第6話 ドロップアイテム

2021/06/17 誤字を修正しました

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「おっ。ラッキー。薬草があるぞ」


 次の獲物を探して村長様に献上すべく森の中を歩いていると、ロドニーが突然そう言って地面に生えている何の変哲もない草を引っこ抜いた。


「それが薬草なのか?」

「ああ、そうだぜ。こいつを乾燥させておけば、たまにやってくる行商人が五~十デールくらいで買い取ってくれるんだぜ」

「ふーん。そうなのか」


 なるほど。デールというのはやはり通貨の単位だったらしい。


「あとどれくらいかは分かんねぇが、こうやって金を貯めて農奴から平民にしてもらうんだ」

「……そもそも、農奴って何なんだ? 奴隷とは違うのか?」

「ん? そんなことも知らないのか? 全然違うぞ。農奴は財産も持てるし結婚もできるからな。それに、身代金を払えば農奴から平民にしてもらえるからな。そうすれば好きな場所に行って暮らすことだってできるんだ」

「なるほど」

「まあ、とは言っても中々貯まらないけどな」


 ロドニーはそう言って豪快に笑った。その身代金がどのくらいの金額がなのかはわからないが、こんな場所でお金を貯めるのはかなり大変そうだということは分かる。


 がんばれと声を掛けようとした瞬間、目の端にまたあの『▼』のマークが飛び込んできた。


 ん? 今度はなんだ?


 マークの指している場所を見てみると、なんと地面に先ほどロドニーが引っこ抜いた草が転がっている。しかも、なぜか半透明になっていて淡い光まで放っているのだ。


「お、おい。ロドニー。足元のそれは……」

「ん?」


 ロドニーは俺の指さした場所を見ると首を傾げた。


「どうした? 俺が掘った場所に何かあるのか?」

「え?」


 ロドニーにはあれが見えていないのか!?


「い、いや。何でもない目の錯覚だ」

「そうか。いきなりだし、やっぱり疲れてるのか?」

「いや、大丈夫だ。行こうぜ」

「そうか? 分かった。さあ、獲物を探すぞ」

「ああ」


 そうして歩きだしたものの、やはり気になるのでつま先でちょんとその光る草を触ってみる。


 すると『薬草を手に入れた』というログメッセージが流れてきた。


 え? もしかして今ので拾ったことになるのか?


 慌ててインベントリの中を覗き込むと『薬草×1』となっていた。


 お、おおう。マジか。


 これはもしかしてドロップアイテムというやつではないか?


 いやいやいや。どうなってるんだこのシステムは!?


 あいや、でも待てよ? これができるなら、もしかして色々と稼ぎ放題なのでは?


「おーい。置いていくぞ?」


 おっと。ロドニーを待たせてしまった。ひとまずこの不思議な現象はさておこう。


「ああ。悪い」


 俺はそう返事をし、ロドニーの後を追いかけるのだった。


◆◇◆


 あれから二匹のウサギを仕留めたところで今日の狩りは終了となり、俺は自宅に帰ってきた。


 あれだけがんばったというのに俺が分けてもらえたのは三百グラム程度の肉だけで、あとは全て村長様のものとなってしまった。


 村長様がトドメを刺しているのだから村長様の獲物ということらしいが……。


 はっきりいってこんなものは割に合わない。だが逆らったところでどうこうできるわけでもないので、今のところは文句を言わずに素直に従っておいた。


 それから途中で発見したあの不思議な現象だが、やはりドロップアイテムを俺だけが拾えるということで間違いがなさそうだ。


 その証拠に、俺のインベントリの中には獲物を探していたときに見つけた薬草が五つ、イノシシの肉が一つ、それからウサギの肉が二つと毛皮が一つ入っている。


 このイノシシの肉は貰った肉ではなくドロップアイテムから回収したものだ。最初に仕留めた現場へ戻って確認するとそこにもやはり『▼』のマークがあり、その下にイノシシの肉がドロップしていたのだ。


 ちなみに毛皮の数が少ないのはドロップしないことがあったからだ。SCOでもそうだったが、毛皮はどうやらレアドロップ扱いになっているらしい。


 こんな便利な能力があるのならばさっさとこんな村から脱出してしまったほうが良いような気もするが、どうせ逃げ出すならこの国ではなく別の国に行ってしまおうとも思う。


 いっそのこと、魔族と手を組んだとかいうフロンツ帝国とやらに逃げ込むのもありかも知れない。


 だって、何も知らない人間を拉致してきて、戦えなどと強要しているこの国がまともな国とは到底思えない。


 それに魔族と手を組んだなどと言っているが、それが本当のことなのかは不明だ。そもそもそれが悪いことなのかすらもわからないのだ。下手をすると宗教が違うだけで魔族扱いしている可能性だってゼロではない。


 とはいえ、そのあたりの判断をするにはあまりにも情報が不足しすぎている。


 まずはその行商人とやらに話を聞き、多少は外の情報収集してからでも逃げるのは遅くないと思う。


 それにこの世界がSCOの世界と同じならば魔物がいるということだってあるはずだ。ということは、もしここを逃げ出したとしても今の俺が魔物に襲われたらタダじゃ済まないはずだ。


 そのためにも、まずは職業を増やして戦えるようにしておかなければならない。


 今の俺の村人のレベルは6だ。この調子であれば転職可能な目安の10にはすぐに到達すると思う。


 よし! 少しずつこの状況を打開する方法が見えてきたぞ。


 俺はSCOを初期から最後までプレイしたのだ。その知識をフルに使って、まずは何かあったときに自己解決できる力を手に入れる。


 そんなことを考えていると家の扉がノックされるとすぐに扉が開けられた。別に鍵をかけ忘れたのではなく最初からついていないのだ。


 多分だが、ガスター開拓村の人たちは他人の家へ勝手に上がりこむのが普通のことなのだと思う。日本でも田舎のほうではそういうところがあると聞いたが、都会に暮らしていた俺としてはどうにも慣れない。


「あの、ユートさん。こんにちは」

「あ、ジェシカちゃん。こんにちは」

「はい。えっと、よかったらうちで一緒に食べませんか? お父さんがぜひって」


 なるほど。こういったところも田舎らしいかも知れない。一人で食べるよりは大勢で食べたほうが楽しいに違いない。


 そう思った俺は二つ返事で了承すると、ロドニーたちの家へと向かうのだった。


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