第10話 チート採集師
2021/06/17 誤字を修正しました
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森に入った瞬間、昨日までとは見える景色がまるで違っていた。
まず一点目はミニマップが使えるようになっていたことだ。ミニマップというのは、よくゲーム画面の隅っこに小さく表示されているあの地図のことだ。方角や自分のいる位置を確認できるだけでなく、パーティーメンバーがどこにいるかまで把握できる。
今俺はロドニーとジェシカちゃんの二人と無断でパーティーを組んでおいたので、万が一誰かがはぐれてもすぐに合流できるだろう。
それともう一つ変わったこととしては、採集すべきものの上に『▼』のマークが表示されていることだ。しかも、一度通った場所であればそれがミニマップ上にも反映されるのだ。
ゲームであれば定番の機能だが、現実に使えるのであればもはや完全なチートと言えるだろう。
「あ、そこに薬草があるな」
「お? どれどれ? おお、本当だ!」
「ユートさん! すごいですね! どうやって見つけてるんですか?」
「え? ああ、何だか最近分かるようになってきたんだ」
まさか『▼』が表示されているなんて言ったところで意味不明だろうからな。こんな説明でいいだろう。
そう思ったのだが、純粋なジェシカちゃんはキラキラした目で俺を見てきている。
「すごいです! まだ村に来て二週間なのにお父さんよりもすごいなんて!」
「え? あ、ああ。じゃあ、ジェシカちゃん。そこの薬草を採集してくれる?」
「はい! ユートさん! 教えてください」
「いいよ。それはね――」
チートのおかげとはいえつい楽しくなった俺は手とり足とり正しい採集の方法を教えていく。
「うおっほん」
ロドニーが不機嫌そうに咳ばらいをした。
おっと。せっかくのお父さんの見せ場を取ってしまった。だが、若くて可愛い女の子に頼られて嬉しくない男など存在しないのだから仕方がない。
「お父さん? どうしたの?」
「あ、いや。お父さんが教えてあげようか?」
「え? いい。ユートさんに教わる。ユートさん。次はどこに行きますか?」
「ッ!?」
キラキラした目で俺を見てくるジェシカちゃんの隣でロドニーがこの世の終わりとばかりに絶望している。
いやいやいや。ちょっとそれは大げさだろうに。
「そうだね。あ、あそこの小川にサルデリアクレソンが生えているね」
「本当ですか?」
ジェシカちゃんは小走りに小川へと向かっていった。
「あっ! 本当だ! すごーい! ユートさん、すごいです!」
チートのおかげでジェシカちゃんの中の俺の株はストップ高のようだ。
それとは対照的にロドニーはものすごく悔しそうで、何やら恨めしそうな表情で俺を見てきている。
ああ。やはりお父さん的には娘にかっこいいところを見せたかったのだろう。
俺には子供もそういう年頃の親戚もいないのでよく分からないが、毎日一緒にいるのにそこまで気になるものなのだろうか?
親子仲は良さそうだし、仲が良くても起こりそうな「もうパパとはお風呂一緒に入らない!」なんていう定番イベントも風呂のないこの開拓村では起こりそうにないのだが。
うーん? よく分からん。
「おのれ、ユートめ……」
ロドニーはギリギリと歯ぎしりしているが、そんな悔しがらなくても……。
そもそも俺とジェシカちゃんとでは年齢差がありすぎるので、ジェシカちゃんのことを女としては見ていない。
そんなロドニーのことは放って俺はジェシカちゃんのところへとやってきた。
「どうだった?」
「こんなにたくさん取れました」
ジェシカちゃんは腕一杯のクレソンを採集しており、嬉しそうにそれを見せてくれた。
「すごいね。こんなにたくさん」
「はいっ! ユートさんの言うとおりでした」
そういってジェシカちゃんは満面の笑みを浮かべる。
うんうん。この笑顔には本当に癒されるな。裏表がないというのが本当に素晴らしい。
そう思いつつも俺はジェシカちゃんが採集した後のドロップを足で回収する。
これで俺のインベントリにはクレソンが収納されているはずだ。
「よし。じゃあちょっと持ってあげるからどんどん採集しよう」
「はいっ! 次はどこですか?」
「うん。次はね――」
こうして半日ほどの採集を楽しみ、クレソンに薬草、野イチゴなどをたっぷり手に入れて村へと戻ったのだった。
ん? ロドニーはどうしたって?
張り切りすぎて空回りした挙句、俺が教えたものを取らなかったせいで成果はほぼゼロだった。
まあ、一家の分はジェシカちゃんがきっちり採集していたから問題ないはずだ。
ただ、成果ゼロだったロドニーがその後家でどういう扱いを受けたのかまでは知らない。
間違っても家族会議でつるし上げられたなんてことはない、と思う。
……たぶん。
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