第31話 俺は、支配者たちに気づかれないように物質世界に転生した
まあ、そういうわけで図らずも、俺はヤバい物質世界に自発的に転生することになった。
いったんは、頑なに回避しようとした選択肢ではあったが、太郎や二郎のためとなれば、仕方がない。
その程度の良心は、俺はちゃんと持っている。
物質世界の支配者たちは、肉体に宿る魂たちの心を読める仕組みを持っていた。
それゆえに、俺は、生まれて間もないうちは心を読まれないように、記憶を戻さなかった。
すると無意識のままに生きることになり、無意識に流されてしばらくは生きることになった。
赤ん坊の時に、意識世界の知識をすべて持ってしまえば、絶対に疑われるからだ。
だから、俺はあまりさえない幼児期や学生時代を過ごすことになった。
大阪太郎や博多二郎は、結婚しなかったので、仕方なく適当な夫婦の間に生まれ、時を待った。
まあ、意識として眠った状態で、無意識にまかせていただけなので、自意識が目覚めたときには、すでに成人していた。
裏技だ。
そして、俺は自意識が目覚めてからは、周囲に別人のようになったと言われることになった。
こうした技を、意識だけの存在ならば使えたりするのだ。
意識だけの存在たちにとっては、肉体とは、たいていの場合、生存本能君が主導権を握っている半自動運転も可能な自動車のようなものなのだ。
支配者たちは、そのような状態の肉体は警戒しない。そうした肉体なら、どうとでも支配できるからだ。
肉体が生きていても、意識不明という状態があることからも、意識が本体であるということが理解できる。
植物人間になって生き続けても、そこに意識が戻らなければ、運転者のいないエンジンだけはかかっている自動車みたいなものなのだ。
なぜだか、そんな状態の肉体でも生かし続けようと膨大な負担をしている人たちもいた。
意識だけの俺から見れば、なんともバカバカしいと感じるが、そうしたことを言うと非難されそうだったので何もいわなかった。
とにかく、そんなことよりも、太郎と二郎に会わねばならない。
俺は、意識だけの世界に残してきた俺の分身体とテレパシー交信して、彼らの現在地や状況を教えてもらうことにした。
「えっとね、今、太郎君は、大阪の下町で仲間たちと宴会していますね」
ほほう……俺の気も知らずに、宴会とはな……
ちなみに彼女はまだいないらしい……
どうやら、太郎自身もこの世界がダメな世界だと理解しているようで、そんなヤバい世界に子供など召喚できないと思っているようだ。
召喚ってなんだ?と思うが、きっと分身体の誤訳だろう……
二郎についても情報を得なければならない。
「彼は、今、世界食べ歩きの旅に出ていますね。住所不定無職状態です」
あー、面倒な奴だ……探すのが大変じゃないか……
どうやら二郎も彼女はいないようだ。彼女よりも食べ物を優先したために、振られたらしい。
二郎らしい……
俺は、このまま彼女などつくらずにいてほしいと思う。
彼らの子供など生まれたら、まためんどうなことになるからだ。
鼠算式に増えられたら、もう俺はどうしていいかわからなくなる。
妙なことはせずに……この物質世界が消滅する前に、はやく意識だけの世界に戻ってくれないと困るのだ。
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