第8話 王女と召喚者
「サヤカ様。おはようございます。昨晩はいかがでしたか?」
「おはようございます。王女様。おかげさまでよく眠れました」
勇者召喚が行われた翌朝、ローズマリーは朝食の間へとやってきた紗耶香に声をかけた。にこやかな笑顔を浮かべるローズマリーに対し、紗耶香はややぎこちない笑みを返す。
「わたくしどもの勝手でお呼びしてしまったのです。できる限りのことは致しますので、ご不便がありましたらなんなりと仰ってくださいね」
「ありがとうございます」
すると紗耶香は少しホッとしたような表情を浮かべた。
「あの、よろしければ朝食をご一緒しても?」
「はい。マナーとか、上手くできないかもしれませんけど」
「あら。そのようなこと、構いませんわ」
ローズマリーは優雅に微笑み、そして連れだって二人は着席した。するとすぐに二人の食事が運ばれてくる。
ローズマリーはすぐに神に祈りを捧げと口を開く。
「いただきます」
「え?」
紗耶香はそのあまりに意外な言葉に思わずローズマリーをじっと見つめた。
「お気に召しませんでしか?」
ローズマリーは不安そうな表情で紗耶香の顔を伺った。
「い、いえ。でもここでその言葉を聞けるとは思わなかったのでびっくりしてしまいました」
「まあ。そうでしたか」
ローズマリーは嬉しくて仕方がないといった様子で言葉を続ける。
「『いただきます』という言葉は、我が国では勇者様がお食事を召し上がる際に行う最上級の祈りの言葉として伝えられているのです」
「え? 祈り?」
「はい。そしてこの言葉を我が国の民が口にして良いのは勇者様と食卓を共にしたときだけなのです。わたくし、過去に勇者様がこの国をお救いになったお話が大好きなのです。それで、この祈りの言葉を唱えるのが夢だったのですわ」
そう弾んだ声で答えたローズマリーの表情には普段の王族スマイルでなく、まるで子供のように屈託のない笑顔が浮かんでいた。
「あ……そ、そうだったんですね。じゃあ、いただきます」
それを見たローズマリーはさらに瞳をキラキラと輝かせた。
「あ、そんなに見ないでください。日本、あ、その、私たちの国では誰でも食事の前には言っていますから」
「そうなのですね。ニホンとはどのような国なのですか?」
「え? それは――」
紗耶香はローズマリーの様子に戸惑いながらもぽつりぽつりと日本のことを話しはじめたのだった。
◆◇◆
「ごちそうさまでした」
やがて食事が終わると二人はごちそうさまをした。
「まあ。やはりその言葉もきちんと使われるのですね。ごちそうさま。ふふっ」
キラキラと目を輝かせるローズマリーに紗耶香は苦笑いをしつつも、妙な親近感を覚えていた。
「その、私は……」
「はい。お伺いしたところ、サヤカ様の世界では魔物もいなければ魔法もないのですよね? そのようなサヤカ様に戦場に立ってほしいなどとは申し上げませんわ」
「あ、その……」
「ですが、賢者でらっしゃるサヤカ様は間違いなく魔法を使えるようになります。戦うかどうかはさておき、魔法の練習だけでもしてみてはいかがでしょう? もしかすると、ニホンへお戻りになられてからも使えるかもしれませんわ」
「……そうですね。戦ったり、誰かを傷つけるのはイヤですけど、でもそのくらいなら……」
「はい。わたくしもできる限りの協力は致しますわ」
「ありがとうございます」
そう答えた紗耶香にローズマリーは少し恥ずかしそうな表情を浮かべ、そしておずおずと口を開いた。
「あの……差し出がましいとは思うのですが……」
「なんですか?」
「もしよろしければ、わたくしとお友達になってはくださいませんか?」
「え? 私と? 王女様が?」
「ええ。わたくし、王女という立場があるせいで友達らしい友達がいませんの」
「あ……それは……」
「でも、サヤカ様でしたらきっとそう言ったことを抜きにして……あ、すみません。わたくしったらつい……」
ローズマリーはそう言って語尾を濁すと悲しそうな表情を浮かべる。
「い、いえ。そうですよね。その、帰るまでの間だけですけどそれで良ければ……」
その様子に紗耶香は慌てて承諾の意を示した。
「まあっ! 本当ですの? それならわたくしのことはぜひローズとお呼びくださいませ」
「わかりました。ローズ様」
「あら、様もいりませんわ。サヤカ様」
「じゃあ、私も様はなしでお願いします。ローズ」
「はい。サヤカ」
ローズマリーがにっこりと微笑むと、紗耶香もそれにつられてにぎこちないながらも微笑んだのだった。
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