【Web版】勇者召喚されたけど俺だけ村人だった件~ならば村で働けと辺境開拓村に送られたけど実は村人こそが最強でした~

一色孝太郎

第1話 勇者召喚されたけど村人だった件

2021/06/17 誤字を修正しました

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「ようこそお越しくださいました。勇者様方」


 気が付けば目の前にものすごい美人で豪華なドレスを着た金髪碧眼のお姉ちゃんが立っていた。


 ティアラまで被っており、まるでファンタジーな世界のお姫様のコスプレをしているようだ。


 左右を確認して分かったことは、周りにやはり兵士のコスプレをした人がいるということ。そしてここがやたらと天井の高い石造りの建物の内部だということだ。


 おかしい。


 どこをどう逆さに考えてもおかしい。


 なぜ俺はこんなところにいるのだろうか?


 そもそも俺は徹夜で残業して、昼になって退社した。そのせいで土曜日の昼間にヨレヨレのスーツを着て、オフィスの最寄り駅に向かって歩いていたはずだ。


 それで……どうしたんだっけ?


 たしか、コンビニの前までフラフラと歩いてきたことまでは記憶にある。その前にたしか制服の高校生たちが立っていて……。


「勇者ってなんですか!? ここはどこなんですか?」


 後ろからどこか嬉しそうな男の声が聞こえ、振り返った。するとそこには制服を着た高校生くらいの男の子と女の子が二人ずつ立っており、そのうち茶髪の男の子が質問したようだ。


「ご質問にお答えします。ここはサルデリア王国の王都サルデリアにある王宮、その勇者召喚の間です。我が国を、いえこのランデール大陸を邪悪なる魔族と手を結んだフロンツ帝国からお守り頂きたく、皆様を勇者としてわたくしどもサルデリア王国が召喚いたしました」


 女性は美しい顔に美しい笑顔を浮かべてそう微笑むと、優雅にスカートの裾をつまんでちょこんと膝を折った。


「ぼ、僕が……」


 茶髪の学生はどこか嬉しそうな表情を浮かべている。


 いやいや。そこ、信じちゃダメだろう。


「申し遅れました。わたくし、サルデリア王国第一王女ローズマリーと申します。勇者の皆様、お名前をお伺いしても?」

「は、はいっ! 僕は四宮玲央れおと言います。あ! 名前が玲央で、苗字が四宮です」

「まあ、レオ様。素敵なお名前ですわね」


 王女はそう言ってニッコリと微笑んだ。四宮くんはその微笑みにすっかり舞い上がっているようだ。まあ、高校生ならあれだけの美人にそう言われたら仕方のない反応かもしれない。


「横山桃花です。名前が桃花で、苗字が横山です」


 次におずおずと名乗ったのは茶髪でショートヘアの女の子だ。横山さんの制服を着た女子が四宮くんの制服の男子とぞろぞろ歩いているの見たことがあるので、二人は同じ学校の生徒なのではないだろうか?


「はい。モモカ様。ようこそいらっしゃいました」

「オレは翔だ。園山翔。よろしくな! 王女サマ」


 金髪のいかにも不良っぽい外見の男の子がそう自己紹介した。彼は四宮くんとは別の制服だ。


「はい。勇者ショウ様。お越しいただきありがとうございます」


 にこやかに笑いかけられた園山少年の鼻息は荒い。もしかしてあれは、自分が相手にされると思っているのだろうか?


 もう一人、黒髪でセミロングの少女がいるが彼女は警戒のまなざしで王女様を見ている。


 なるほど。彼女の着ている制服は俺でも知っている。会社からほど近い場所にある超名門女子高の制服だ。


 さすが、偏差値が日本最高レベルなうえに超大金持ちしか入れないというだけあって生徒のレベルも高いらしい。


「そちらの座ってらっしゃる素敵な勇者様も、お名前をお教えいただけますか」


 王女様が俺のほうを見てそう言ってきた。


 胡散臭いが……ここで教えないというのも話が進まなそうだ。


「……悠人だ」

「はい。ユート様。ようこそいらっしゃいました」


 王女様は俺にも極上のスマイルを向けてきたが、さすがに俺でもわかる。完全な営業スマイルだ。


 新卒で社会に出てから早四年。何度飲み屋のお姉ちゃんのこの笑顔に騙されてきたことか!


「そちらのあなた様のお名前を教えて頂けませんか?」


 最後にお嬢様学校の女子高生に王女様が尋ねた。


 すると、彼女は逡巡したのち口を開いた。


「紗耶香です」

「はい。紗耶香様。素敵なお名前ですね」


 王女様は彼女に笑顔を向けたが、彼女は警戒を解く様子はない。


「それでは勇者様。どうぞこちらの宝珠をお持ちになり、皆様の職業をご確認ください」


 王女様はそう言うと、お付きの偉そうな爺さんが何かを運んできた。


 ああ、どうしよう。すごく大事な場面なのはわかるがものすごく眠い。


 あとちょっとでようやく眠れると思っていたのに。


「お、やべぇ。オレ、武王だってよ!」


 不良少年の嬉しそうな声が聞こえてきた。どうやら彼の職業がそれらしい。


「おお! 武王! 素晴らしい。全ての武器を自在に使いこなせる最強の前衛の攻撃職です」


 前衛の攻撃職って、ゲームかよ!


 そういえば俺が学生時代にやっていたMMOにそんな役割分担あったなぁ。


「僕が勇者……」

「あ、あたしは聖女」

「……賢者、だそうよ」


 四宮君が勇者で横山さんが聖女、お嬢様な子が賢者らしい。


 なるほど。前衛二枚にヒーラーと後衛アタッカーか。RPGだったらバランスの良さそうなパーティーだな、などと思ったが眠くてそろそろ本格的に辛い。


 早く終わってくれないだろうか? というか、どうやって家に帰れば良いんだろうか?


 そんなことを考えていると、何か呼ばれているような気がする。


「――様? ユート様?」

「え? あ、はいはい。その玉を握れば良いんですね?」


 俺は王女様のお付きの爺さんから玉を受け取ると、ぼんやりと何かが浮かび上がってきた。


「ええと? 村人?」


 俺がそう答えた瞬間、王女様と爺さんの顔が般若のごとく歪んだのだった。


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