第4話 俺は自由な世界を創造することを決意する
気を抜くわけにはいかない……
何が出てくるかわからないからだ。
俺は、自分の心の制御訓練をしなければならなくなった。
俺の意識の部分が活性化していないと、無意識の海からいろいろ出現しはじめるようだ。
俺は、羊を数えてみたり、呪文を唱えてみたり、バリアーを張ってみたりと、いろいろな試行錯誤を重ねた。
そして、ついに、無意識の海からの影響を受けない結界を張ることに成功した。
そのコツは、とてもシンプルだった。
とにかく、「自分の願いを強くイメージし続けること」だった。
その状態を継続し続けることができれば、無意識の海からの魔物たちをガードする結界を張れることがわかった。
そこで気づいたことがあった。
世界が消滅してしまった後では、時間という概念が存在しなくなったのだ。
なぜなら、そこにはもはや物質というものも、生命というものもないので、物理法則はすべて無視できてしまうからだ。
若返りたいならば、そう強く意志すれば若返れてしまう。
寿命とかもない。
原始時代をイメージすれば、原始時代になるし、未来の世界をイメージすれば、未来の世界にもなる。
さらに、空間という概念もなくなった。
瞬間移動などは、それを意志すればいくらでも自由にできるようになっていた。
いつでもどこでも、なりたいものになれるし、行きたいところに行ける、ただ意識して強くイメージすればいいのだ。
ただし、何も意志しなければ、何もイメージしなければ、何も起こらない。
そして気を抜いて無意識になってしまうと、得たいの知れないキャラたちが、無意識の海の底から出現しはじめる……
それは、単純な仕組みだった。
どんな世界を出現させるかは、とにかく自分の意志力とイメージ力次第だったのだ。
何をイメージするかの取捨選択が自分の意志で明確にできれば、自分の望む世界を生み出せる。
だが、イメージする内容の取捨選択が自分の意志で自由にできなければ、無意識から生まれてくる魔物たちに翻弄され続ける。
そうした状態も楽しめればいいのかもしれないが、それはちょっと難しいなと俺は思った。
想定外のとんでもないキャラたちに襲われても、それを楽しめるかと言えば、ちょっと無理だなと思うからだ。
だから、どうしても自分の意志で自由に管理できるイメージ力に下支えされた結界は必要なのだ。
そうした結界がない状態とは、蒸し暑い夏の河原で裸で野宿するようなものだ。
無数の蚊に全身を刺され続けるような状態になってしまう。
雨や風などにも苦しめられる。
見られたくない姿を見られてしまうこともある。
つまり、結界とはテントのようなものだ。
それがあるのとないのとではストレス度が全く違ってくるのだ。
こうしたことを理解したことで、俺は、ふと元いた世界のことを思い出し、そこが危険な世界だったのだと悟った。
やれ、兵士になれだの、税金を払えだの、学校に行けだの、ワクチンを打てだの、台風や津波や地震だの……ありとあらゆる不自由で危険な代物たちがそこら中に出現していたな……とそんなことを思い出したのだ。
それに比べて、俺の結界の中では、俺が望まないことは発生しない。
すでに物理世界が消滅しているので、意志するだけですぐに望む世界が出現する。
どうやら物質世界は、自由な世界ではなかったらしい。そう気づくことになった。
であれば物質世界の創造主を訴えねばならないな……などとふと思ったが、すでに消滅してしまっているので、もはやそれはかなわない。
そして、膨大な魂たちが、パニックになっているのがテレパシー的な何かでわかる。
神に祈り何とかしてくれと泣きついている魂たちもいたが、世界が丸ごと消えることで神様ごと完全消滅しているので、神に祈っても無駄だ。
神のような存在をトップに置いたピラミッドシステムそのものが丸ごと完全消滅してしまったのだ。
そういうのは、会社がすでに倒産して消滅しているのに、元会社の社長になんとかしてくれと求めてもどうしようもないのと似ている。
ほとんどの魂たちは、ピラミッド株式会社の内部にいた社員たちだったので、自分たちの状態が客観的に理解できないのだ。
ピラミッド株式会社に所属していない魂たちにしか、そうした状態がわからないようになっていた。
ピラミッド株式会社のステータスや給料や福利厚生や特権などは、もはや期待できないのだ。
世界が消滅した以上、神に祈っていても仕方がない……誰かが新しい世界を創造しなければならない……
ならば……俺が、自由で安全な新世界を創造するしかないなと思った。
うまく創造することができたら、みんなを招待してあげるのだ……
こうして俺は、自由な世界を創造することを決意した。
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