第39話 襲撃、再び(3)

 それから俺は村中をくまなく探し、侵入していた盗賊をさらに五人殺害した。


 どいつもこいつも分かりやすく松明たいまつを持っていたおかげで判別しやすかった。


 アジトにいた盗賊の人数を考えると、別働隊として動いているのはあと数人、どんなに多くとも五人くらいだろう。


 だがここでようやく村内の盗賊を排除している者がいることに気が付いたのか、一つの明かりが村の外れへと向かって移動をし始めた。


 俺は音を立てないようにこっそりと後をつけ、俺たちが柵を壊して入ってきた場所とはちょうど反対側の柵までやってきた。


 するとなんと! その柵にはゆうに大人二人が並んで通れるほどの大きな穴が空いているではないか!


 どうやら盗賊どもはここを通って侵入していたらしい。


 なるほど。このあたりはたしかに村人たちの目も届きにくいし、森が柵の間近まで迫っている。


 破壊工作するにはもってこいだし、木々に隠れて侵入するにしても絶好の場所だろう。


 松明を持った盗賊は堂々とその穴から外に出る。すると森の木々の陰から盗賊が続々と現れた。


 その数は……え? 多い!


 十人ほどはいるように見える。どうやらアジトにいたのは全部ではなかったようだ。


 あの数を相手にするのはいくらなんでも不可能だ。だが侵入を許してしまい、人質を取られては大変なことになる。


 ……やるしかないか。


 あいつらの侵入経路がここだと分かっているのなら、集まる場所を叩くのが一番だ。


 防ぎきることは難しいかもしれない。だが、教会の女性陣が別働隊侵入の可能性を伝えているはずだ。


 であれば俺がやるべきことはここで少しでも数を減らすことだけだ。


 幸いなことに奴らは松明を持っているが、俺は持っていない。


 これは大きなアドバンテージで、俺が一方的に狙撃できる状況だ。


 というのも、人間は暗い場所からであれば明るい場所ははっきり確認できるが、その逆の状況になるとまったく見えなくなる。


 このチャンスを逃す手はない。


 よし。


 俺は矢を番えると弓を引き絞り、神経を集中させる。そしてタイミングを合わせて、射つ!


  パシンという小気味のいい音と共に放たれた矢はすぐに闇に溶け、そして松明を持っていた男の頭部に正確に命中した。


 男は他の放火をしようとしてた盗賊たちと同様に、声すら上げることなく崩れ落ちる。


「なっ!?」

「どっからだ!」


 慌てる盗賊たちに俺はすぐさま二の矢を放つ。


「ぐあっ!」


 盗賊たちが動いていたせいもあり、今度は肩口に命中した。


「あっちだ! 村の中からだ」

「くそっ! やれ!」


 盗賊たちは柵に空いた穴から一斉に侵入しようとしてくるが、そこへ俺は三の矢を放つ。


「がっ!?」


 命中だ。狙っていた盗賊の後ろにいる盗賊の首に突き刺さったようだ。


「あっちだ!」


 矢の飛んでくる方向から判断したのか、俺のほうに剣を向けてそう叫んだ。


 俺はその盗賊の頭を射貫いた。


 四人目!


 さらに俺のほうへ一団となって向かってくる六人の盗賊たちに向けて矢を放つ! 放つ! 放つ!


 一撃で仕留めるよりも確実に当てることを優先したためどれも致命傷にはならなかったが、それでもすべての矢を命中させることができた。


 俺は距離を取るため走りだした。


「いたぞ! あいつだ!」


 おかげで姿を見られたが、問題ない。


 ここは勝手知ったる村の中だ。どこに何があるかは理解している。


「殺せ!」

「逃がすな!」


 俺は畑の中を走っていき、俺はひょいと大きな肥溜めを飛び越えた。


 そしてその先にある小さな農作業小屋を目指し、あえてゆっくり走っていく。


「お! あいつ! 疲れてきやがったぞ!」

「捕まえろ!」

「よくもおあっ!?」

「のっ!?」

「ひゅっ!?」


 先頭を走っていた盗賊の姿が消え、続く二人の盗賊たちの姿も消えた。


 ……どうやら無傷の盗賊たちは三人とも肥溜めに落ちたらしい。


 まさかここまでうまくいくとは……。


 俺は矢を受けて動きの鈍った盗賊に狙いを着け、次々と射殺していく。


 あとは肥溜めに落ちた間抜けな盗賊だけだ。


 俺は肥溜めから上がってこようとしている盗賊の肩を射貫き、次の盗賊は頭部を射貫き、そしてもう一人も頭部を射貫いた。


 ……これでもう終わりだろう。


 俺は肥溜めに近づき、その中を確認した。


 肩を射貫かれた盗賊はまだ生きているようだが、ぐったりとしている。


 かなりの血を流しているので、もう村に悪さはできないはずだ。


 ……ここまでやればもう、いいだろう。


 そう思ったが、ジェシカちゃんたちが盗賊のアジトに連れてこられたときのことを思い出して考えを改める。


 ここでトドメを刺しておかないと何があるかわからない。


 俺はぐったりする盗賊の頭を至近距離から射貫いた。


 日本にいたころならとても正視できない凄惨な状況となったが、ショックはさほどなかった。


 日々の狩りで血には慣れているし、前回自分の手で盗賊を殺したときと比べればはるかにマシだ。


 そう。これでいいんだ。


 残るは門の前の盗賊だが、あいつらは門からかなり離れた場所に陣取っていた。


 きっと矢が届かない位置を計算しているのだろう。


 ならば、その側面を叩いてやる!


 そう考えた俺は盗賊たちが出入りに使っていた穴を通って外に出ると、森の中を通って正門のほうへと向かうのだった。


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次回更新は 2022/07/15 (金) 12:00 を予定しております。


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