第5話 寄生してみた

 ガスター開拓村に到着した翌日、俺は朝っぱらから村長様に呼び出されて村の入口へとやってきた。簡素な木の柵で囲われた村の出入り口となる門の前にはすでにロドニーや他の男たちも集まっていた。


「よう。来たな」

「ああ。おはよう。今日は何をするんだ?」

「聞いてないのか? 今日は狩りに行くんだよ」

「狩り?」

「ああ。肉と毛皮を手に入れるのさ」


 なるほど。だが、俺が役に立てることはなさそうだが……。


「やあ。準備はできているかね?」


 そんな話をしていると村長様とご子息様がやってきた。


「もちろんです。準備は万全です!」


 ロドニーがそう答えると、村長様は「ご苦労」とだけ言ってそのまますたすたと森の外に向かって歩き始めた。


 俺たちは黙ってその後ろを追いかけるのだった。


◆◇◆


「それじゃあ、貴様と貴様。追い込みを掛けてこい」


 村長様は俺とロドニーにそう命令した。つまり、猟犬の代わりをして俺に獲物を探して村長様の前まで連れてこいということらしい。


 何やら無茶苦茶な命令ではあるが、逆らって良いものかもわからないので黙ってロドニーについて森の中へと歩きだす。


 そうしてしばらく歩いていると、大きなイノシシを発見した。


「なあ、ロドニー」

「ああ。あいつを村長様のところへ追い込むぞ。俺が回り込むから、お前はあいつがあっちに向かうように追い立てるんだ」

「わかった」


 そう返事をしたところで俺はふと気が付いた。SCOにはパーティーというものがあって、パーティーを組んでおけば誰が倒しても経験値は均等分割されるはずだ。


 よし。


 俺はメニューを開くとパーティーからパーティー招待を選んでみた。すると、なんとロドニーの頭上に『▼』のマークが現れたではないか!


 一方の俺のメニュー画面には『ロドニー』と出ていたのでそれを選んでみた。


 すると今度は『ロドニーがパーティーに加わりました』とメッセージが表示された。


 え? マジか!? 相手の承諾なしにパーティーへ加えられるのか?


 SCOでは相手が承諾しないとダメなはずなのだが……。


「おい。準備はいいか?」

「え? あ、ああ。大丈夫だ」


 気付けばロドニーが不思議そうな表情で俺のことを見つめていた。


 しまった。メニュー画面に夢中でロドニーのことを忘れていた。


 だが、どうやら本当にロドニーをパーティーに加えられているらしい。その証拠に、ロドニーの頭上には『▼ロドニー』と表示されているのだ。


 まさかの展開だが、これでロドニーがイノシシを倒してもその経験値は分割されて俺にも入ってくるはずだ。


 ん? ということは、あの村長様も?


 よし。戻ったらパーティーに加えておこう。


「おい! 行ったぞ」


 おっと。


 気が付けばロドニーに追われたイノシシがこちらへと走ってきていた。俺はその辺りに落ちていた大きな木の棒で地面を叩いて威嚇する。


 するとそれに驚いたイノシシは村長様のいるほうへと走っていった。


「追うぞ!」

「おう!」


 俺はイノシシを追い立てるべく駆け出したのだった。


◆◇◆


「ふむ。中々使えるではないか」


 村長様は上機嫌な様子でそう声を掛けてきたが、息が上がってそれどころではない。


 散々山の中を駆けずり回り、なんとか一匹のイノシシを村長様の目の前へと追い立てることに成功したのだ。


 そのイノシシを村長様は手にした槍の一撃で仕留めてしまった。どうやら騎士爵とやらは伊達ではなく、本当に強かったらしい。


 ちなみにパーティーに加えるのはうまくいって、イノシシの経験値は俺にも分割で入ってきてレベルはもう4に上がった。

 

 それと、パーティーに加えたことで分かったのだが村長様の職業は基本職の戦士でレベルは14だった。SCOであれば基本職一つでレベル14はあり得ないほど低いといえるだろう。だが、この世界においてそれがどのくらいなのかはよくわからない。


 ちなみにロドニーの職業は村人でレベルは29だった。村長様に比べれば高レベルだが、村人は経験値補正があるので判断は難しい。


 ただ、レベルが29なのに転職していないという状況はSCOでは考えられない。ということは、少なくともロドニーはメニューを開くことができないのではないかと思う。


 そしてそれはきっとロドニーだけではなく他の人たちもそうなのではないかと思う。


 前にも話したとおり、村人の職業を持ってさえいればメニューから転職できるのだ。


 俺はまだレベルが10になっていないので選ぶことはできないが、それでもメニューに項目は表示されている。それも、メニューの奥に隠れているのではなく開いた最初の画面にあるのだ。


 だから村人が転職できることはメニューを開けばすぐにわかるはずだし、そうであれば村人は何もできない無能なんて評価にはならないはずだ。


「おい。貴様。何をへばっているのだ。さっさと次の獲物を連れてこい!」

「は、ははっ!」


 こうして俺は村長様とご子息様に獲物を献上すべく、再び森に分け入るのだった。


 顎で使われるのは癪だが、経験値は美味しく頂いているので良しとしよう。


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