第15話 意識たちの井戸端会議は仮装フリースクール?
俺は、「意識たちの井戸端会議」でいろいろ面白い話が聞けたので、時々、その集まりに参加するようになった。
まあ、テーマも特に決まっていなくて、みんなが自由に雑談しているだけなのだが、俺にとってはいろいろ勉強になる。
会議の場は、それはもういろいろで、ある時は何の変哲もない宇宙空間であったり、ある時は惑星のコアマントルの中であったり、
ある時は、生命たちの体や心の中であったりもした。
どうやら意識だけの状態なら、どこでも井戸端会議が開けるらしい。
まあ、テレパシーなどを増大させあえば、集まらなくてもお話はできるのだが、それをすると、
あらゆる時空間に大音響でテレパシーが飛び交うことになるので、集まるのだという。
井戸端会議の内容を、大音響であらゆる時空間に放送するというのは、さすがに好ましくないらしい。
集まる時には、みんなそれぞれ自分の好みのコスプレ衣装を着てくる。まあ、着るというよりいろいろな姿に変身してくる。
まあ、暗黙のルールのような感じだ。
楽しむためにそうしているらしい。
はじめはそうとは知らずに意識だけの状態で参加したのだが、手取り足取り、コスプレ技術についての指導を受けてしまった。
中には、エイリアンをもっと凶悪にしたような姿のコスプレ意識たちもいたが、そういうのも問題なく受け入れられている。
非常に自由な集まりだ。
意識だけの状態でしばらくすごせば、誰も姿かたちで相手を判断しなくなる。
姿形への好き嫌いはそれぞれあるようだが、それは着ている衣服のタイプ程度にしか思っていないようだ。
どうしても嫌だという意識がいる場合などは、さらっと別の姿に瞬時に変身できてしまう。
しかし、そもそもそうした偏差な好みを持つ意識たちは、そもそも意識たちの井戸端会議にあまり出席しないようだ。
みんな実におおらかで、こちらが恥ずかしくなるような恰好をしている意識たちも多数いた。
まあ、いろいろな事情で、今は、そのことについては多くは語るまい……
まあ、とにかく狂っているんじゃないのか……と思うくらい、自由なのだ。
そして、そうしたことをわきあいあいと嬉々として楽しんでいる。
俺は、ふと黒ヒョウちゃんの性質と似ているな……と思った。後でいろいろ聞いてみよう。
まあ、ざっくり言えば、「意識たちの井戸端会議」は、仮装パーティに似ていた。
ただ仮装するだけでなくて、中身のキャラもいろいろとっかえひっかえして「演劇ごっこ」みたいなことをして、楽しまれている。
エイリアンと王女が掛け合いどつき漫才をしてみたり、深海魚みたいな姿のやつが妖精とワルツを踊ったり……
なんとブラックホールの姿の奴が、みんなを吸い込んでみんなでキャーキャー叫んだり……
もう何でもありで、俺の中の常識が次々と破壊されていった。
俺は、今まで知らなかった本当の自由をそこで感じた。
それはまあ、たとえるなら、生まれてからずっと地獄のような強制収容所で生活していた囚人が、
楽しいアトラクションや最高の売店がいっぱいの遊園地に突然ワープしたような感じと似ているのかもしれない。
今までのあれは、なんだったのか……という気持ちになる。
朱に交われば、なんとやら……で、次第に俺もより自由な意識に進化していった。
「意識たちの井戸端会議」の場は、見方によっては意識集団によるフリースクールの場、でもあったのだ。
そこにいるだけで、意識として一人前になってゆく。そしてひたすら楽しい。
意識同士の交わりを心から楽しめる魂たちだけが自発的に参加している集まりなので、必然、そうなるのだ。
誰もが、嫌になれば、いつでもスッと別の時空間に消えることができる。退席自由で、参加も自由。
意識だけの世界は、本来、そのように自由だったのだ。
支配者だの、被支配者だの……そんなものは、本来必要なかったわけだ。
そして俺は、聞いてみた。
「俺の元いた世界では、支配者とか被支配者とか、家畜とか奴隷とか……そういう状態の魂たちがたくさんいたんだけど、あれは、どうしてそうなってしまっていたんだろう?」と。
井戸端会議の参加メンバーたちは、俺の方を振り向いて、みなで腹を抱えて爆笑しはじめた。
そしてある参加メンバーが言う。
「あー、君は、あの消滅した世界から来たのかね、それはまあ、ご苦労なことじゃ。あれは、そもそもこの意識世界では、テロ行為みたいなもんじゃったんじゃよ。
みんなで楽しくやっておったのに、突如、とある馬鹿者が、他の魂を物質の世界に閉じ込めて、自分に無理やり従わそうとしはじめおったのじゃ。
じゃから、わしらが消したのじゃ。ああいう世界は、わしら全員にとってあまりに危険じゃからのう……」
また、別の参加メンバーが、
「そうよ、あたしなんか、うっかり入ってしまって、さんざんな目にあったのよ!モー大変だったんだから!」
と牛さんの姿で言う。
さらに、別の参加メンバーが、叫ぶ。
「我は、見るに見かねて弱い者いじめをやめろと支配者に進言しにあの世界に入ったのだが、監獄のような場所に入れられて、拷問された。自殺すらできないようにされてな。あの世界は、あのまま存続してはならない世界だったんだよ」
「僕は、体の中に無理やり毒を注射されて、支配者の意に従わないとその毒を電波で強毒化されて心も体も病気にされて、電波で操られる操り人形のようにされてしまったよ。あの世界は、してはならないことがやりたい放題の世界だったんだ」
「あたちの家族は、何も悪いことしてないのに、津波とかいうのに飲み込まれてしまったの。大好きなお友達もみんな……」
こうした……消滅した物理世界にかつて参加していたメンバーたちのトラウマの思いがダイレクトに伝わってきて、心が痛んだ。
そして、彼らは口をそろえて言う。
「でね、そういうのが全部、あの世界の支配者たちが計画的にわざとしたことだったの!!!」
なんとまあ……そりゃ、消されてもしょうがないわな……と俺は思った。
これはやむにやまれぬ正当防衛というものだろうと思った。
しかも、入る前にそうしたことがなされるというような説明は一切されていなかったらしい。
さらには、入ってしまえば、意識体であったときに持っていた記憶をほぼすべて消されるらしい。
さすがに、その話をする時は、彼らですらも楽しそうではなかった。
その世界では、魂全体へのテロ行為のようなことが発生していたらしい。
彼らは、その世界を体験強制収容所と呼んでいた。
あるいは、体験強制ピラミッドシステム などとも呼んでいた。
一部の支配者が、その他大勢の魂をピラミッド型に支配して、好き放題に酷い体験を強制できるシステムだったからだ。
そして、そのピラミッドシステムは、あらゆる魂たちの自由を不当にはく奪することを目指していたために、危険世界であると判断され、消されたらしい……
そしてどうやら、今は、どこかの隔離された時空間で、そのピラミッドシステム内で強制されてきたあらゆる望まれていなかった酷い体験を、
そのピラミッドの支配者たちが味わっているらしい。
何度も自業自得の責任について説得や警告をしても、どうしても頑なにひどい残酷体験の強制を止めなかった魂たちが、そうした状態になっているらしい。
俺は、何としてもそんな状態にはなりたくないと思った。
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