第41話 告白
それから俺は村長を別働隊の遺体がある場所に案内し、さらに壊れた柵の場所を教えたところでようやく解放された。
どうやら別働隊の件はご子息様に伝わっていたものの、村長には伝わっていなかったようだ。
つまり、ご子息様が自分勝手な判断でその可能性は無いと判断したようだ。
やれやれ。どうしようもないな。
一方で柵が壊されていたり腐っていたりしたことを伝えると村長はかなり焦った様子だった。
ご子息様はどうしようもないが、搾取することばかり考えていても一応村長としての自覚はあるらしい。
まあ、自分の村を守らないと今後の搾取に事欠くからなのかもしれないが……。
そんな心理的疲労も相まってかずっしりと重たい体をなんとか引きずり、自宅の前まで戻ってきた。
すると、ジェシカちゃんが飛び出してきた。
「ユートさん!」
「ああ、うん。もう大丈夫だよ。盗賊も全滅させたし、柵が壊れていることもちゃんと村長に報告しておいたから」
「そうじゃなくて! ユートさん、無事でよかったです」
「あ……うん。ありがとう」
「ユート!」
「ユートさん!」
ジェシカちゃんに続いてロドニーとブレンダさんも飛び出してきた。アニーちゃんは出てこないので、きっともう眠っているのだろう。
「ああ、ロドニーも無事だったんだな。良かった」
「当然だ! 俺らはほとんど正門のところで見てただけだ。それよりユート、お前なんであんな危険なことをしたんだ!」
「え?」
「一人で森の中から奇襲するなんて、お前、殺されたらどうするんだ!」
「あ……まあ、言われればそうだな。それまでのことですっかり感覚が麻痺してたよ」
「それまでのこと?」
「ああ。実は――」
別働隊を一人で撃退した話をすると、ロドニーはなぜか脱力してしまった。
「おい、ロドニー?」
「いや、まあ、その、なんだ。ジェシカを助けてくれてありがとう。それにこの村もだ。ユート、お前は俺たちのヒーローだ」
「おいおい、そんな大げさな」
「お前がいなけりゃジェシカは無事じゃすまなかった。村だってもしかしたら焼き払われていたかもしれねぇ。礼なんていくら言っても言い足りねぇくらいだ」
「……」
だが、今回の一件は本当にたまたまだ。ジェシカちゃんたちを助けられたのは運が良かっただけだし、別働隊を殲滅できたのだって今冷静になって考えれば運が良かっただけだ。
本当は村長に俺が直接話し、村の男たちも連れて行動するべきだった。
ご子息様の勝手な判断もそうだが、俺の行動だって褒められたものじゃない。
しかしそんな反省をしている俺をロドニーは真剣な眼差しで見てくる。
「ユート、お前はこんな村で燻ってるべき男じゃねぇ」
「え?」
「せっかく天下のロックハート商会からお声がかかってるんだ。行ってこいよ」
「……ロドニー」
もともと決心していたことではあるが、こうして背中を押してもらえるとは思わなかった。
「ジェシカ、分かってるよな?」
ロドニーの問いにジェシカちゃんは小さく
「……あの、ユートさん」
「うん」
ジェシカちゃんの声は震えている。
「今日は、助けてくれて、ありがとうございました。すごく、すごく嬉しかったです」
「うん。無事でよかったよ」
「その……ユートさんはとてもすごい人です。だから、きっとこんな小さな村じゃなくって、その、ロックハート商会でもきっと、きっと……」
ジェシカちゃんの声だけでなく、全身が小刻みに震えており、そんなジェシカちゃんをロドニーとブレンダさんはじっと見守っている。
「ユートさん、ロックハート商会でもがんばってください。ユートさんならきっと、ロックハート商会でも偉くなれると思います。私、この村から応援してますから」
潤んだ瞳でジェシカちゃんはそう言うと、ニッコリと微笑んだ。涙をこらえたその笑顔がなんともいじらしくて、胸がきゅっと締め付けられる。
ああ、そうだよな。ジェシカちゃんに、先にこんなことを言わせるなんて。
泣かせるのが嫌だなんて言い訳をして、優柔不断な態度を取り続けるなんて本当に最低だった。
だが、俺だってちゃんと決めたんだ。今、ここでちゃんと言おう。
「ジェシカちゃん、ありがとう。俺、やっぱりロックハート商会の人と一緒に行こうと思ってるんだ」
「はい」
「俺、ジェシカちゃんのことは妹のように思っているからさ。そのうちまた会いに来るよ」
「はい」
そう言って微笑んでくれたジェシカちゃんの頬を一筋の涙が伝ったのだった。
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次回更新は 2022/07/18(月) 12:00 を予定しております。
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