第13話 木工師の仕事が忙しすぎる件
「おい! ユート! この食器、お前が作ったって本当か!?」
行商人のところから戻ってきた俺の家にロドニーが押しかけてきた。
いや、正確には俺が戻った後にロドニーの奥さんのであるブレンダさんがやってきて俺の作った食器を持っていき、それからしばらくしてロドニーがやってきたのだ。
「そうだぞ。そこに作業台もあるだろ」
「いつの間にこんなものを……」
「ただ、一セットで十デールにしかならなかったがな」
「はっ!? タークリーの奴に売ったのか?」
「ダメだったのか?」
「あいつ、いつもとんでもない安値で買い叩いてくるから誰も売らないんだよ」
「え? そうなのか?」
「ああ。しかも売ってるもんの値段が高いしな」
「じゃあ、買わなきゃいいじゃないか。そうしたら別の行商人が来るようになるんじゃないのか?」
「そうなんだがな。ただ、あいつ以外に金属製品を持ってきてくれないんだ。だから仕方なくあいつのところで買ってるんだよ」
なるほど。それでうちの村には金属製品が少ないのか。
「ただ、売るんだったたまにしか来ないが他の商人にしたほうがいい」
「そうか。ジェシカちゃんが案内してくれたからつい……」
「ああ、そうか……。ジェシカはまだそういうのを知らないからな。よく言って聞かせておくから、どうか怒らないでやってくれ」
「いやいや。怒るも何も、知らなかったんだから仕方ないだろ?」
「ああ、すまないな」
「そういえば、この食器一セット売ると他の商人ならどのくらいになるんだ?」
「これだけ質が良ければ、倍くらいでは売れるんじゃないか?」
「なんだ。それでもその程度なのか。あの商人は木の皿一枚で五十デールだったぞ?」
「だから、あいつんところはボッタクリなんだって」
「そういうことか」
くそ。どうやら完全にカモにされたようだ。
「だが、ユートが食器を作れるならもう外から買わずにすむな!」
「え? ああ。そうだな」
「ま、物々交換になると思うがよろしく頼むぜ」
そうか。言われてみればこういったものも自分たちで作っていたのだ。木工師の作った製品が手に入るのは助かるのだろう。
「ああ。任せろ。他に欲しいのはあるか?」
「いくらでもあるぜ。たとえばな――」
ロドニーはこれでもかと村で不足している木製品を伝えてくると、そのまま帰っていったのだった。
ちなみにその後真っ青な顔をしたジェシカちゃんが飛び込んできて、泣きながら謝ってきた。
それを何とかなだめすかして家に帰らせて長い一日が終わったのだった。
◆◇◆
翌日、村の人たちが一斉に俺の家へと押しかけてきた。理由はもちろん、俺が木で色々と作れると知られたからだ。
食器だけではなく桶やチェスト、補修用の角材や板、果ては農具まで様々なものをリクエストされ、それと交換にパンや干し肉などの食べ物をもらった。
農具なんかはまだレベルが低いせいか良い品質のものが作れていないが、それでも行商人から買うよりは遥かにマシということで満足はしてもらえている。
さて。午前中の加工を終わらせそろそろお昼にしようと思っていたところで家の扉が開けられた。
「ねぇねぇ。ユート」
おや、珍しい。ジェシカちゃんの妹のアニーちゃんがやってきた。
「どうしたの?」
「あのね。ママがいっしょにね。ごはんたべようって」
「いいのかい? ありがとう」
日本ではコンビニ弁当と外食で済ませていたせいもあって、自慢ではないが俺は料理がまったくできない。自分で作ると壊滅的な味になるのが分かっているため、こういった申し出はありがたく受けることにしている。
ちなみにSCOでは調理師の職業を取ることで料理をすることができるのだが、通常プレイでは調理師を育てるのは後回しにすることが多い。だが、この状況だともしかしたら調理師を取っておいたほうが良いかもしれないな。
料理ができないせいで栄養失調とかシャレにならない気がする。
「はやくはやくっ!」
アニーちゃんはお腹がすいているのか、俺の手を引っ張って連れていこうと必死な様子だ。
「わかったからちょっと待ってよ」
「はやくぅ~」
こうして俺はアニーちゃんに引きずられてロドニーの家へと向かったのだった。
◆◇◆
「あっ、ユートさん」
「こんにちは。ジェシカちゃん。ロドニーとブレンダさんもこんにちは」
「おう」
「こんにちは」
「ねぇ、ごはん~。おねえちゃ~ん」
「ああ、はい。ちょっと待ってね」
そう言ってジェシカちゃんはブレンダさんと共にキッチンへ向かうとすぐにお皿を持って戻ってきた。
お、あれは俺が作ったスープ用のお皿だ。
「ポトフです。どうぞ」
ジェシカちゃんが俺の前に配膳してくれた。
「ああ。ありがとう。食器、使ってくれてるんだね」
「はい。すごく使いやすいです」
「それは良かった」
そんな他愛のない会話をしつつも和やかに食事が始まる。
いや? ロドニーだけ和やかじゃないような?
なぜかは分からないが、ロドニーが俺のことを睨んでいる気がする。
「なあ、ロドニー。どうかしたか?」
「……いや」
ロドニーはそう言ってそっぽを向いてしまった。
一体何なんだ?
俺が首をひねっているとアニーちゃんの無邪気な一言がその答えを教えてくれた。
「おねえちゃんのポトフ。おいしいよねっ! あたしだ~いすき!」
「ありがとう」
そう言ってジェシカちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
「なるほど。これはジェシカちゃんが作ってくれたんだ。ありがとう。すごく美味しいよ」
「い、いえ……」
ジェシカちゃんはそう言って可愛らしくはにかんだ笑顔を浮かべた。
可愛らしいのだが、突き刺さるような視線が俺を射貫いてくる。
もちろん、犯人はロドニーだ。
そんなロドニーのほうに視線を向けると慌てて顔を逸らした。
いやいや。だから前にも言ったとおり、年齢が違いすぎるんだからそんな感情はないって。
妙な嫉妬に駆られている変な奴は置いておいて、女性陣の話に耳を傾けてみよう。
食卓の会話は近所の噂話から始まって行商人の悪口に話題が移り、またジェシカちゃんの料理に戻ってきた。
「あ、あの。もしよかったらこれからもうちで食べていきませんか? その、私も料理をたくさん練習しなきゃいけないですし、それにお父さんもユートさんにご迷惑をお掛けしていますから」
そう言われた瞬間にロドニーは心外といった表情を浮かべるがブレンダさんの一睨みで一言も発せずに黙り込んだ。やや同情する気持ちもあるが、これがこの家庭の力関係なのだろう。そして実力者を前に口をはさむ度胸は俺にはない。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。ジェシカちゃん。ブレンダさんも、よろしくお願いします」
「ええ。どうぞ毎日いらしてください。人数は多いほうが賑やかですからね」
ブレンダさんはそう言ってにっこりと微笑み、ジェシカちゃんも嬉しそうにしている。アニーちゃんは食べ物に夢中で話を加わっておらず、ロドニーは「俺は許可していない」とでも言いたげな表情だ。
「ロドニーも――」
「ダメ――」
「あら、何か言いました?」
俺がロドニーに一応確認しようとしするとロドニーが食い気味に反対しようとし、さらにブレンダさんが言葉を被せてきた。
「い、いえ。なんでもありません」
ロドニーは急に小声になるとまるで借りてきた猫のように大人しくなったのだった。
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