第5話 自由な世界の基本設定
はじめは、世界が消滅し、肉体が消滅してしまっては、もうどうしていいのかわからない……と焦っていた俺だったが、俺の空想力と意識さえ残っていれば、むしろ、この状態の方が自由でいいなと思い始めていた。
俺は、人類の残酷黒歴史より、はるかに今の状態の方が安全だと思った。
そもそも生命たちの弱肉強食の仕組みに違和感があった。
なんで死にたくない生命たちに、互いに食い合いなどをさせるのか、俺には理解できなかったのだ。
みんなで愉快に楽しめる世界にすればいいじゃないか……とずっと思っていた。
だから、俺は食い合いの本能は俺の世界から消すことにした。
黒ヒョウちゃんが、「ええーーー!!!」とうろたえていたが、空想の世界なので問題ない。
強く願えば、岩や霞を食べて肉を食べるよりもはるかに満足する……なんてこともできてしまうのだ。
同じ程度以上の満足度であれば、問題ない。
調べてわかったのだが、要するに満足度の問題なのだ。
何を食べるかとか、食べないかとかは、本質的な問題ではなかったのだ。
要するに、どれだけ満足できるか が問題だったのだ。
そうしたことが、物質世界が完全消滅してみると、よくわかるようになった。
魂たちが求めていたのは、実は霜降りのお肉とかではなく、それを食べることで生じる満足感だったのだ。
いくら素晴らしい見栄えの霜降りのお肉であっても、食べて満足できないのなら意味がない。
なるほどな……と思った。
であれば、いろいろな満足感だけを自由に生み出せるようにすればいいわけだ。
肉体とは、つまり、そうした満足感とか、不満足感とか、快楽とか苦痛とかを強制する装置のようなものだったのだ。
さらに、物質世界や生命世界というのも、いろいろな体験を強制するための大がかりな舞台みたいなものだったわけだ。
殴られると痛いとか、褒められると嬉しくなるとか……そういうのは、ただそうなるように仕組んであっただけだったのだ。
その体験の紐づけの仕組みが消滅すれば、その紐づけを自由に変えることができるようになるらしい。
これは大きな発見だった。
驚いた。
いろいろ試してみると、殴られて気持ちがよくなることもできるし、褒められて悲しくなること
もその気になればできることがわかった。
なんじゃ、こりゃ? と思った。
俺は、つまり騙されていたのだ。
洗脳され、調教されていたともいえる。
感謝すれば幸せになれる……などという話も、実はそうした魂調教のための仕組みだったんだなと思った。
消滅した世界の管理者が、感謝と幸せとを紐づけしていただけだったのだ。
感謝するならば、おいしい餌をあげるから、感謝せよー!という感じだったのだろう……
道理でみんな「感謝することが大事!」などとさかんに言っていたわけだ。
だが、その仕組みが消滅してしまえば、もはや感謝しようがしまいが、幸せになったりならなかったりしなくなってしまった。
会社が倒産してしまえば、いくら社長に感謝しても、何も出なくなる……
俺は、いくらでも時間があったので、そんな分析などをして、新しい世界の基本仕様について考えていた。
そもそも、誰かに感謝などされなくても、感謝されて得られる幸せよりももっと幸せになるようにしてしまえばいいじゃん と思った。
その状態を新世界の基本にしてしまえばいいだろうと思った。
別に俺は、誰からも感謝されなくても、満足できれば問題ないのだ。
おそらく他の魂たちもそうだろうと思った。
本当は、誰かに感謝されることなんかではなく、そこから生じる満足感が大事なのだ。
そっちが本質なのだ。
いくら見た目がおいしそうな料理でも、食べて不味ければ満足できない。
無数の魂に感謝されても、それで満足できなければ、ちょっと困るのだ。
最悪、感謝されればされるほど、苦しくなる……とかであれば、感謝して欲しくない。
だから、俺は、他の魂が自分に感謝しようが、しまいが、誰もが完全無欠に絶対的に満足できるような世界を創造することに決めた。
世界の基本ルールをそのようにプログラミングすれば、それはそれでありなはずなのだ。
何に満足するか、どの程度満足するか、は実は自由に設定することができたのだ。
なんのことはない、物質世界の設定がそれを自由にできないように仕組まれていただけだったのだ。
その自分の満足度の決定権を、各々の魂に付与してやれば、誰も不満足にならなくなる。
いつでも自分が望めば自分を満足させれるからだ。
俺は、そんなことを考えながら、なぜ、元の世界では、そうしなかったのか、不思議になった。
こんな初歩的な設定を、なぜしなかったのだろう……
みんなが愉快に楽しめる世界にするのなら、ここの設定をそうするだけで簡単に実現する。
俺は、人類の黒歴史のことをいろいろと思い出して、ちょっと腹が立ってしまった。
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