できる自由な世界に存在したいなと思っていたのだ。



意識だけの状態では、それが手に取るようにわかってしまうのだ。



仮面の下の素顔が、すべて見えてしまう……



ただ、互いに他の魂たちに依存しなければ、満足できない、あるいは、苦しまずに生きてられないようにされてしまっていただけだったのだ。



そうでないように世界を創造することも、実はできたのだ。



なぜなら、意識だけの世界では、そもそもどんな世界を創造するのも自由だったのだから。



おそらく、本当は嫌だと思っていた魂たちの心が、俺の元いた世界を消したのだろう。



本心の思いは伝わり、時空すら超える。



その叫びは、あらゆる魂たちに影響を与えずにはおかない。



こんな世界は嫌だ!!!という強い思いは、時空を超えてありとあらゆる魂たちに伝わるのだ。



そうした叫びは世界の消滅と存続を自由にできる意識たちにも、当然伝わる。



俺は、そんな話を「意識たちの井戸端会議」と呼ばれる集りで聞いてしまった。



何ということだ……俺の世界は、嫌だと叫ばれないような世界にして、消されないようにしなければならない……と強く思った。



俺は、俺の世界に参加した魂が誰一人として嫌だ!!! などと思わないような自由世界を創造しなければ……と思った。


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