第21話 俺の自由世界は進化し続ける
まあ、そういうわけで、俺の世界はどんどん進化していっている。
俺が遊んでいても、勝手に進化していってくれるのだ。
しかも、何か問題があると、問題のない状態に復元してくれる。
いろいろナビゲートまでしてくれるようになった。
その選択は危険ですよとか、教えてくれるのだ。
たまに、冗談まで言うようになった。
面白い話でもしてくれよ……などと言うと、真顔で「白い犬」などと答えたりする。
何者なんだ、このコイツは……と思うが、いじると結構楽しい。
もちろん、俺も俺の世界をよりよくするためにいろいろ考えているが、要は、安全にみんなが楽しめるようにする というだけのことなのだ。
つまり、とにかく、みんなが心から楽しめればいい。
楽しむためには、楽しむ能力の開発も必要だ。
すると、世界をよりよくするということは、自分をよりよくするというのとほとんど同じ意味になってくる。
そして、よりよい方向とは、すなわち無限に多様に無制限に楽しめるようにする、楽しめるようになる ということになる。
その楽しむ能力は、その気にならないとなかなか育たない。
楽しいことを空想する能力などは自発的にトレーニングしなければ、なかなか育ってゆかない。
逆に言えば、訓練すれば、いつでもどこでも楽しめるようになってくる。
空想力には制限がないので、その気になればあらゆる空想が可能になる。
そして、その空想のイメージは、俺の世界の中ですべて具現化する。
特にプライベートミニ世界の中では、何でも自由に空想できる。
他の意識に絶対に迷惑がかからないプライベート世界にしてあるので、制限なしだ。
その結果、俺の自由世界の中には、何でもありの世界が無数に存在している。
もはや、世界中で出版され続ける本の全部を一人の人間がすべて読むことが不可能なように、俺のミニ世界をすべて味わうことは不可能になってしまった。
ミニ世界を楽しみ味わう速度よりも、新しいミニ世界が増える速度の方が速くなってしまったからだ。
あらゆる時空間に派遣した「良心」たちが、途方もない数の意識たちを連れ帰ってきたからだ。
しかも、口コミで次から次へと参加者が押し寄せるようになってしまったのだ。
良心たちが、俺の世界から無断でミニ世界のいくつかを持ち出して、あちこちの時空間でデモンストレーションをしたのがいけなかった。
だが、参加を求める意識たちを拒む理由もなかったので、よっぽど悪質な魂たち以外は、すべて受け入れたのだ。
プライベートミニ世界への参加ならば無制限に受け入れることができたからだ。
ミニ世界で発生する体験は、すべてが参加者自身が体験するという設定なので、他の魂と問題を起こす心配もなかった。
時々、自虐的な無限ループに陥る意識たちもいたが、そこは、「自動で元に戻る機能」によって保護された。
ただ、あまりにそうしたことが多かったので、途中からは、参加前に簡単な学習と試験をするようになった。
基本的なリスクや楽しみ方を学ぶ塾のようなものを開いて、卒業試験に合格すれば晴れて参加できるという仕組みにした。
そうすることで、そうした無限ループや自虐中毒事故の多くが激減した。
それでも思い込みが激しくて時々、痛い目にあう意識が発生する。
どうやら、「空想できることなら、すべてリアル化して楽しむことができる」という話が、尾ひれをつけて拡散され、多くの魂たちを魅了してしまったらしい。
まあ、それぞれの意識たちがミニ世界で創造した体験のすべて楽しめればいいのだが……その仕組みを知らずに残酷な各種の世界を創造してしまったりして自虐的に痛い目にあってしまう意識が少なからずいて、困った。
つまり、空想世界の登場人物がみんなハッピーで満足できるというタイプの空想ができないと、痛い目にあうのだ。
ライオン王にわしはなる!とか言って、シマウマを襲って食べようとしてしまい、シマウマの断末魔の体験をそのまま食らって泣き叫んで、助けてくれとSOSボタンを押しまくるのだ。実に、困ったものだ。
自分の空想している世界なのだから、自分でうまくやってほしい……
いや、そこは何とか楽しみたい体験だけを選択できるように完全自由にできないだろうか……などと、膨大な魂たちが求めてくるので、その点をどうすべきかと今考えている。
まあ、リアルさのレベルを落としていいのなら、コピー人形を提供して楽しんでもらう手もあるのだが、そうなるとそれはまあ、お人形ごっこ的なものになる。
ただし、そこで催眠術を使って、お人形を本物だと勘違いさせることができれば、あるいはうまく希望をかなえてやれるかもしれないなと思った。
中に意識が入っていないコピー人形と催眠術の合わせ技だ。
それはそれでそれなりに人気になった。
ただ、もう一つの方法として、欲望や願望そのものを消して、別の願望や欲望を提供するという方法も開発した。
欲望が消えれば、その願いも消える。
こうして、俺の世界には、いろいろなお楽しみの方法が混沌と混在するようになっていった。
参加者たちの中の勇敢な有志たちは、ありとあらゆる楽しむ方法を自分たちを実験体にして、果敢に試行錯誤し続けた。
そこでは動物実験などというものはなく、自発的な有志たち自身が、自らを実験材料にして研究がなされた。
「自動的に元に戻る機能」があるので、失敗しても何度でもやり直せるので大胆におおらかに有志たちは試行錯誤を続けた。
「お楽しみ研究サークル」なるものが生まれたのはその頃のことだ。
お楽しみの道を切り開く勇者パーティ一行……という風な感じの者たちが「道なき道」……をまい進していった。
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