第8話 俺は俺の自由世界の設計をいろいろと考える

俺は、魔王と魔王の娘さんをとりあえず保護することになった。



次元を超えたワープによって、魔王と魔王の娘さんの物質的な肉体は消えていた。



いや、仕方がなかったのだ。あのままではエイリアンの大群に飲み込まれることになるのがわかっていたのだから。



肉体は、悪い部分は、改良して、似たようなものをまた創ればいい。



肉体には不具合が発生することがよくあるから、服を着替えれるみたいに、肉体を着替えれるようにしよう。



そんなこんなで俺の意識にコピーしてあった魔王と魔王の娘さんの肉体データをみんなであーでもないこーでもないと改良している。



自由な世界を実現するには、その程度のことは当然できなければならない。



すると……俺が魔王の娘さんの改良版の肉体に入ることもできるようになるのか……逆もまたありだな……



魔王の娘さんが真っ赤になって狼狽している……



意識だけの世界では、思いがダイレクトで伝わってしまう。それが良いことなのかどうなのか、俺の中では疑問符がついている。



また、この問題については、ゆっくりと吟味してみよう。




黒ヒョウちゃんは、次第に賢くなっていった。



どうやら無意識の底のさらにその先にあるデータバンクに足しげく通っているようだ。



アカシックなんとかというような名前らしい。



あらゆる真実がそこには記録されているという。



便利な図書館のようなこところらしい。



だから、いつしか、俺よりも黒ヒョウちゃんの方が賢くなってしまっていた。



聞くとなんでも教えてくれる。



さらには、俺が知りもしない異世界の生物だか、種族だかにも勝手に変身するようになってしまった。



もはや、俺の管理できない存在になってしまった。



俺がお茶を飲みたいと求めると、はじめはしおらしくメイド服の美少女の姿に変身してお茶をいれてくれるのだが、突然予告もなく顔だけ黒ヒョウになったり、中身が変なおっさんになったりするのだ。


俺が驚く姿を見たいのだとか……けしからん奴だ。



しかし、俺の立場は弱い。



そんな黒ヒョウちゃんでも、いなくなると困る。



まあ、俺が分身して、一人遊びをするという手もあるが、そういうのはすぐに飽きるだろう。



相手がどんな反応をするのかわからないというのは、なかなか悪くないのだ。



同じ反応しかしないロボットと永遠に暮らすとか、無理がある。



たまに真逆な反応をするくらいの方が良いのだと俺は思う。



永遠に一緒に生きるのなら、それくらいでないとマンネリ化してしまうだろう。



無限に変化しながら、無限の反応をランダムでする……というのは、最高かもしれない。



それでは危険なこともあるんじゃないかと心配する人もあるだろうが、俺の世界では、基本設定を「誰もが自分で自分の満足度を選べるようにしている」ので、

一切の拷問体験強制リスクがないので、どんな反応も楽しもうと思えば楽しめるのだ。



肉体的な拷問などもないので、やりたい放題できる。



黒ヒョウちゃんが無限に変身し、俺も無限に変身することで、無限の無限乗のお楽しみのパターンを楽しめることになる。



好きになったり、嫌いになったり、怒ったり、慰めあったり……イタズラしあったり……



精神だけの世界では、そうしたことがリスクなくできてしまうことに俺は気づいた。



特に、結界を張っていれば、誰も邪魔しにこないので、安全だ。



俺の元いた不自由な世界と、今の俺の世界の違いは、俺が絶対に嫌だと思うことは現実化しないという点だ。



黒ヒョウちゃんがいろいろな姿に変身したり、いろいろな反応をするといっても、そこには俺がどうしても嫌だという反応はなぜか発生しないのだ。

つまり許容範囲で、楽しめる範囲、無理なく耐えれる範囲内での予想外の反応しかしない。



しかし、以前の俺のいた世界では、予想外の絶対嫌な体験などが不条理に発生していた。



嫌だといっても、おかまいなしに、酷い事故だの、病気だの、天災だの、いじめなどが発生していた。



しかも、それは表立ってそうしたことが発生していただけではなかった。



なんと、心も、体も、歴史も……すべてが密かに操作されていたのだ。



なぜかイライラしたり、なぜか頭痛がしたり、なぜか体がかゆくなったり……

病気になったり、家が燃やされたり、坐骨神経痛にされたり、マイクロ波で攻撃されたり……



いいかげんにしろ!!!と言っても、隠れてそうしたことをし続けられてしまうような世界だった。



それに比べて、俺の結界の中は楽園だ。



そういえば、俺の元いた不自由な世界では、引きこもり族と呼ばれる種族が多数いた。



俺は、俺の結界世界は、完璧に引きこもれる世界だと思った。



「誰もが完璧に愉快に引きこもれる世界では、誰も困らない…」というのが実は真実だったのだ。



やれ、経済システムが問題だとか、疫病が問題だとか、大量破壊兵器が問題だとか、環境破壊が問題だとか……いろいろ言っていたけれど、誰もが完璧に引きこもり楽しめるようにすれば、そうした問題はすべて消滅してしまう。



つまり、そうした面倒なものは、すべてガードしてしまえばよかったのだなと思う。



そのガードが簡単にできないという点が、俺が元いた不自由な世界の致命的な問題だったのだろう。




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