第16話 盗賊襲来

2022/08/18 ご指摘いただいたステータスの表記漏れを修正しました。ありがとうございました。

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 あれから二週間ほどが経過した。どうやら今の季節は夏らしいのだが、日本とは違って蒸し暑いということはい。気温はそこそこ高いもののカラッとしており、かなり過ごしやすい部類なのではないかと思う。


 この二週間でまた村人のレベルが10になったため、今度は薬師を取得した。これで採集してきた薬草を薬へと加工できるようになったというわけだ。


 今まではあのタークリーに二束三文で買い叩かれていたが、これからはきちんと加工してから売れる。こうなればもっと良い値段で売れるはずだ。


 それと、このひと月弱の間に狩人のレベルが15に到達した。


 これがSCOというゲームの世界であれば最初の数時間で到達するレベルなのだが、現実は中々に厳しい。


 モンスターが無限湧きするわけもなければレベルに合わせて狩場の変更もできないこの世界において、たったひと月でレベル15というのはかなり早い気がする。


 それもこれも、すべては村人の固有特性である経験値百倍のおかげだろう。


 他の職業も少しずつレベルが上がって、ステータスは今こんな感じだ。


────

名前:ユート・タナカ

種族:人間

性別:男性

職業:

 村人Lv. 10

 採集士Lv. 12

 木工師Lv. 10

 石工師Lv. 7

 狩人Lv. 15

 革工師Lv. 5

 薬師Lv. 1

 村人Lv. 1

ステータス:

HP:16/16

MP:1/1

STR:31

VIT:16

AGI:31

INT:1

MND:1

DEX:79

LUC:13

────


 ステータスは各職業によってレベルが1上がると伸びる量が決まっていて、全職業のものを合計するとこの画面に見えているステータス値になる。


 ただ、生産職は DEX か LUC の値が1上がるだけなので今のステータスはほぼ狩人のものだ。


 さて。今日は久しぶりに狩りをお休みにして色々と試してみようと思う。


 一つは薬師を取ったので傷薬を少し作っておきたいのと、もう一つはその次の職業に向けた準備をしておきたいのだ。


 俺はこのまま全ての生産職を取ってしまうつもりだが、それらの生産職の中には専門の設備が必要になる職業があるのだ。


 たとえばSCOでは硝子ガラス師や陶芸師、鍛冶師といった職業で生産をするためには炉が必要で、これらの炉は石工師で作成することができる。


 そこで、その炉を設置して加工をするための準備として、燃料となる木炭を作るための炭焼き窯を作るための準備として、自宅の庭の草刈りをしてやっておこうというわけだ。


 回りくどい作業ではあるが、SCOのこういった部分もプレイヤーを引き付けていた要素の一つでもあるのだ。


 ちなみに炭焼き窯は誰でも作れるが、石工師であればメニューから一発だったりする。



 さて。薬の調合台はすでに設置済みなので、明るいうちに草刈りを終わらせてしまおう。


 そう思って黙々と庭の草刈りをしていると、突然カンカンカンカンという早鐘の音が鳴り響いた。


 ん? なんだ? これは。


 どうも他の村人たちが慌てているようだが何かの警報だろうか?


「おい! ユート! 盗賊だ! 早く弓矢を持って門に集まれ!」

「盗賊だって!?」

「鐘がなってるだろうが! 女子供を守るんだ!」

「あ、ああ」


 俺は言われるがままに弓を持ち、門へと駆け出すのだった。


◆◇◆


 俺が門に到着すると、すでにご子息様を含め村中の男たちが集まっていた。


「チッ。遅いぞ。また女と遊んでいたのか?」

「いえ。ですが遅れてすみません」


 ご子息様に舌打ちをされ、嫌味を言われたが俺は素直に謝罪した。


「おい! お前! 外の連中を射殺せ!」


 言われて視線を門の外に向けると、汚い格好をした十人ほどの男が金属製の剣や槍と粗末な木製の盾を手にこちらの様子を窺っている。


「え……? まだ攻撃されていないのにですか?」


 いくら武器を持っているとはいえ、殺してしまうのはやりすぎではないだろうか?


 しかしその言葉にご子息様だけではなくロドニーたちも冷ややかな目で俺を見ている。


「お前は馬鹿なのか? 盗賊など見かけたら殺すものだろうが!」

「そうだぞ、ユート。馬鹿なことを言っているんじゃない。あいつらを逃がせば、今度はより多くの仲間を引き連れて襲ってくるんだぞ?」

「い、いや。それは……」


 俺がおかしいのだろうか? 日本では殴られたって殴り返さずに警察を呼ぶのが正しいやり方なはずだ。


 いや、だが……。


 ここは日本ではないのだから常識が違うと言えばそうなのだろうが……。


 でも、俺が人を殺す? そんなこと……。


「ええい! この役立たずが! 腰抜けは引っ込んでろ! 誰もお前など助けんからな!」


 ご子息様はそう言ったきり俺には見向きもせず、命令を出し始めた。


「矢を射掛けろ!」


 ご子息様の指揮のもと、村の男たちが一斉に矢を射掛け始めた。


 それに対して盗賊たちは木の盾を前に構えて突撃を仕掛けてきた。


 え? どうして逃げないんだ! そんなことをしたら!


 俺の予想どおり盗賊たちは一人、また一人矢を受けて倒れ血だまりを作っていく。


 だが弓の扱いに慣れていない村人たちの矢の命中精度は低く、半数以上の盗賊が門の前に辿りついてしまった。


 そして木製の簡素な門を力ずくで破壊して村へと侵入してきた。


「お前ら! 応戦しろ!」


 ご子息様の命令で村の男たちは石の斧を手に持って盗賊に立ち向かっていく。


「おい! ユート! お前は一体何をやっているんだ! なんでその弓で盗賊を殺さないんだ!」

「あ、お、俺は……」


 ロドニーに怒鳴られるが、人が死ぬという場面があまりに衝撃的過ぎて動くことができない。


「チッ」


 ロドニーも舌打ちをすると斧を手に盗賊へと向かっていく。


「ブレンダと娘たちは俺が守る!」


 ロドニーは斧を盗賊の膝に力いっぱい叩きつけた。鈍い音と共に盗賊の男は倒れ、そこを村の男たちが寄ってたかってボコボコにしていく。


 俺はその様子をただただ呆然と見守るしかなった。


 逮捕して裁判を受けさせなければいけないのではないだろうか?


 だがご子息様にも村の男たちにもそんな様子は微塵もない。


 こいつらは盗賊たちを、人間を殺すということしか考えていないのだ。


 今まで隣人として仲良くしてきたはずの彼らが、だ。


 ……俺は、どうしてこんなところにいるんだろう?


 凄惨な現場を前にそんなことを考えていたのだった。

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