第14話 狩人になってみた

 あれから一か月が経過し、俺は石工師と狩人の職業を取得した。


 というわけで早速だが、俺はロドニーと一緒に狩りをするため森へとやってきた。ロドニーはジェシカちゃんが絡むと妙に絡んでくるものの、それ以外は良好な関係を築けておりどこかに行くとなるとまずロドニーを誘うような間柄になっている。


 石工師はその名の通り石の加工ができる職業で、狩人は弓矢を使って獲物を狩る戦闘職だ。


 木工師と石工師があれば弓も矢を作ることができるため、自作した弓と石の矢を持ち、狩りに挑戦してみようというわけだ。


 前回までは村長様とそのご子息様に花を持たせるためにわざわざ追い込むなどという無駄なことをしていたが、今回は俺たちでしっかりと仕留めてしまおうという算段だ。


 あと、これまで俺たちが自分で狩りに行かなかったのは別に禁じられているからではない。その理由は単純で、獲物を仕留めるための武器を持っていなかったというだけだ。それが解消されたのだから、自分たちで肉を手に入れようと動き出すのは当然のことだと思う。


 さて。狩人になった俺の視界にはやはり『▼』のマークが見えており、その隣には獲物の種類までご丁寧に書かれている。


 今俺の視界に見えているのは『▼イノシシ』が一つと『▼野ウサギ』が五つだ。木の上には『▼モリウズラ』もたくさん見えている。ウズラというと地面を歩いているイメージだったが、ここのウズラは木の上にいるらしい。


「ロドニー。どいつを狙う?」

「どいつ? おい、ユート。お前もう獲物を見つけたのか?」

「ああ。あそこにイノシシがいる。それからあっちには野ウサギがいて、あの木の上にはモリウズラがいるぞ」

「モリウズラだって?」

「ああ。だが木の上だから大変そうではあるな」

「いや、捕まえよう。モリウズラの羽毛は高く売れる。それに、肉も柔らかくてローストにすると最高なんだ」

「捕まえたことあるのか?」

「一度だけ、怪我をしたのが地面にいたのでな」

「なるほど」


 思い出してみればこっちに来てからというもの、鳥を食べた記憶がない。


 俺たちはモリウズラを刺激しないようにそっと木に近づくのだった。


◆◇◆


「本当に居やがった」

「信じてなかったのかよ」

「ま、まあな。あんな遠くからどうして分かったんだ?」

「まあ、何となくかな」

「……よく分からねぇが、ユート。お前、実は村人じゃなくて狩人だったりするんじゃねぇのか?」

「職業は村人だよ」


 ロドニーは怪訝そうな顔をしているが、嘘は言っていない。


 正確には村人であり狩人でもあるのだが、村人でなければ最強になれないから村人なのだ。まあ、そんなことを言っても話がややこしくなるだけなので村人でいいだろう。


「とりあえず、撃つぞ」


 俺は矢を番えると弓を構えた。そしてSCOの画面を思い出しながらじっくりと狙いを定める。


 するとまるでSCOの画面で見たような『+』マークの照準が目の前に現れた。しかも、その照準の周囲をゆっくり時計回りに円が描かれていく。


 おお! マジか!


 一瞬ビビったが、これであれば話は早い。この照準の使い方は知っている。


 そのまま円が描かれるのを待って、やがて一周して繋がったところで矢を放つ!


 放たれた矢は真っすぐに樹上のモリウズラを目掛けて飛んでいき、そのお腹に命中した。それと同時に他のモリウズラたちは慌てて飛び立つ。


「よしっ!」

「おお! すげぇ。当たった!」


 ガッツポーズをした俺の隣でロドニーが何やら失礼なことを言っている。


「当たったんじゃない。当てたんだ」


 まあ、当てたのはSCOの照準システムのおかげだがな。


 照準の合うスピードは狩人のレベルが高くなれば早くなるし、照準があった状態での命中率はたしかDEX依存だったかな?


 昔のことだからちゃんとは覚えていないが、この辺を補正してくれるマジックアイテムなんかもあったはずだ。


 そんなやり取りをしている間にモリウズラは木の上から落下してドサリと地面に転がった。


「そうか。そういうことにしておいてやるよ」


 ロドニーは急いで落ちたモリウズラに駆け寄ると慣れた手つきて処理をしていくのだった。


◆◇◆


 それから数時間ほど森で狩りをした結果、モリウズラを三羽に野ウサギを一匹捕まえて村へと戻ってきた。


「あっ! お帰りなさい! ユートさん。お父さん」


 ジェシカちゃんが笑顔で迎えてくれる。


「パパ―っ!」


 アニーちゃんはロドニーのところに猛ダッシュして抱きついていった。


「ははは。ただいまアニー。いい子にしてたか?」


 ロドニーはなんとも締まりのない顔をしてアニーちゃんを抱き上げている。


「うんっ! お肉でしょ? お肉! お肉!」

「おう。パパがたくさん捕まえてきたからな」


 あんなことを言っているが、ロドニーの放った矢は一本も当たっていない。


 ただ、可愛い盛りの娘の前ではそんな見栄も張りたいのだろう。


「あの、ユートさん。ありがとうございます。きっと、ユートさんが仕留めてくれたんですよね?」


 ジェシカちゃんは俺のことを気遣うようにそう言ってくれる。


 うん。なんていい子なんだ。


「ま、まあ。ロドニーさんのおかげもあるから」

「あら、お帰りなさい。ユートさん。こんなに狩れるなんて、ユートさんは狩人の才能もあるんですね」


 ブレンダさんが家の中から出てくるなり、開口一番そう言った。


「あ、ええと……」

「ユートさん。良いんですよ。あの人、昔から狩りはさっぱりダメな人なんですから」

「お、おい。ブレンダ……」


 ロドニーがすがるような表情でそう言うが、ブレンダさんは意に介した様子はない。


「あなた。どうせすぐにバレるんだから最初から素直に言っておいたほうが良いですよ」

「う……」


 ブレンダさんの物言いにロドニーは言葉を詰まらせている。


「何かあったの?」


 俺がジェシカちゃんに尋ねると、ジェシカちゃんは困ったような表情になりながらも教えてくれた。


「昔、お父さんが森でモリウズラを捕まえてきてくれたことがあったんです。それでお父さんは自分のことを狩りの名人だって言っていたから私、ついまた食べたいっておねだりしちゃったんです。でも、そのせいでお父さんったら毎日森へ行く羽目になっちゃって……」

「ああ、なるほど。それで一羽も捕まえられず、大変な目にあったってことか」

「はい。でも私、お父さんのこと嘘吐きって泣きながら責めちゃって……」

「小さいころの話なんでしょ?」

「そうなんですけど、でもひどいことを言っちゃったから……」


 なるほど。だが同じことをまたやろうとしているんだからそんなに気にしてないんじゃないかな?


「あの。今日もお料理、がんばりますね」

「うん。楽しみにしてるよ」

「はいっ」


 ジェシカちゃんはちょっと恥ずかしそうにしつつも柔らかな笑顔でそう言ったのだった。

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