第22話 俺の自由世界は、お楽しみを追求する世界になっていった

俺の自由世界は、まだ混沌としている。



おそらく完成することはないだろう。



永遠に進化し続けるようにと、俺の世界を設定しているからだ。



無数の意識たちが、無数のプライベートミニ世界を創造し、その中の良いミニ世界を公開しあって、楽しみあい分かち合う。



まあ、言ってみれば、みんなが描いた小説の良いものを互いに分かち合い楽しみあうのと一緒だ。



そんなこと、大したことはないじゃないかと思うかもしれないが、これは結構すごい仕組みだ。



なぜなら、この仕組みには、終わりがないからだ。



しかも、参加者が増えれば増えるほど、新しいミニ世界が生まれれば生まれるほど、そこに存在する世界やキャラクターが増えて、その増えたキャラクターが、また、別のミニ世界で使えるようになり、微妙に性格や姿も変化してゆき……


無限の要素が、無限に相互に刺激しあって、無限の展開を生み出すようになるからだ。



自由自在の空想能力さえ手にすれば、すなわち無限の世界がそこから生まれることになる。



俺は、その可能性を知った。



俺の自由世界は、すべての参加者のミニ世界を内包し、成長し続ける。



さらに、それぞれのミニ世界の中にも、ミニ世界が発生する。



なぜなら、ミニ世界の中のキャラクターたちは、独自に自分のミニ世界をまた、創造しはじめるからだ。



そう空想することができれば、そうなる。



これはすごいことだ。



自分が空想したキャラクターは、同じ反応しかしないロボットではない。



それは独自の個性を持つようになる。



ただ、そうなると思えば、そうなる。



空想の世界では、かくあれ!と思ったことは、何でも実現する。



空想の世界に介入してくる自分以外の意志がなければ、何でも実現する。



だから、もし、自分が空想しようとしていることが、うまく空想できないことがあれば、自分以外の他の意志が介入して、それを妨害していると理解する必要がある。



自分が画用紙に犬の絵を描こうとしているのに、なぜかそれが描けないとか、なぜかそれが象の絵になってしまうとか……そういう場合は、何かが妨害していて、何かがおかしいのだ。


まあ、イメージすることがそもそもできないような未知の生命体などであれば、空想できないのもしょうがないが、普段見慣れているものをイメージできない、空想できないのならば、何かが妨害しているのだ。



こうして俺は、俺の元いた世界では、空想する内容すら、自分以外の何かに妨害されていたのだということに気づいてしまった。



意識だけの世界では、なんでもバレてしまうのだ。



いわゆる人間という存在のほとんどが、自分以外の何かにその精神を操作され、何らかの呪縛を受けていた。



比べてみれば、わかってしまうのだ。



意識だけの世界と物質世界とを、比較してみれば、もう、その違いは明らかになる。



子供の時には、布団の中で、物質世界では不可能な冒険をする空想をしていたのに、なぜか、学校に入り、社会に出て、いろいろめんどくさい社会のルールや常識にもまれてゆくと、多くの人間たちが布団の中で、ワクワクする冒険世界に旅立てなくなってしまう。



「なんでやねん?」 と 俺の自由世界に新しく生まれた俺が、言う。



彼は、生まれが意識だけの世界だったので、物質世界の不自由さが理解できないのだ。



「おかしいやろ! この物質世界って! この世界の人間ってなんやねん? ありえへん!絶対、ありえへんわ!」などと憤っている。



まあ、な、いろいろあるんだよ……と、俺はなだめすかす。



まあ、もう消滅してしまったのだから、追い打ちをかけるようなことは言わないでおいてやろう……と俺は思う。



「そやけどやなー、こんなんむちゃくちゃやろ!」



しつこい……



「なんで、こいつら、互いに食い合いとか、殺し合いとか、わけのわからんことしてんねん!」



いや、そんなこと、俺に言われてもねえ、困るんですよ。



「じゃあ、誰に言えばええねん! 責任者出てこい、おら!」



もう、意識だけの世界生まれは怖いものなしだなあ……と思う。



「いてもうたる!」



こないだヤクザ映画とかを見せたのが悪かったのだろうな……と思う。



まあ、あれだよ、そういう憤りは、反面教師にして、君が良い世界を創造すればいいんだよ……などとアドバイスをしてやる。



すると、



「おう! やったるわい! 言われんでもまともな世界を創ったるわい! なめんなよ!」



などと、やる気になってくれたようだ。



ちなみに、ミニ世界では、空想できれば何でもありだけども、それを公開するには審査を設けている。



たまに不特定多数の意識たちにとっては、危ないミニ世界があるからだ。



例えば、ゴキブリ恐怖症の意識に、ゴキブリたちが愉快に暮らしているようなミニ世界は、毒になったりするのだ。



そこで百戦錬磨の意識たちが、有志で公開予定のミニ世界を味見体験して、危なくないかどうかを調べ、他の意識たちがわかるようにその世界の内容がわかるようなパンフレットのようなものを作成している。



それによって、安全に無数のミニ世界を楽しめるような仕組みにしてある。



また、どの部分が楽しかったか、面白かったか、ワクワクしたか、ドキドキしたか……などが簡単に紹介されてもいる。



まあ、旅行会社のパンフレットみたいな感じだ。



見どころとか、危険度とか、さらに参加者たちの口コミなどもそこに加わる。



こうして、みんながそれぞれ自分が楽しめるミニ世界とうまくマッチングするようにしている。



心に自分が体験したい世界のイメージを浮かべると、そのイメージと関係性が高いミニ世界のイメージや簡単な内容が、心に流れ込んでくるようなテレパシー検索機能も付与してみた。



これは便利な機能になった。



そして、いいなと思えば、意識をそのミニ世界に飛び込ませるのだ。



すると、そこから新しい世界の冒険が始まるって感じだ。



そして、思いっきり楽しんで、もういいと思えば、元の自分のミニ世界に帰還する。



帰還後には、そこで体験した様々な素晴らしい体験や興味深かった体験を使って、自分のミニ世界をより素晴らしいものにしていったりもする。



まあ、他所のミニ世界で見た、花が非常に美しくてかわいくていいなと感じたら、そのイメージを持ち帰ってきて、自分の世界にもその花を咲かせれるわけだ。



俺の自由世界には、著作権というようなものはない。



どうしても公開したくなければ、公開しない自由はある。



しかし、公開したものを、他の意識たちが自由に使ってはならないというような縛りはない。



それをしてしまうと、世界創造の自由さや多様性や進化の速度がかなり低下してしまい、次第に不自由さばかりを感じるようになってしまったからだ。



これは許可されているのかどうかとか……いちいち確認して、使いたくても使えないとか、つまらないとみんな思うようになったのだ。



そもそも、意識だけの世界では、生活のために働かなければならないとかはないので、お金を儲けるとかそうしたことも必要なく、であれば、著作権などいらないということになる。



まあ、プライベートでだけ自分だけでどうしても楽しみたいこだわりのミニ世界というものはあるので、そういうのは非公開で自分だけで楽しめばいいわけだ。



しかし、ミニ世界はいくらでも無数に創ることができるので、ひとつの意識が、無数のミニ世界を創造してもいいわけなので、そのうち、そのうちの良いものを自然に公開してみたくなるというのが実際のところとなっている。



その方がより楽しめるというのが理由だ。



こうして、俺の自由世界は、お楽しみを追求することがみんなの目標になっているような世界になっていった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る