第16話 体験強制型のピラミッドシステムはダメ




俺は、とりあえず体験強制型のピラミッドシステムはダメだと理解した。



うっかり酷い体験を俺の世界で強制してしまったら、その体験を全部俺が味わわないといけなくなるらしいからだ。



とんでもないことだ。どう考えても危険すぎる。



俺が愛情深くしっかりしていれば問題ないだろう……などと思うかもしれないが、無数に増え続ける魂たちをすべて俺が失敗せずに満足させてやれるかといえば、どう考えても無理がある。



絶対に、どこかで失敗して、酷い目にあうと予想できた。



そもそも魂たちの中には、矛盾した正反対の願望を持っている者たちも多数いるのだ。



ある者は、バトルが大好きで、別の者はバトルが大嫌いとか、そういうことは普通にある。



だから、対応は、一筋縄ではいかないのだ。



しかも、バトル好きだった魂が、しばらくすると、バトルに飽きてしまって、バトル嫌いになるみたいなこともよくあることなのだ。



そんなことまで俺が一人で全部面倒見切れるわけがない。



だから、体験強制型のピラミッドシステムでは、どうしてもダメなのだ。



支配する相手が限られた数ならば、ひょっとすればなんとかなるかもしれないが、あらゆる魂にとって最高の世界を創造しようとする場合は、いつか絶対に失敗する。わかりきっている。



俺は、そんな失敗することがわかりきっているような世界を創造するわけにはいかないのだ。

失敗はすべて俺にブーメランで戻ってくるのだから……冗談じゃない!



黒ヒョウちゃんも、「世界の創造主やるなら、あらゆる魂が満足できる最高の世界を創造してください……」みたいなことを言っていた。



まあ、自分が満足したいだけなのかもしれないが、あらゆる魂が満足できる世界を実現すれば、みんな満足するのだから、実現させるべきだろう。



とにかく体験強制型の世界ではダメだというころはわかった。



世界支配者などは、そもそも発生させてはダメらしい。



でなければ、支配者都合でいかようにも他の魂が苦しめられてしまうからだ。



そして、支配者だってただの自由意志をもった魂なのだから、自由意志があるということは間違った選択もしうるということだから、はじめから論理的にも破綻している。



一時的には成功しても、時間の問題でいつかは100%失敗する。

あらゆる世界統治の選択に成功し続けるなどということは、自由意志の性質上、不可能だからだ。



そもそも支配被支配という上下構造がダメだ。



上に下が従うとう仕組み自体に問題がある。



なぜなら、上に下が従うだけという仕組みは、上が間違った場合のフィードバックシステムが機能しないからだ。



上が世界統治方法を間違えたら、間違えっぱなしになる。



そして意識だけの存在たちが常時監視記録しているので、上の支配者たちも、自分が放ったブーメランを受けることになり、みんな不幸になる。



完全に、はじめから破綻している。



この理解を得たために、俺は、俺の自由世界に体験強制型のピラミッドシステムを持ち込まないことに決めた。



危険すぎるからだ。俺自身にとっても、俺の世界への参加者たちにとっても。



そこで、俺は考えた。



ならば、どうするか?



支配管理など全くせずに何でも自由にすれば、これはこれで問題を生み出す。



何でも自由であれば、そこには他の魂を苦しめる自由とか、他の魂の自由を奪う自由とかも含まれてしまうからだ。



だから、工夫が必要だ。



そのために、俺は、プライベートのミニ世界を創造した。



つまり、他の魂たちからの一切の干渉を受けずに自分だけで楽しめる自由な世界だ。

あるいは、完全に心からの納得合意が成立している他の魂たちとだけで楽しめる世界だ。



そうした配慮が必要になる。



俺が元いた世界でも似たような仕組みはあった。



国や自治体や同好会……というような仕組みだ。



だが、物質世界では、他の魂たちからの干渉を防御するという仕組みがしっかり機能しないようになっていた。



武力や兵器やその他いろいろな力を使えば、いかようにでも他国や他の魂の自治権を侵略できてしまうような世界設定になっていた。



だから、そうした武力や兵器やその他の自分以外の魂に望まれない酷い体験を強制する類の力は、そもそも俺の自由世界には存在できないようにした。



まあ、言ってみれば、ファミコンゲームのキャラ同士において、互いを攻撃する武器を持てない設定にプログラムしたようなものだ。



そうしておけば、そもそもそうした選択肢がないのだから、攻撃することは不可能になる。



ほのぼのタイプのメルヘンゲームなどには、そもそも他のキャラを攻撃するようなプログラムそのものがされていないのと似ている。



そうしたプログラムさえゲーム制作時にしっかりしておけば、そのゲーム内でその選択は不可能になる。



俺の自由世界では、プライベートでなら自作自演の空想バトルも楽しめるが、他の魂の心からの納得合意がない場合には、攻撃は不可能にした。



まあ、どうしても対戦型のバトルゲームがしたいのなら、専用のプライベートミニ世界を使って、自分たちで臨むゲームを自作して楽しめばいいわけだ。

別に支配被支配ゲームも、本当に本当に本当に心の底から納得合意がある場合に限っては、支配者役と被支配者役を双方合意の上で交代で楽しみたい……とかいうのならば、そういうのも認めた。



あくまで心から楽しみあえる遊びとしてならそういうのであっても問題ないと思ったからだ。



交代で安全に配慮した上での王様ゲームがどうしてもしたいのなら、すればいいという感じだ。俺も混ぜてくれ。シナリオが良ければ、王様役も家来役もまあ、楽しめる気がする。



さらに、どうしても相手がいない場合は、ミニ世界の中で無限変身できるようにして、自分の分身体とならば、どんなゲームでもやりたい放題楽しめるようにもした。



まあ、あまりにひどいゲームにすると、参加者が全員自分なので、自分が苦しむことになるので自動的に酷い体験の強制はしなくなると考えた。



だが、この俺の考えはまだまだ不完全であり、とんでもない問題が発生した。

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