第32話 俺は、大阪太郎の下宿に突撃する

大阪太郎は、裏びれた下町の下宿で仲間たちと酒盛りをしていた。



「なーなー、変な奴が訪ねてきたぞ、太郎」



俺は、分身体からの情報で場所を特定して、薄暗い路地に入り込んだところにある太郎の下宿を探し当てて、呼び鈴をならしたのだ。



太郎が出てくる。



「あんた、誰? 何の用なん?」



以前の太郎よりちょっと大人びているなと思う。いろいろあったのだろう。年齢的には50歳くらいに見える。精神年齢は低そうに見える。



俺は、


「あー、あのですね、僕は意識だけの世界からやってきた、あなたの師匠なんですが……」


正直に伝えてみると、太郎は、目を丸くした。


「はあ? なにいうてんねん、意識だけの世界? どこの宗教の勧誘なんや?失せろ!ぼけ!」


ずいぶん合わないうちに、柄がさらに悪くなってしまっていた。


しかし、そんな程度で挫ける俺ではない。


これでも意識だけの世界で新世界の創造主をしている俺なのだ。挫けるわけがない。



「いやいや、おじさん……そないなボロクソ言わんとってくださいな。ほら、あなたの大事なジャンヌ華さんからの伝言を持ってきたんですからね」



そう伝えると、太郎は、驚いて目を丸くして言う。



「なんで、お前みたいなんが、華のこと知ってんねん!」



俺は、落ち着いて言う。



「ここでは何ですんで、二人だけで話ができる場所でお話したいことがあるんですよ」と伝える。



太郎は、酒臭い息をしていたが、しばらく考え込み、俺の目をじっと見てから言った。



「わかった。おい、お前ら、俺はちょっとこいつと話しがあるんで、適当にやっててくれや。ちょっと出かけてくるわ」



それを聞いた仲間たちは驚いた顔をしていたが、どうやら太郎はボス的な存在のようで、皆からは否定的な反応はなく俺と太郎は、その下宿から外に出た。



太郎の案内でしばらく歩いてゆくと広い河川敷についた。



「ここなら、誰もおらへんわ。 で、話ってなんやねん?」



太郎は、華の話を聞きたそうにしていた。



「えーとですね、まあすぐには信じれないかもしれませんけど、華さんは意識だけの世界でちゃんと生きてます」


俺は、単刀直入に伝える。



「は? 意識だけの世界? 華が生きている? そないなこと信用できるわけないやろ! そもそもなんでお前が、華のこと知っとるのか、まずそこから説明せい!」



まあ、そういう反応になることは予想していたので、説明をはじめる。



「実はですね、多分かすかに記憶が残っていると思うのですが、僕はあなたたち、そう……博多二郎君なども含めた三人を、この物質世界に送り込んだあなたたちの先生というか師匠なんですよ」



「はあ? そないなわけあるかい! ふざけんのもいいかげんにせいよ。なめとんのか、コラ!」



太郎は、しかし、そうは言いながらも、動揺していた。



それもそのはず、いくら記憶を消されたとはいえ、潜在意識の部分には本人も気がつかない程度ではあっても、過去の魂の記憶が残っていたからだ。



しかも、博多二郎のことまで知っている人物などいるはずがないからだ。



しかも、それが仲良し三人組であるなどということを、なぜこんな若造が知っているのかと、太郎は考えていた。

俺は、お忍びの意識体なので物質世界でもテレパシーが使えるのだ。



俺は、面倒なので直球勝負で真実を伝える。



「まあまあ、落ち着いて思い出してくださいよ。 俺がお前たちの教育担当で、お前たちが自発的にこの物質世界の探検をしたいと申し出て、俺がいろいろなアイテムをお前たちに授けて……時々、難局では入れ知恵をしてやっていたということ、すべて忘れたわけではないだろう?」



太郎は、さらに目をまんまるにして、口も大きく開けて、まるで馬鹿みたいになった。



「なんじゃ、お前、なんか人格かわってへんか? 狂っとるんか?」



そう言いながら、しかし、俺をしげしげと見つめ始めた。



「ほらだんだんと思い出してきただろう? この世界のリスクを説明したこととかも、かすかに記憶にあるんじゃないか? この世界では記憶が消されると何度も説明したし、肉体は絶対に滅びるものだから、命がけでやりたいことをやれと教えたことも、少しは覚えているだろう?」



太郎は、口をあんぐりと開けたままで、俺の顔を見て固まっている。



「………………」



どうやら思い出し始めたようだ。



「ほら、こうしてテレパシーで、会話したこと、覚えているだろう?」



そう言って、俺は、太郎の魂に向けて強いテレパシーで、



「時間がないからさっさと思い出せ! 手間をかけさせるなよ!この世界が消滅することになったんで、助けに来たんだよ」



と伝える。



太郎は、固まったまま、そのテレパシーに返答する。



「世界が消滅だって? なんじゃそりゃ?!」



「うんうん、華がこの世界は消滅させたいと言って、消滅させることになったんだ。思い出したかい。このテレパシーの感覚」



太郎は、ついに、思い出したようだ。



目からボロボロと涙があふれ始めている。



「ちょ……お前……、いや、お前は、ほんまに先生なんか……華は生きとるんか……なんやねんこれは……」



などと言っている。



「そう、緊急事態なんで、俺がこの物質世界に転生して助けに来たんだよ」



そう伝えると、太郎は大声で泣き出した。

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