第40話 襲撃、再び(4)
正門に陣取る盗賊たちの側面にある森の中にやってきた。
村長と盗賊はいまだに問答を続けており、盗賊たちの陣取っている位置は先ほどと変わっていない。
ずっと門からの距離を保ち続けているので、村のみんなの腕では矢が届かない距離を見計らっていると見て間違いなさそうだ。
「だからよ! 村の女が行方不明になってんだろ? 俺らなら見つけてやれるぞ?」
「バカなことを言うな!」
盗賊の言葉に村長が怒鳴り返した。
全くもって村長の言うとおりだ。自分たちで誘拐しておいてなんて言い草だ。
それにボスが殺されてジェシカちゃんたちが逃げ出していることは知っているだろうに!
いや、そうか。きっとこれは単なる時間稼ぎなのだろう。
降伏すればそれでよし。そうでないならば別働隊を村に侵入させ、村を焼くなり人質を取るなりする作戦だったのだろう。
ああ、どうやらこいつらは随分と頭が回る連中のようだ。
だが残念だったな。その計画はすでに破綻している。
それにあそこにいる連中は別働隊が壊滅したことを知らない。
ということは、先制攻撃を仕掛ければ混乱させられるはずだ。
そしてこの距離であれば俺は十分に狙撃できる。
しかもあちらは松明を掲げているため明るく、こちらは暗い。
これまでと同様、一方的にこちらだけが相手を確認できるという有利な状況だ。
村長も中々手出しができない状況のようだし、俺が攻撃をすれば状況が変わるはずだ。
よし! まずはあの村長と話している男を狙うとしよう。
もしかするとあいつが盗賊たちの新しいボスかもしれない。
矢を番えると引き絞り、再び神経を集中する。そしてタイミングを合わせて、射つ!
パシンという小気味のいい音と共に放たれた矢はまたも闇に溶ける。
「ああ? そっからじゃ矢なんかとど――」
俺の放った矢は寸分
俺はすぐさま二の矢を番え、引き絞る。
「誰だ! おおおおおい! ディィィィィック! やれぇぇぇぇ!」
男が倒れたのを見た盗賊の中の一人が大声で叫んだ。ディックというのは村に忍び込んでいた男のうちの誰かだろうか?
よくは分からないが俺はタイミングを合わせて二の矢を放った。
「がっ⁉」
闇に溶けた矢は数秒で盗賊のうちの一人に命中する。
「ディィィィィック! やれぇぇぇぇ!」
さらに盗賊が叫ぶものの、ディックとやらがなんらかの行動を起こすことはなかった。
「お、おい!」
「やべぇぞ?」
計画どおりにいかず、また二人を闇の中からの矢で失った盗賊たちに動揺が走る。
その隙を逃さず俺は三の矢を引き絞り、放つ!
「うわっ」
狙いが甘かったのか急所に命中とはならなかったが、盗賊の肩口に命中した。
「あっちだ! あっちに誰かが隠れてるぞ!」
矢が命中した男が俺のほうを指さしてそう叫び、盗賊たちの視線が一斉にこちらを向く。次の瞬間、村長の号令が響いた。
「村を守れ! 打って出るぞ!」
門が開かれ、それぞれが思い思いの武器を手に村の男たちが突撃を仕掛ける。
「ええい! 村人どもなんざ俺たちの相手じゃねぇ!」
そうして俺から注意が離れたすきに俺は次の矢を番えて引き絞り、狙いを定めて放った。
パシンという音に反応した盗賊たちは身を固めてこちらに視線を向けるが、暗いところから明るいところに向かって飛んでくる矢をそう簡単に視認できるものではない。
案の定避けきれなかった盗賊の肩口に矢がしっかりと命中する。
「ぐあっ」
「このクソ野郎が!」
闇の中から狙撃される恐怖からだろうが、村を襲うようなクソ盗賊にクソ野郎などとは言われたくない。
次の矢を放とうとしたが、すでに村の男たちが盗賊たちに襲い掛かっていた。村の男たちは必死の形相で斧や棍棒、ナイフなどで盗賊たちをボコボコにしていく。
もはや戦いと呼べるような状況ではなかった。パニックに陥った盗賊たちは我先にと逃げ出し始め、それを村の男たちが後ろから捕まえていく。
もう大丈夫だろう、と思ったが盗賊の一人がこちらに向かって走ってきた。
狙撃手がいると分かっている方向に向かってくるなんて!
どうやら完全にパニック状態のようだ。
俺は矢を番えると冷静に狙いを定め、そいつの右膝を射貫いた。
「がっ!?」
続いて俺は残る左膝を射貫く。
盗賊が完全に動けなくなったことを確認し、俺は戦況を確認する。
どうやらもうすでに勝負あったようだ。
盗賊たちは村の男たちによってボコボコにされており、あちこちに転がっている。
「おーい!」
「む? ユートか?」
俺が大声で村のみんなを呼ぶと、村長が気付いてこちらを見てきた。俺は弓を大きく振って見つけられるようにしながら用件を伝える。
「ここで盗賊を一人、動けないようにしている! 誰か連行するのを手伝ってくれ!」
「む! おい! 行け!」
「はい!」
村長が命令をすると、ご子息様が村の男たちを三人連れてやってきた。
「一応尋問はしますよね?」
「……ああ。おい! 連れていけ」
「はい!」
二人がそれぞれ片方の腕を拘束し、もう一人は両足を持って盗賊を運んでいく。
「それから村の中で十人、入り込んでいた盗賊を殺しています」
するとご子息様は不機嫌そうに眉をピクリと動かした。
「あれ? 聞いてませんでしたか? 別働隊がいる可能性があるって」
「チッ」
ご子息様は顔を真っ赤にしながら舌打ちをした。
あ、これはもしかして?
ご子息様はそのまま一言も発することなく、村長のところへ戻っていったのだった。
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次回更新は 2022/07/16 (土) 12:00 を予定しております。
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可能な範囲で構いませんので応援していただき、読者の皆様の「続きが読みたい」という想いをを出版社様にお伝えいただけますよう何卒宜しくお願い申し上げます。
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