第14話 俺はメイド豹に教育される
黒ヒョウちゃんは、いつしか、黒ヒョウの姿から別の姿を取るようになってしまった。
俺の注文など、てんで無視する。
今は、メイド服を着た美少女の姿で、黒ヒョウ時代と同じように四つん這いで走り回っている。
俺は、はじめは「そういうのはやめろ!」などと注意していたが、いつしか慣れてしまった。
メイド服を着た美少女の姿で、無意識の海の底から、いろいろなものを咥えてくる。
「せめて、手で持ってかえれ」と言っても、知らぬ存ぜぬという風だ。
手におえない。
だが、もう黒ヒョウちゃんという名前で呼んでいいのかどうかすらわからないが、メイド豹ちゃんとでも呼べばいいのか……
その豹ちゃんは、そんな風ではあるが非常に賢かった。
「なんで苦しみというものが存在しているのか?」
みたいな哲学的な質問にも答えてくれるのだ。
「それはですね、ご主人様、誰かが苦しみというものを創造したからです」
え? なんでまた、そんなものを創造しなきゃならないんだよ?と聞くと、
「そういう質問は、苦しみを創造した方に聞いてください」
などと答えてくれる。
いや、じゃあ、誰が苦しみなんてものを創造したんだよ?
「それはですね、苦しみというものが存在している世界の創造主様ですよ」
などと答える。
俺は、「は~、なるほどな~」 などと思う。
つまり、苦しみなんてものは、鼻から創造しないという選択肢もあったというわけかい?と聞いてみる。
すると、
「そんなの当たり前じゃないですか!」などと言われた。
えー、当たり前なのか?そうなのか?と俺はちょっと混乱してしまった。
俺が、考え込んでいると、
「あのですね……苦しみなんてものが、自動的に発生するわけないじゃないですか!」
などとグイグイと追撃してくる。
いや、メイド豹先生……、もうちょっとお手柔らかに教えてくれませんか……と思う。
「だからー! 何かが存在しているってことは、それを創造した誰かがいるってことなんです」
どうやら、無意識の海の底にはそうした情報があるようだな俺は思った。
そして、思った。
じゃあ、俺が元いた世界の不幸や事件や戦争やいじめや拷問や異常気象や疫病蔓延とかは、全部、誰かが創造したってこと?
「当たり前じゃないですか! そんなものが勝手に生まれてくるわけがないじゃないですか!頭大丈夫ですか?」
いや、偶然生まれてくることもあるんじゃない?
俺は、なんか悔しいので、食い下がる。
「じゃあ、ご主人様の世界に、偶然そうしたものが生まれますか?生まれませんよね。いつまで待ってても」
いや、まあ、それは俺のイメージの世界だからね、俺がイメージしなければ生まれないようになってるからさ……
などと言っては見たが、確かに、世界創造主がイメージしないものは、生まれないとすれば、苦しみだの不幸だのも、その世界の創造主がイメージしたというか、願ったから生まれたということになってしまう。
「ちょっとは、理解できましたか?マスター」
メイド豹ちゃんは、俺のことをご主人様だとか、マスターだとか呼ぶのだが、鼻であしらわれている気がするのは気のせいだろうか……
そんな俺の思いを察知したメイド豹ちゃんは、
「あのですね、いいですか、創造主なんてものは、お絵かきをしている子供みたいなもんなんですよ。みんなが感動するような素敵な絵を描いてなんぼの立場なんです!
つまり、ご主人様にはみんなが喜ぶような世界を描いてもらわないと困るわけです。
いつまでもガキのままだと、蹴りを入れますよ!」
そう言うと、メイド豹ちゃんは、実際に、俺に蹴りを入れてきた。
いや、俺は、みんなが喜ぶような自由世界を創造しようとしてるじゃないか! 蹴るなよ!
と叫ぶ!
「あー、そんなだから、ダメなんですよ。文句があるなら私たちを満足させてみなさい!
まだ、創造っていっても、未完成すぎる状態じゃないですか!
こんなんで蹴るなとか、偉そうに言うではありません!」
俺は、もう、頭にきて、メイド豹ちゃんの蹴りをかわして、組み伏せた。
ふぎーーーー!!!とメイド豹ちゃんは、もがいていたが、俺は筋肉をイメージで数倍に増大させて動けないようにけさ固めで抑え込んだ。
俺は、ちょっとこの展開は、いろいろヤバい……と感じた。
しかし、俺の心配は杞憂に終わった。
メイド豹ちゃんは、メイド姿のまま中身をエイリアンにしてしまったのだ。
俺は、飛び退る……
それは、反則だろ……と思う。
「キシャーーー!!!」ともう何と呼んでいいのかわからないメイド服を着たエイリアンが叫ぶ。
口から変なドリル状の槍のようなものを放ってきた。
俺は、勇者の盾をイメージしてそれを受ける。
ガキーーーーン!!! という音とともに、火花が散る。
ふと、その衝撃で、俺は、なんでこんなことをしているのだろう……と我に返った。
すると、メイドエイリアンちゃんも、普通のメイド服の美少女に戻り、言う。
「まだまだ……ですね、マスター。でも今日は、ちょっと楽しかったです。これからもよろしくにゃ」
にゃ、じゃねーよ。
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