第26話 俺は俺の分身体たちに千尋の谷から突き落とすような試験への参加を呼びかけた

俺は、分身たちに試験を受けさせることにした。



それぞれ、今までよく学び、よく遊んでくれた……



俺の自由世界では、遊ぶだけで学べるようにしてあるので、学びは楽しめるのだ。



卒業試験は、俺の元いた世界の過去に転生して、そこで反面教師的な教訓を持ち帰ってくるという試験になる。



たま~に、運が良ければ素晴らしいものもあるので、そいつも拾ってくればいいとけしかける。



ただ、後でブースカ言われないように、事前に、俺の元いた世界の立体ビデオや映画を見せる。



泣き叫ぶ人々の映像や残酷な場面があり、ほとんどの分身体は、逃げ出し始める。



そういうのは、まだ機が熟していないということで、今回は、落第だ。



だが、中には、手に汗握りながらでも、その映像を見続けれる分身体もいた。



「あかんやろ! こんなことしたらあかんやろ!」などと叫んでいる奴もいる。



大阪太郎君だなとすぐにわかる。



どうやら、彼は、逃げ出すことなく、卒業試験の受験資格を得られそうだ。



だが、試験は厳しい。



運が悪ければ、拷問体験を受けることになる。というか、なにがしかの拷問体験はほとんどの場合、発生する。



それが俺の元いた世界の基本仕様なのだから、仕方がない。



そういう仕様の世界だったのだ。



強ければ、何をしてもよしとされてしまう……



俺は、彼らの心に見つからないように世界のメイン電源のコンセントをそっと差し込んだ。



彼らの心が完全に折れてしまったら、世界ごと消滅する設定にした。



いや、心配することはない。意識だけの世界では、物質タイプの世界を消したり、再生させるのは、ビデオを消したり、また見たりするのとほとんど変わらないので、問題ないのだ。



つまり試験に合格するには、俺の元いた世界でくじけない心を維持できれば合格になる。


はじめっから、支配者たちの出来が悪くて自滅した世界を良心的に改革することなどは期待していない。


まあ、万が一それを実現できればそれもいいわけだが、それが可能な世界なら、俺がここで自由世界を創造するということもなかったのだから。



問題は、彼らが、その世界で何を選ぶかだ。



何を意志するか と言い換えてもいい。



がんじがらめの不自由さの中で、俺の自由世界の一部をかすかに思い出せる状態で、何を選ぶのか……これが試験になっていた。



ちょっとかわいそうな気もしたが、まあ、俺の自由世界の管理運営に携わりたいというならば、強い心を持ってもらわねばならない。



そうした立場につく気がないならば、そこまでは求めないので、遊んでいればいい。



だが、仮にも、自分が管理運営する新世界を創造しようと目指すならば、そうした学習も必要になる。



反面教師の教えを受ければ、その教えは永遠に消えない印象として残るからだ。



それによって「自由」を手にした場合に生じる膨大な危険を回避できるようになる。



絶対に、あんなひどい世界にはしない!という強い意志が育つのだ。



俺は、この試験の受験資格は、試験を受けることを、自発的に強く願う有志だけに限定した。



リスクもちゃんと説明した。



--------------------------------------



「今回の試験のリスク」



完全に過去の記憶を忘れてしまうこと。


残酷な支配者たちが世界を管理していること。


肉体というものには、拷問的な苦しみが発生する仕組みがあること。


各種の弱い者いじめが横行していること。


危険な生物や植物が存在していること。


危険な天災が存在していること。


肉体には操り人形のように支配者たちが操れる糸がついているということ。


テレパシーが通じない者たちがいること。


悪意をもって確信犯でだまそうとする者たちが複数いること。


望んでもいない本能や欲望が発生してくること。


本能に完全にあらがうことは非常に大変でほとんど不可能に近いこと。


簡単には死ねないこと。安楽死などは、ほとんどの地域で認められていないこと。


不条理なルールが山ほどあること。


自治権が与えられていないこと。


社会が良しとする労働というものをしないとたいていは苦しむようになること。


生まれる親や社会を選ぶことができないこと



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



俺は、参加予定者たちからブーイングの嵐を受けた。



「あほちゃうん!」


「ふざけんな!」


「タコ野郎!」


「そんなんありえへん!」


「あたしは、抜けます!」


「狂っとる!」


「せからしか!」


「なぜに、そげなこつ……」


…………


まあ、参加不参加は自由だから、よく考えてどうするか決めると良い……と伝えると、半数以上が脱落していった。



まあ、それはそれで問題ない。無理に参加する必要はない。



残ったのは、大阪太郎君と、博多二郎君とジャンヌ華だった。



たまに、隠密テレパシーで状況を報告をするようにと伝える。



どうしても耐えれないことがあればこれを使いなさいと意識転送魔法具を心の中に入れてやる。

それを使うと、「自動で元に戻る機能」と同じような効果が発動する。


彼らは、未知への冒険にワクワクしているようだ……


まあ、死の恐怖を少し麻痺させるくらいはしておいてあげよう。


それと、悪い奴らからの攻撃を反射する反射衛星砲も、こっそりと忍ばせておいた。


場合によっては、こちらの世界からの思念波動砲で援護射撃できるようにもしておいた。


最悪、死んでしまってもいいし、死にたくなくても絶対死んでしまうので、良心に反すること以外なら、思いっきりやりたいことをやれと伝えた。


万が一、悪い奴らに殺されたり、拷問されたりしたら、我々が仇を打ってやろう……そして俺の自由世界に転生させてやろう……と伝えた。



彼らは、うんうんと元気よくうなづいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る