第9話 職業無限増殖

2021/06/17 誤字を修正しました

2022/06/29 誤字を修正しました

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 あれから一週間が経過した。その後は狩りに出ることもなく、俺は開墾の手伝いや採集の手伝いをして過ごしている。


 開墾の手伝いでは村の周りの木を斧で切り倒す、残った根っこを引っこ抜くなどの力仕事だ。もちろん力仕事ということを覚悟はしていたが、頭では分かっていたつもりになっていても実際にやってみると想像以上に大変だった。


 ただ、それでもブラック企業で社畜をしていたときよりもこちらのほうが気は楽かもしれない。


 もちろん肉体的なキツさはこちらのほうが遥かに上なのだが、どうしてだろうか?


 もしかしたらこちらでの疲労は本当に肉体的なものだけで、精神的なストレスはあまりないというのが影響しているのかもしれない。


 そう考えると、現代日本の労働環境がいかにいびつなものなのかをまざまざと思い知らされる。また、それと同時にどうしてブラック企業をさっさと辞めなかったのかという後悔も襲ってきた。


 働いていたときはそんな疑問を思いもしなかったのに、不思議なものだ。離れてみると分かることというのもあるらしい。


 いきなり拉致されて腹立たしくはあるが、それを理解できただけでも価値はあったかもしれない。


 ああ、そうだ。それに加えてお隣さんのところの姉妹が天使のように可愛くて癒しになっているので、それも良かったことに追加しても良いかもしれない。


 さて。そんな暮らしをしている俺だがようやく村人のレベルが10に到達した。それに伴い転職メニューが解放されたので、早速それを使ってみようと思う。


 メニューを開くと迷わず転職を開くと、転職可能な職業がずらりと並んで表示された。


 俺はその中から村人を選択して転職を実行する。


 すると一瞬だけ目の前が明るくなり、『転職が完了しました』というメッセージが表示された。


 ステータスを確認してみると、『村人Lv. 10』の下に『村人Lv. 1』が追加された。


 よし。成功だ。


 だが、ここで焦って一つ目の村人を別の職業に転職してはいけない。かつてSCOでは、一つ目の村人を転職してしまうと職業無限増殖バグができなくなるという恐ろしいバグの報告が某匿名掲示板に山のように寄せられていたのだ。


 あいや、バグ技が使えなくなるのだからバグじゃなくて正常なのか?


 こほん。


 ともかく、あとは新しく追加された村人をレベル10まで育てるだけだ。


 俺は今後に胸を躍らせ、小さくガッツポーズをしたのだった。


◆◇◆


 さらに一週間ほどが経過し、二つ目の村人がレベル10になった。そこで俺は二つ目の村人を『採集師』という職業にし、さらにもう一つ村人を追加して次の転職に備える。


 この採集師という職業はその名の通り、草木や実などを採集する生産職だ。なぜ最初にこの職業を選んだのかというと、今の俺がこの開拓村で生活していくにあってもっとも恩恵が大きいと考えたからだ。


 というのも、SCOにおいてこの採集師の職業には職業の固有特性は二つある。


 まず一つは、採集対象に『▼』のマーカーがつくのだ。つまり、いちいち探さなくても近づいただけで薬草などの場所が分かるようになる。


 もう一つは採集時のドロップ向上だ。つまり、レアドロップが発生したりドロップ数が増えたりする。


 この開拓村の畑はまだ開墾中であり、十分に食料を自給自足できているとは言い難い状況だ。


 そのため、森で得られる果物や食べられる野草などは貴重な食料だし、薬草などは俺たちが得られる数少ない現金収入にもなると聞く。


 というわけで、早速採集に出掛けようとロドニーの家を訪ねる。


「おはよう。ジェシカちゃん。ロドニーはいる?」

「あ、おはようございます! お父さんですね。はい。お父さーん!」

「んー?」


 家の中から気の抜けた返事が聞こえ、すぐにロドニーがやってきた。


「よう。ユート。朝からどうした?」

「採集に行こうと思うんだがお前もどうだ?」

「おお。いいな。ジェシカ。お前もどうだ?」

「えっ? いいの?」

「ああ。もちろんだとも。ユートもいいか?」

「ああ。もちろん。むさいロドニーといるよりも可愛いジェシカちゃんと一緒のほうが楽しいだろ」

「おい! 誰がむさいって?」

「や、やだ。可愛いだなんて」


 俺の冗談にロドニーは楽しそうに笑っていて、ジェシカちゃんは真面目に受け止めてしまったのか顔を赤らめている。


「お、おい! ジェシカ! お前……おい! ユート! 可愛いジェシカはお前にはやらんからな!」

「ええっ!? お義父さん。昨日あんなに娘をよろしくって言ってたのに」

「言ってねぇ! 大体お前に義父呼ばわりされる覚えはねぇ!」

「あははははは」


 そんな俺たちのやり取りを見てジェシカちゃんははにかんでいる。


 うんうん。何だかこういう純真無垢な反応は見ていて癒されるよなぁ。


 上司に連れていかれたお店のお姉ちゃんとはえらい違いだ。


 こうしてひとしきりじゃれあうと、ロドニーとジェシカちゃんの準備を待って森へと出掛けるのだった。


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